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目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

SOS黙殺では悲しすぎる  記者の目(前編)

2009-05-09 00:23:22 | 活字の海(新聞記事編)
記者:中村かさね(中部報道センター)
毎日新聞 2009年2月3日(火)朝刊4面オピニオン面より
サブタイトル:支えなき悲惨 知ろう
       

■失業者「希望も、頼るものも、何もない」

※ この記事の原文(と、それに対する読者のコメント)は、
  こちらで読めます



『今の自分はただ生きるためだけに生きている。
 希望も、頼るものも、何もない』

冒頭から切実な述懐で始まる、このコラム。
「うつろな表情と小さな声で」その言葉を発しているのは、
昨年12月に失職し、厳寒の中で2週間近くも野宿を続けている
元派遣社員の男性(当時31才)。

インタビューをしているのは、毎日新聞の中村記者。

以降、中村氏のペンは、日系ブラジル人と日本人失業者のメンタリ
ティの違いへと進んでいく。

異郷にあればこそ、自らが帰属するコミュニティの大切さを実感し、
大切にして、支え、支えられている日系ブラジル人達。

それに対して日本人の場合は、一頃からすると実態は違うという
認識が広がってきたとはいえ、一億総中流という均質化した社会
意識が強いためか、社会の範疇外に居るものに対しての排斥、
そこまでいかなくとも無関心が横行し、それらが日本人失業者の
孤独を生み出す源泉となっていると、解説する。

そして、政府が早急にセーフティーネットを整備し、これら失業者
に対する衣食住を保証するとともに、正規雇用者は非正規雇用者の
犠牲の上に立った「経済の恩恵」を享受してきたことをきちんと
鑑みて、そうした人たちのSOSを黙殺してはならないとして
コラムは締め括られる。


だが…。
記者が問題にしている非正規雇用者の雇用の確保については、
そもそも無理があるのではないか?

日本の産業構造が、特に製造業を中心に雇用の海外流動性を
高めることで、製造コストの低減や現地雇用の増大による
流通コストの低減、更には現地生産による輸入障壁のクリア
といった課題解決をしてきたことは、周知の事実である。

そのことは、必然的に国内で必要とされる労働力の変質を
伴う結果となり、

 ① より安価な製造力を求めて、製造拠点の都市圏から
   地方都市へのシフト

 ② 派遣や期間工といった雇用形態の多様化による雇用
   調整機構の発達

 ③ 高付加価値型労働力へのニーズの特化

といったパラダイムシフトを生じさせた。

こう書くとしかめつらしいが、要は国内ではこれまでの
単純労働力の提供では食えなくなってきた、少なくとも
通年の安定した仕事は得にくくなってきた、ということである。

そして、アリとキリギリスの寓話を出すまでも無く、そうした
環境の変化に対して、どこまで準備を整えてきたかが、今の
境遇を分かつ要因の、全てとは言わないがかなりなウエイトを
占めているのではないのだろうか?

かつての女工哀史のように、そうした準備も出来ないほどの
劣悪な労働条件だったのだろうか?

派遣契約が終了、あるいは打ち切られて、退寮を余儀なくされた
時、その直後から住むところにも困るほどの生活困窮が生じる
ことに対して、記者はSOSを黙殺するな!と声高に訴えるが、
彼らはそれまでの間、そうした事態に対して一切の準備をせずに
収入の全てを消費に回していたとすれば、そのSOSは正しく
キリギリスのそれでは無いのか?

失業保険の給付。
ハローワークによる職業斡旋。
公共職業訓練学校による様々なスキル訓練の実施。

こうしたものは、セーフティーネットとは言わないのだろうか?

年末以降の雇用不安情勢を受けて、農業や介護といった職種が
求人活動を行った際にも、殆ど応募が無かった事例も報道等で
明らかになっている。

緊急措置としての無料宿泊施設に入っていながら、尚も職を
選ぶ。
全ての人、全てのケースがそうだという乱暴な論旨の展開を
する積りも無いが、僕には中村記者の目と、目線を合わせる
ことが、記事の最後まで読んでも出来なかった。

この感覚は、僕だけのものではないことは、冒頭にリンクを
張った元記事への一般読者のコメント欄を見ても明らかで
ある。

中村記者には、是非そうした疑念に答えて、なぜこのSOSが
発せられるようになったのか? それに対する本当の意味での
セーフティネットとは何か? について、続報して欲しいと
思う。

それでは、ネットではこの問題は、どのように論じられている
のか?

(この稿、続く)



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