宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈七三四 〔青いけむりで唐黍を焼き〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七三四      〔青いけむりで唐黍を焼き〕          一九二六、八、二七、    青いけむりで唐黍を焼き    ポンデローザも皿に盛って    若杉のほずゑのchrysocollaを見れば    たのしく豊かな朝餐な筈であるのに    こんなにも落ち着かないのは    今日も川ばたの荒れた畑の切り返しが    胸いっぱいにあるためらしい      ……エナメルの雲鳥の声 . . . 本文を読む

〈七三三 休息〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七三三      休息       一九二六、八、二七、      あかつめくさと      きむぽうげ    おれは羆熊だ 観念しろよ      遠くの雲が幾ローフかの      麺麭にかはって売られるころだ    あはは 憂陀那よ    冗談はよせ    ひとの肋を    抜身でもってくすぐるなんて                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴 . . . 本文を読む

〈七三一 〔黄いろな花もさき〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七三一      〔黄いろな花もさき〕     一九二六、八、二〇、    黄いろな花もさき    あらゆる色の種類した    畦いっぱいの地しばりを    レーキでがりがり掻いてとる    川はあすこの瀬のところで    毎秒九噸の針をながす    上を見ろ    石を投げろ    まっ白なそらいっぱいに    もずが矢ばねを叩いて行く                〝『春 . . . 本文を読む

〈七三〇ノ二 増水〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七三〇ノ二     増水        〔一九二七、八、一五、〕    悪どく光る雲の下に    幅では二倍量では恐らく十倍になった北上は    黄いろな波をたててゐる    鉄舟はみな敝舎へ引かれ    モーターボートはトントン鳴らす    下流から水があくって来て    古川あとの田はもうみんな沼になり    豆のはたけもかくれてしまひ    桑のはたけももう半分はやられて . . . 本文を読む

〈七三〇 〔おしまひは〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七三〇      〔おしまひは〕      一九二六、八、八、    「おしまひは    シャーマン山の第七峰の別当が    錦と水晶の袈裟を着て    じぶんで出てきて諫めたさうだ」    青い光霞の漂ひと翻る川の帯    その骨ばったツングース型の赭い横顔                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流 . . . 本文を読む

〈七二八  〔驟雨はそそぎ〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七二八  〔驟雨はそそぎ〕            一九二六、七、一五、    驟雨はそそぎ    土のけむりはいっさんにあがる      あゝもうもうと立つ湯気のなかに      わたくしはひとり仕事を忿る        ……枯れた羊歯の葉          野ばらの根          壊れて散ったその塔を          いまいそがしくめぐる蟻……    杉は驟雨のな . . . 本文を読む

〈七二七 〔アカシヤの木の洋燈から〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七二七    〔アカシヤの木の洋燈から〕     一九二六、七、一四、    アカシヤの木の洋燈から    風と睡さに    朝露も月見草の花も萎れるころ    鬼げし風のきもの着て    稲沼のくろにあそぶ子                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来し . . . 本文を読む

〈七二六  風景〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七二六    風景        一九二六、七、一四、    松森蒼穹に後光を出せば    片頬黒い県会議員が    ひとりゆっくりあるいてくる    羊歯やこならの丘いちめんに    ことしも燃えるアイリスの花                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出 . . . 本文を読む

〈七一八  井戸〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七一八     井戸      一九二六、七、八、    こゝから草削をかついで行って    玉菜畑へ飛び込めば    宗教ではない体育でもない    何か仕事の推進力と風や陽ざしの混合物    熱く酸っぱい亜片のために    二時間半がたちまち過ぎる    そいつが醒めて    まはりが白い光の網で消されると    ぼくはこゝまで戻って来て    水をごくごく呑むのである . . . 本文を読む

〈七一八  蛇踊〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七一八      蛇踊    一九二六、六、二〇、    この萌えだした柳の枝で    すこしあたまを叩いてやらう    叩かれてぞろぞろまはる    はなはだ艶で無器用だ    がらがら蛇でもない癖に    しっぽをざらざら鳴らすのは    それ響尾蛇に非るも    蛇はその尾を鳴らすめり    青い    青い    紋も青くて立派だし    りっぱな節奏もある   . . . 本文を読む

〈七一五  〔道べの粗朶に〕〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七一五      〔道べの粗朶に〕     一九二六、六、二〇、    道べの粗朶に    何かなし立ちよってさわり    け白い風にふり向けば    あちこち暗い家ぐねの杜と    花咲いたまゝいちめん倒れ    黒雲に映える雨の稲    そっちはさっきするどく斜視し    あるひは嘲けりことばを避けた    陰気な幾十のなのに    何がこんなにおろかしく     . . . 本文を読む

〈七一四  疲労〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七一四      疲労        一九二六、六、一八、    南の風も酸っぱいし    穂麦も青くひかって痛い    それだのに    崖の上には    わざわざ今日の晴天を、    西の山根から出て来たといふ    黒い巨きな立像が    眉間にルビーか何かをはめて    三っつも立って待ってゐる    疲れを知らないあゝいふ風な三人と    せいいっぱいのせりふを . . . 本文を読む

〈七一一 水汲み〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七一一     水汲み     一九二六、五、一五、    ぎっしり生えたち萓の芽だ    紅くひかって    仲間同志に影をおとし    上をあるけば距離のしれない敷物のやうに    うるうるひろがるち萓の芽だ       ……水を汲んで砂へかけて……    つめたい風の海蛇が    もう幾脈も幾脈も    野ばらの藪をすり抜けて    川をななめに溯って行く       . . . 本文を読む

〈七〇九  春 〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七〇九      春      一九二六、五、二、    陽が照って鳥が啼き    あちこちの楢の林も、    けむるとき    ぎちぎちと鳴る 汚ない掌を、    おれはこれからもつことになる                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。   . . . 本文を読む

〈七〇六 村娘〉

2016年09月22日 | 『春と修羅 第三集』
七〇六      村娘     一九二六、五、二、    畑を過ぎる鳥の影    青々ひかる山の稜    雪菜の薹を手にくだき    ひばりと川を聴きながら    うつつにひととものがたる                〝『春と修羅 第三集』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。  本書 . . . 本文を読む