活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

潰玉

2009-10-29 00:49:42 | 活字の海(書評の書評編)
2009年10月11日(日) 琉球新報 10面 読書欄より
コラム記:池上冬樹(文芸評論家)
筆者:墨谷渉(作家)
サブタイトル:肉体への暴力と偏愛


※ こちら(文藝春秋のHP)でも、書物の出だし部分が立ち読みできます



また、とんでもないタイトルの書物が出たものだ。

しかも。
それが芥川賞の候補にまで残り、小川洋子氏からも賛辞された。
というのだから。

玉を潰す。と書いて。

「潰玉」(かいぎょく)

玉とは、文字通り男性器の俗に言う金玉である。

では、それを潰すとはどういうことなのか。

本書の主人公は、金融関係のサラリーマンの男性。青木。
彼が、ふとしたことで受けた、女子高校生からの金玉への蹴り。

悶絶する苦悩の中で、彼はそこに喜びを見出していく。

様々な女性から、金玉を蹴られるようなシチュエーションにもって
いっては、その悶絶を楽しむ青木。

しかも。
彼に痛烈な蹴りを食らわした女子高校生・亜佐美も又。
男性の金玉を蹴り上げる暗い快感に目覚めていく。

やがて、二人は導かれるように再会。
二人の金玉への思いはエスカレートしていき、最後には標題を実践
しようとするに至る…。


こう書くと、本当にトホホな三文エロ小説のデジャブーのような
梗概だけれど。


そうした類の本と、本書との決定的な違いとは。

本書が終始一貫して取り上げているものは。
性的な快感ではなく、自らの身体に生じた暴力を観察し、分析する
ことによって分解していくという実に歪んだ快感なのだ。

それが故に。
本書には、『勃起や射精の描写は皆無(!)。』。

ひたすらに。
青木は、受けた蹴りを反芻しながら、こちらの角度からの方がより
良かった等と暴力の分析と、周囲の観察を続けていく。


しかも。
こうした小説に有り勝ちなパターンとして、主人公をそうした情動に
駆り立てる動機の掘り下げが無いというのも、特徴的である。


動機に、幼少時の出来事のトラウマ等を宛がっていれば、それなりに
格好はつくだろう。

だが、著者はそれを由としないのだ。


その結果。

『あくまでもその時々に生起する表面的な欲望がとらえられる』
こととなるのだ。


それが、小説としての体を為すのか?
未読の僕としては、物凄く懸念が生じるところである。

もっとも。
そうしたことは、当然誰もが感じる疑問であるからには。

作者の狙いは、その先にこそ有る。そう思ってよいだろう。

その狙いを、書評子はうまくまとめている。
以下、引用しよう。

『いわば性を語りながらひたすら欲情を喚起することを拒否する
 反ポルノグラフィーの成果。一つの才能だろう。』


確かに、安易な因果論に持ち込まなかった点は評価しよう。

そして。
読者の、なぜ彼らをそのような行動に駆り立てる源泉は何か?
という疑問には一切答えずに。

ひたすら、泡沫(うたかた)のように浮いてくる感情を分析し、
解体していくことに徹っして物語を帰結させてしまう。

誰もが読みたいとは思わないような物語を紡ぎ、しかもそれが
芥川賞候補にまでなるのだから。

確かに、作者には才能が有るのだろう。

そのことを、小川洋子氏は帯に書かれたキャッチコピーにもある
台詞で賞賛する。

『解釈ではなく、観察された暴力にこそ快楽は宿る。
 それを証明する一冊』


う~ん。
証明されなくてもよいから、読みたくないぞ。

ますますその思いに駆られながらも、あまりの衝撃的な内容に
思わず今回取り上げてしまった次第である。


この世界。
まだまだ、奥が深い。

(この稿、了)






潰玉(かいぎょく)
墨谷 渉
文藝春秋

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5 コメント

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Unknown ( )
2010-01-04 21:31:31
うわ・・・やだな・・・(;´`)

こんなのが芥川賞にならなくてよかった・・
返信する
Unknown (MOLTA)
2009-11-05 00:38:31
>小川洋子っ子様

こんにちは。
来訪とコメント、ありがとうございます。

何ともいえなさそうな作品ですが、小川洋子さんの絶賛振りが期待感をそそりますよね。

是非お読みになられたら、ご感想をお教えください。
返信する
Unknown (小川洋子っ子)
2009-11-03 18:16:21
おもしろそうですね。

今度、是非読みたいと思います。
返信する
Unknown (MOLTA)
2009-10-31 06:27:03
いえ、だから入ってませんってば(笑)。
返信する
Unknown (シャドー81)
2009-10-30 23:54:22
そうですか、MOLTAさん、ついにそう言う世界に入っていきましたか。

まいりました。
返信する

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