すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

河合隼雄「人の心はどこまでわかるか」

2005-03-20 17:18:51 | 書評
地下鉄サリン事件から10年かぁ


俗に「鼻がでかいと、アレもでかい」などと言われます。
例によってうろ覚えなんですが、「鼻はアレの象徴」みないなことをフロイトが言っていたような気がします。そんなわけで、「鼻がでかいと、アレもでかい」という話は、そっから来たんじゃないかと個人的には推測しております。

心理学と言いますと、「突起物=アレ」(鼻は、ほら、顔の中の突起物だから。………うーん、天狗って意味深)にしてしまう学問という印象もありますが、そんため、怪しげな印象を持ってしまいます。


私のいまの面接の基本は、あまり世俗的なことにとらわれないということです。通常は、学校へ行っていない子どもなら、行ったほうがいいとか、金が儲からないより儲かるほうがいいとか、みんなそう考えています。それを忘れてはいませんが、私はそういうところを超えたところでクライエントと会っています。(河合隼雄「人の心はどこまでわかるか」43頁 講談社+α新書)
実際、幻聴に悩む芸術家に、「幻聴が取り払われると、作品から独創性が失われるかもしれませんよ」とアドバイスをしたということを、著者は本書で述べております。

まぁ、人生相談をすることが心理療法ではないのだから、引用文のようなスタンスを取らなくてはいけないんでしょうが、これはなかなか怪しいです。

そもそも、この本で「心理療法の真髄は無為だ」などと言っており、怪しさ満点です。
他にも、頑張り過ぎてはいけないが、患者を粗末にしてはいけないが、時には父性的な強さを見せ付けなくてはいけないが、入れこみ過ぎてはいけないが、場合によっては踏みこむことも必要……………、という感じ。

結局、マニュアル化できなってことなんでしょうね。
「人間の心」よりも、「人間の存在」(社会との在り様)まで考えて、治療を施そうとするんだから、そりゃ、怪しくなっちゃうんでしょうなぁ。


全体としては、中堅どころの心理療法家数人がいくつかの質問をぶつけて、それを著者が答えていくというスタイルです。
読んでいくと、著者の治療に対する真摯な姿勢がよく分かる本です。
タイトルから期待するような人間心理の探求みないなことよりも、人間が人間を救うことの難さがよく分かる本です。でも、ご本人の人柄からか、決して暗い雰囲気に陥ることなく、文章が進んでいきます。

「おれは人の役に立っているんだぜ!」みたいなことを思っているウザイ方に読ませるには、ちょうどよろしいのではないでしょうか?


人の心はどこまでわかるか

講談社

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