すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

横山光輝「長征」

2005-03-05 16:53:11 | 書評
今の総書記は、影が薄いよなぁ


実家には、父親の趣味で横山光輝の「三国志」が、最後の十巻だけありました(全巻そろってないところが、我が父らしくテキトウです)。諸葛亮と司馬懿が死闘を繰り広げているところです。
その後「三国志演義」も読んでみたのですが、しかし絵として刷りこまれている三国志は、横山光輝の「三国志」です。(「蒼天航路」は未読です)

ちなみに他の横山光輝作品はほとんど読んだこともありません。
そんなわけで、横山光輝と言うと三国志で、三国志と言えば横山光輝といった感じです。

で、最近、なにげなく寄った本屋で発見したのが、この「長征」です。
長征がなにかと言いますと、帝国軍に虐げられていた共和主義者がドライアイスの船で脱出し、人類が生存可能な惑星を見つけるまでの過程のことです。………………嘘です。

本当は、西安事件による第二次国共合作が成立する前に起こった事件です。中国共産党が国民党の包囲網を破り、新たな根拠地を探すために始めた行軍を「長征」と呼んでおります。その困難さは、「長征」の最後に、こんなふうに表現されております。

長征の所要日数は
三百七十一日。
歩いた距離、一万二千キロ、
四百十数個連隊の敵を殲滅し、
五十余りの大中県城を占領し、
大雪山をふくむ十八の高山を
越え、十七の大河を渡り、
七つの強固な封鎖線を破り、
六つの著名な要害を突破した。

この試練を生きぬいた紅軍は、
その団結力と強じんな
精神力において、世界でも
最強の軍隊を作り上げ、
革命に対する自信を
ゆるぎないものにした。

今日の中国の背景は、
この長征の試練によって
作られたものである。
(横山光輝「長征 (下巻)」 230頁 講談社漫画文庫)


有名な出来事ですけど。まさか、漫画化されているとは。日本の漫画文化の翼の広さに多少唖然とさせられました。初掲載が1973年となっていますから、時代もあったんでしょうけど。
まだ文革の最中ですね。だから、毛沢東は無条件に有能・善人に描かれております。


内容は、横山光輝の絵で舞台は中国ですから、いくら登場人物たちが近代的な武器を持ち、服装をしていても、僕には三国志です。やはり三国志です。

高島俊男の「中国の大盗賊・完全版」で、「中華人民共和国なんて言っているけど、結局、毛沢東王朝なんだよ」と主張していました。
この「長征」では国民党を悪役にして、毛沢東を善玉にしているんですが(中国共産党が善玉ではありません)、横山光輝の絵を見ていると、
「あぁ、国共の争いも三国志と同じなんだなぁ」
と、思ってしまいます。

現権力者の正統性に関して、歴史をつかって証明するなんてことも、もろ「中国史」ですなぁ。


まぁ、そんな作品です。「史記」「三国志」とは、また違った風景の横山光輝作品に触れてみたい方には、よろしいのではないでしょうか?


長征 (上巻)

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長征 (下巻)

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