すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

人生はクソったれだ

2005-02-19 20:39:44 | 雑感
ある程度まともに育った奴なら、うすうす 気づくはずだ。
オレ達のほとんど八割にロクな将来はねえと。

愛する友達。
甲子園めざした野球部のマサヤ。彼女を守って隣の高校のヤツをブン殴ったヒロシ。
麻雀ばっかやってたアマツにサイトウ。青春の疾走りをやめなかった美術部の先輩ら。
そして魂をわけあった、世界でだれよりも美しい女達。
会社に入ればみんな同じ。みんなおなじだ。
遅かれ早かれ、今のオレのように苦痛を感じることを放棄したり、
考える気力を奪われるまでいてこまされていくんだろう。
夢を希望をって、どいつもこいつもお気楽に歌ってくれるな。
そりゃ伝票整理したり、ワープロ打ったりコピーとったりするのが、夢だった奴はいないよ。(安達哲「さくらの唄」)


友達が、少ない人間です。突然の訪問客など、ありません。ですから、アパートのチャイムが鳴っても出ません。
電話も同様です。まして平日の電話など、親以外にかけてくる人間はいません。
水曜日の昼間に携帯が鳴ったときも、無視です。後で着信を確認すると、友人からでした。

この友人というのは、同年齢の女性です。


学校で知り合ったのですが、以降は互いにバラバラになってしまい、たまに電話をするような間柄。

数年前、「ディズニーシーで遊びたい」と彼女が言うので散々もめたことがありました。
僕は東京に住んでいるので、泊まる必要はありません。彼女はホテルを予約しなくてはいけません。しかし一人で泊まると高い。特にディズニーランド周辺では。
なので、僕の方から、
「二人部屋にしたら?」
と提案しました。
「一緒に泊まるの?」
「そう。金なら払うよ」
「でも、一緒に泊まったら、エッチするでしょ?」
「うん。エッチするね」
「いや」
あっさり断れました。
もう大人なのですから、「恋愛は恋愛、エッチはエッチ」と考えて欲しかったのですが、うまくいきませんでした。


そんなエッチなしの、文字通りの友人です。
ここ数年は、三十路前に相手を見つけようと焦り、つい最近になってめでたく結婚しました。


当初の目標は、働きたくなし楽もしたい、だから「金持ちと結婚する」という、非常に分かりやすいものでした。
その野望を達成するため、金持ち専門の結婚相談所に登録を画策します。費用は二十万円。もちろん、女性の側が払うのです。

一応友人なので、アドバイスしました。
「普通さ。金持ちだと、それだけで女性が集まってくるじゃない? それにもかかわらず、女性が一方的に大金を払わなくてはいけないような、そんな相談所に登録している男性って、なんか、おかしくないか?」
それに対する、彼女の反応。
「だって、忙しくて出会いの場がないから、そういうのに登録する人もいるでしょ?」
「いや。それなら、普通の相談所でいいだろ?」
「いいの! ちょっとくらい遊ばれるのは、覚悟しているから」
…………最早語るまい。

しかし、結局、登録しませんでした。両親に諭されたそうです。
本人はかなり乗り気で、お金を用意するという段階まで進みました。その振込みを母に依頼したところ、少額とは言えない金額を訝られ、支払い内容を質されたわけです。そこで正直に語る我が友。そして驚く父と母。
当然のことながら、僕と同じ主旨で説教されたそうです。

そんなわけで内心の不満を抱えつつも、大人しく無料の結婚相談所に登録し、ねるとんパーティーに参加、ついには公務員の旦那を手に入れました。
初期の計画では「金持ちを見つけて、サロンを開く」ということでした。公務員の給料では、その野望を達成することはできませんでしたが、十分に飯を食わせてもらえるということで大喜びで退社し、専業主婦になりました。


で、水曜の昼に電話が来たということなのです。

木曜日の夜に、僕から電話を入れると、
「明日のお昼に、電話できる?」
と言われます。まだ新婚ですからね。夜は忙しいのでしょう。僕は無職です。平日の昼間でも、まったく問題ありません。
「何時ごろ?」
「ドラマが二時に終わるから、それ以降なら、何時でも良いよ」
とのこと。昼ドラに熱中する主婦。幸せとは、なんと平凡なことか。


翌日の三時ごろに、電話を入れました。いつものように近況を語り合い、ふと、彼女が家計の足しにアルバイトを始めようとしていたことを思い出しました。
「そういえば、アルバイトは、どうするつもり?」
「やらないつもり」
………また、出たな。というのが、僕の偽らざる感想。もとより仕事が嫌いで寿退社したような女です。またバカにしてやろうと、無職の僕は、
「ホォー、いいですな。専業主婦は」
と言ったのですが、直ぐに返されました。
「病気が出てきたみたいで」


彼女の父親が、不治の病であることは知っていました。ただ遺伝性ではないということなので、「治らない病気を患った家族がいるのは、大変だろうなぁ」と無責任に同情する程度で、さして気にとめておりませんでした。

が、彼女が詳細を省いて説明していたのか、それとも自身も今まで知らなかったのか、かなり少ない事例ですが、遺伝するのだそうです。

「いろいろ聞いてみたら、おじいさんも、わけの分からない病気で死んでいるのよ。当時では、なんの病気かすら分からなかったみたいで。多分、お父さんの病気とおじいさんの病気は、同じだと思う」

ただし、病院に行って検査は受けたが、まだ結果は出ていない。
それを聞いて、危うく、
「じゃ、まだ分からないじゃん」
と言いそうになるが、どうにか飲みこみました。自分の父親が、既に罹っている病気。彼女にもそれなりの知識があり、単なる勘違いではないだろう。ただ気休めのためだけに、そんなことを言って、どうなるのか………。


眠れなくて、生まれて初めて睡眠薬を使っている、とのこと。
あまりに深刻なことなので、旦那にも、まだ話すことができない。
そんなわけで、昼間に電話してきたらしい。

「ドラマとか見ても、面白くない。登場人物が悩んでいたりするでしょ? でも、いくら悩んでも、死ぬわけじゃないのよ」
「本当は聞いちゃいけないことなのかもしれないけど、寿命って、どうなるの?」
「平均で三年から五年」

もちろん、平均に過ぎない。実際に、彼女のお父さんは発病してから十年弱経過しているが、病気の進行は遅い。寝たきりということもない。三十年以上生存している人もいるようだ。

だが平均である。長命な患者がいる一方で、短命な患者もいるわけだ。
「早い人だと、数ヶ月で亡くなるのよね」


「ともかく、なるようにしかならないんだし、あんまり考えすぎないことだね」
と言ってみたものの、自分でも白々しいと思う。嘘でも希望あふれる言葉をかけてあげることが必要なのかもしれない。それは分かっているつもりだ。だが、そんな言葉を、僕は根本的に持っていない。


まったく人生はクソったれだな。