すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

梁石日「夜を賭けて」

2005-02-04 11:57:08 | 書評
アジアだなぁ


「なんか小説が読みたい」と、フラフラ歩いて手にしたものが梁石日「夜を賭けて」です。
どこに惹かれるかと言いますと、背表紙に書かれた「現代アジア最高の作家の一人」とまで梁石日を持ち上げている点。さすが幻冬舎だ。

「東アジア」でも「極東アジア」でもなく、「アジア」全土とは。
アジアとなると「南北はマレー半島からシベリア、東西は日本からトルコおよびアラビア」まであるぞ。いいのか、そこまで言い切って?

そもそも東南アジアや中東の小説まで、ちゃんと比較対象に入れたか?
サダム・フセインの「王様と愛人」は、読んだか?
金正日の「プルガサリ」は、TSUTAYAで借りられるのか?


それは、ともかく。
ストーリーは、三部構成。
 ・第一部
まだ戦後の臭いのする大阪において、在日朝鮮人たちが大阪造兵廠跡に入りこみ、鉄屑を巡って警察と戦いを繰り広げる群像劇。
 ・第二部
警察によって大村収容所に送られた金義夫と、その解放のために奮闘する初子の物語。
 ・第三部
すっかり老いてしまった金義夫の現在の状況。エピローグ。

長編ではありますが、テンポが早いので、面白く読ませてくれます。
しかし、作品全体には統一感は薄いです。金義夫が途中から主人公になってしまうのが、なんか唐突な感じがします。

当初の構想では、作者の分身である張有真を中心に物語を進めようとしたのでは、ないでしょうか? しかし金義夫のキャラに引っ張られたのでは?


逃れられない現実から逃れるために人は幻想を持ってしまうのだ。幻の国境を越えて直面する現実は、またしても生きるという大前提の奮闘である。ひとは死ぬまで生きることを強いられるが、人間にとって自然死などありはしない。それもまた幻想である。(梁石日「夜を賭けて」490頁 幻冬舎文庫)

引用文は、大村収容所から解放された金義夫の感慨です。
政治の季節に在日朝鮮人として日本で貧乏と戦った混沌の歴史は、金義夫くらいの人間にならないと活写できなかったのだろうなぁと思わされます。

いろいろと勉強になる小説でした(大村収容所の問題なんか、もう少しマスコミで取り上げても、いいのでは?)。
日本(人)と在日を考えるには、格好の本です。