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やはり懸念されたことが


 そして実際、この〝「新発見」の賢治書簡下書252c群及び「推定群⑴~⑺」の公表〟(以後、この公表のことを〝「新発見」の書簡下書252c等の公表〟と略記する)後、それまでは一部にしか知られていなかった、賢治にまつわる無名の〈悪女伝説〉が、濡れ衣の可能性が高いのにもかかわらず実名を用いた〈悪女・高瀬露〉に変身して、一気に全国に流布してしまったということを否定出来ない。ちょうど先に紹介した、
 賢治の年譜としては最も信頼性が高いとされる『校本』の年譜に記されたことで、それを「説」ではなく「事実」として受け取った人も少なくなかったであろう。 
という危惧と同様で、「高瀬露」の名前が登場するこれらの「推定」が『校本全集第十四巻』に公表されたことで、「推定」を「事実」として受け取った人も少なくなかったであろうことに依って、賢治の周辺に〈悪女〉がいたという風説の〈無名の悪女伝説〉が、〈高瀬露悪女伝説〉に変身して一気に全国に広まっていったという蓋然性が高い。
 実際、二〇〇七年(平成19年)に出版されたある本では、
 感情をむき出しにし、おせっかいと言えるほど積極的に賢治を求めた高瀬露について、賢治研究者や伝記作者たちは手きびしい言及を多く残している。失恋後は賢治の悪口を言って回ったひどい女、ひとり相撲の恋愛を認識できなかったバカ女、感情をあらわにし過ぎた異常者、勘違いおせっかい女……。
とか、はたまた、二〇一〇年(平成22年)に出版された別の本でも、
 無邪気なまでに熱情が解放されていた。露は賢治がまだ床の中にいる早朝にもやってきた。夜分にも来た。一日に何度も来ることがあった。露の行動は今風にいえば、ややストーカー性を帯びてきたといってもよい。
というように、やはり懸念されたことが起こっていたと言える。


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