宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈七四五 〔霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ〕〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四五     〔霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ〕    一九二六、一一、一五、    霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ       影を落す影を落す       エンタシスある氷の柱    そしてその向ふの滑らかな水は    おれの病気の間の幾つもの夜と昼とを    よくもあんなに光ってながれつゞけてゐたものだ       砂つちと光の雨    けれどもおれはまだこの畑地に到着し . . . 本文を読む

〈七四四 病院〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四四      病院      一九二六、一一、四、    途中の空気はつめたく明るい水でした    熱があると魚のやうに活溌で    そして大へん新鮮ですな    終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました    市街も橋もじつに光って明瞭で    逢ふ人はみなアイスランドヘ移住した    蜂雀といふ風の衣裳をつけて居りました    あんな正確な輪廓は顕微鏡分析の晶形にも . . . 本文を読む

〈七四三 〔盗まれた白菜の根へ〕〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四三      〔盗まれた白菜の根へ〕     一九二六、一〇、一三、    盗まれた白菜の根へ    一つに一つ萓穂を挿して    それが日本主義なのか    水いろをして    エンタシスある柱の列の    その残された推古時代の礎に    一つに一つ萓穂が立てば    盗人がここを通るたび    初冬の風になびき日にひかって    たしかにそれを嘲弄する    さ . . . 本文を読む

〈七四二 圃道〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四二     圃道       一九二六、一〇、一〇、    水霜が    みちの草穂にいっぱいで    車輪もきれいに洗はれた    ざんざんざんざん木も藪も鳴ってゐるのは    その重いつめたい雫が    いま落ちてゐる最中なのだ    霧が巨きな塊になって    太陽面を流れてゐる    さっき川から炎のやうにあがってゐた    あのすさまじい湯気のあとだ   . . . 本文を読む

〈七四一 白菜畑 〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四一    白菜畑    霜がはたけの砂いっぱいで    エンタシスある柱の列は    みな水いろの影をひく    十いくつかのよるとひる    病んでもだえてゐた間    こんなつめたい空気のなかで    千の芝罘白菜は    はぢけるまでの砲弾になり    包頭連の七百は    立派なパンの形になった    こゝは船場を渡った人が    みんな通って行くところだし . . . 本文を読む

〈七四一 煙〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四一      煙        一九二六、一〇、九、    川上の    練瓦工場の煙突から    けむりが雲につゞいてゐる    あの脚もとにひろがった    青じろい頁岩の盤で    尖って長いくるみの化石をさがしたり    古いけものの足痕を    うすら濁ってつぶやく水のなかからとったり    二夏のあひだ    実習のすんだ毎日の午后を    生徒らとたのしく . . . 本文を読む

〈七四〇 秋〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七四〇      秋                 一九二六、九、二三、    江釣子森の脚から半里    荒さんで甘い乱積雲の風の底    稔った稲や赤い萓穂の波のなか    そこに鍋倉上組合の    けらを装った年よりたちが    けさあつまって待ってゐる    恐れた歳のとりいれ近く    わたりの鳥はつぎつぎ渡り    野ばらの藪のガラスの実から    風が刻 . . . 本文を読む

〈七三九 〔霧がひどくて手が凍えるな〕〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七三九     〔霧がひどくて手が凍えるな〕    一九二六、九、一三、    霧がひどくて手が凍えるな     ……馬もぶるっとももをさせる……    縄をなげてくれ縄を     ……すすきの穂も水霜でぐっしょり       あゝはやく日が照るといゝ……    雉子が啼いてるぞ 雉子が    おまへの家のなからしい     ……誰も居なくなった家のなかを       餌を漁っ . . . 本文を読む

〈七三八 はるかな作業〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七三八    はるかな作業     一九二六、九、一〇、    すゝきの花や暗い林の向ふのはうで    なにかちがった風の品種が鳴ってゐる    ぎらぎら縮れた雲と青陽の格子のなかで    風があやしい匂ひをもってふるえてゐる    そらをうつして空虚な川と    黒いけむりをわづかにあげる    瓦工場のうしろの台に    冴え冴えとしてまたひゞき    ここの畑できいてゐれ . . . 本文を読む

〈七三六 〔濃い雲が二きれ〕〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七三六     〔濃い雲が二きれ〕   一九二六、九、五、    濃い雲が二きれ    シャーマン山をかすめて行く      (何を吐して行ったって?)      (雷沢帰妹の三だとさ!)    向ふは寒く日が射して    蛇紋岩の青い鋸                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の . . . 本文を読む

〈七三五 饗宴〉

2016年09月23日 | 『春と修羅 第三集』
七三五    饗宴      一九二六、九、三、    酸っぱい胡瓜をぽくぽく噛んで    みんなは酒を飲んでゐる     ……土橋は曇りの午前にできて       いまうら青い榾のけむりは       稲いちめんに這ひかゝり       そのせきぶちの杉や楢には       雨がどしゃどしゃ注いでゐる……    みんなは地主や賦役に出ない人たちから    集めた酒を飲んでゐる . . . 本文を読む