すぎなみ民営化反対通信

東京・杉並発。「一人が万人のために、万人がひとりのために」をモットーに本当のことを伝え、共に歩んでいきたいと思います

「潜在待機児童数1764名」「保育士不足」の横浜のどこが「成功モデル」か!

2013年05月22日 | アベノミクス版「子育て支援」批判

《「横浜方式」批判の続き》

 記事の準備中に、5月20日林文子横浜市長が「待機児童ゼロ達成」記者会見をひらき、「横浜市の全区でゼロ」「横浜市の待機児童ゼロ目標達成で成功モデルをつくった。横浜市の取り組みについて全国に情報発信していく。この地平を継続して堅持していくとともに、次は保育の質と保育士不足の解消の課題だ」と報告し、抱負を述べています。また、同日、安倍首相は、示し合わせたように、横浜市の保育園を視察し「横浜市のように安倍政権が待機児童ゼロを全国で実現します」「やればできる」と言っています。

                        
【因みに、この林文子横浜市長、東レ、松下電器産業を経て、以降はホンダ、BMW、BMW代表取締役社長、ダイエー代表取締役社長兼CEO、日産自動車販売代表取締役社長を経ていまの横浜市長になった。米フォーチューン誌で「米国外のビジネス業界最強の女性経営者」「世界ビジネス最強の女性50人」ともてはやされ、本人もこの経歴と評価が気に入っている・・・そういう新自由主義の「申し子」のような人物、私たち労働者の敵そのものです。特に非正規化でぼろ儲けした自動車産業畑ということはきっちり確認しておきましょう。】

林市長自身が「ほんとうは待機児童ゼロではない」と認め、把握しているだけでも1764人の「潜在的待機児童」がいることがわかっているのに、何が「横浜市全区でゼロを実現」「横浜市で成功モデルをつくった」だ !!

 5月20日の林市長「待機児童ゼロ目標達成」記者会見で林市長は「全区でゼロ」「待機児童ゼロ目標を完全実現」「やればできることを示した成功モデル」とくり返し強調しました。しかし、記者から問われたためか、ウソはつけませんでした。「厚生労働省の定義ではゼロだが、まだ希望しているところに入所できていない多くの児童がいる」と!
  どういうことでしょうか?
  待機児童(数)とは、本来、認可保育所に入所を希望して入所できなかった児童(数)のこと、そういう意味です。横浜市の認可保育所への今年度入所の希望児童数は4万8818人、これに対して実際に認可保育所に入所できた児童数は4万7072人(3740人増)、認可保育所への入所を申込んだ児童だけに限っても、差し引き1764人の待機児童が発生しているのです。
  これを「潜在的待機児童(数)」と呼ぶらしいですが、「潜在」も「顕在」もあったものではありません。まぎれもない「待機児童」「認可保育所に入所を希望して入れなかった児童」です。1764人という人数を超重大視すべきです。「待機児童全国最多の1552人」「ワーストワンの横浜市の待機児童数」、この3年前の待機児童数より多いのです。

 【「横浜市 待機児童ゼロ」カウントのインチキ・ごまかし】
 では、どうやって「待機児童ゼロ達成」などというのか?その1764人中、
 ①横浜市が開設した認可外保育施設「横浜保育室」に横浜市の「行政努力」で入れた児童887人は、「待機児童(数)」扱いにせず除外、②(入所先は内定しているが)第一希望の認可保育所入所にこだわり続けている児童(世帯)も除外、③育児休業延長で育休を選択した児童(世帯)も除外、④インターネット等で求職活動中の世帯も除外、この①~④の除外合計で、1764名の待機児童は、「ゼロ」とされているのです。「厚労省の定義」のイカサマもさることながら、まず「ゼロ目標達成(の発表)」ありき、まさに、そのためにする「ゼロ」のための除外ではありませんか!このことを会見でも認めながら、「待機児童ゼロ目標達成」「全区でゼロ」「全国の成功モデルをつくった」と強調しているのですから、何をかいわんやで、本当にゆるせない会見です。5月20日の会見をニュースで聴いて「市民感覚とのズレを感じる」「横浜市の言っていることには違和感がある」という声が広範にまきおこっているのも当然のことです。

  NHKシリーズでも横浜市の「待機児童ゼロ」チームの職員は「保育所に入れたいというとき認可保育所に入れることとしてしかとらえない」と「入所希望世帯が保育(保育所)について思い違いしている」「ないものねだりをしている」と言わんばかりにコメントしたうえで、「(認可保育所以外でも)こういう保育サービスがあると丁寧に説明した」という「取り組み努力」を重ねたことを教訓として語っていました。ここに示されている考え方で、前記①の「横浜保育室」は「入所希望をかなえたもの」として除外し、前記②~④は、認可外保育ならかなえられたのに、認可保育所にあくまでこだわって、その選択方途を放棄して「待機」「育休」等を自分で選択したのだから、・・・と「待機児童数」から除外しているのです。

  こんなゆるせない話はありません。

  なぜ認可保育所に入れなかったのか?単に入所希望者が多過ぎてそうなっているわけではありません。
認可保育所の入所条件・選考基準をクリアできない入所希望世帯が選考で落とされたからです。なぜ認可保育所にこだわって「待機」を選び、また「育休延長」や「求職活動」を選んだのか。保育料から認可保育所にしか入所させられないから、「横浜保育室」等の利用料金が認可保育所より高い認可外保育所に入れることもできないからです

「横浜方式」では、利用料金の問題が深刻なうえにも深刻!認可保育所へは選考基準で入所できず、「横浜保育室」へは利用料金が高くて手が届かない!この若い非正規共働き世帯の苦しみを切り捨てるのか! 

  「待機児童を抱える世帯」の過半が20~30代の若い共働き非正規世帯であることを前回強調しました。認可保育所の場合には保育料は、前年度の世帯の所得税額と入所当初年度の子どもの年齢で保育料は階層的に設定されています。その保育料は前述の若い共働き世帯非正規世帯では、大変でも支払えない額では基本的にありません。ところが、認可保育所では「両親ともにフルタイム就労」という入所条件・選考基準が実際には適用されています。そのために非正規共働き世帯は、認可保育所には入れたくても、入れず、入所させようとすれば、認可保育所の利用料金(保育料)より高額の利用料金をとられる認可外保育所にたよるしかありません。

  そこで利用料金の問題を具体的に見てみます。認可外保育の「横浜保育室」であるアスク山手保育室の利用料金を例示すると以下の通りです。

【月極め保育】
▽週4日の場合(1日4~6時間:43000円、6~8時間:45000円、8~11時間:47000円)
▽週5日の場合(4~6時間:46000円、6~8時間:48000円、8~11時間:50000円)
▽週6日の場合(4~6時間:48000円、6~8時間:50000円、8~11時間:52000円)


【月極め延長保育】
▽~30分:2000円、~60分:4000円、~90分:6000円

【一時保育】 1時間:900円

 因みに、上記、アスク山手保育室の利用料金体系は、東京都認証保育所のアスク両国保育園の利用料金と概ね同じで、株式会社日本保育サービスのアスク展開の設定標準額とも言えます。

  若い共働き非正規世帯は乳幼児がいても認可保育所からははじかれ、それでは認可外保育施設・小規模保育が「助け舟」「頼みの綱」になるかといえば、認可保育所の場合の2~3倍もの保育料金が求められる・・・最も優先的に保育が保障されるべき世帯が最も険しい、厳しいところに立たされているということがわかります。

【「横浜保育室・利用料金は上限58100円」が「利用料金に公平感を持たせる」?】

 NHKシリーズでは、「横浜方式」について認可保育所との間で今度の「横浜方式」でのサービス提供で入所世帯に「公平感を持たせる」努力を横浜市が払っているとコメントしています。「公平感」というとき、施設の整備や保育士の水準等の点もあるでしょうが、共働き世帯、とりわけ非正規共働き世帯にとっての最大の点はやはり利用料金です。20~30代の非正規共働き世帯の所得年額には一定の幅があっても、基本的には、認可保育所の場合なら保育料は月2万円台かそれ以下にとどまります。「横浜保育室」の場合は上限額なら月58100円まで利用料金(横浜市こども青少年局の提出資料)を払わねばならず、前掲アスク保育室なら、月4万数千円から5万円台になります。「横浜保育室」以外は、当然「58100円」を超えるところも多々あります。これが横浜市が言う、認可保育所と認可外保育所で入所者にとって料金格差をつくらず「公平感を持たせる」ということですか?!

 前掲横浜市こども青少年局提出資料によれば、確かに「横浜保育室」に限って、10000円~50000円の減免があるようです。しかし、基準がはっきりしないし、そうした減免制度を続け得る財源見通しに裏打ちされた根拠も定かではありません。本当に「公平感を持たせる」、否、(「公平感」は「~らしさ」に過ぎませんから)「公平」にするためには、『入所世帯の前年度所得税額と入所児童の年齢から階層的に設定されている認可保育所の保育料金を超える額は全額横浜市が助成(負担)する」と具体的に横浜市は明示すべきでしょう。そうしないのは、そうはならない、「公平」でもなければ、「公平感を持たせる」ものでもないということです。

【「横浜方式」は名実ともに、福祉としての保育の解体・きりすて。保育を必要とする非正規共働き世帯のきりすて・見殺しが「待機児童ゼロ達成」宣言の核心】

  子どもを預けたくても料金が高くて預けられないで就業か保育か、どちらかをあきらめて苦しむ・・・そもそも子どもをつくれない・・・、これは決して誇張ではありません。一時保育の時間当たり料金は900円、これはパートやアルバイトの場合の時給900円という一般的水準と同じです。働いて稼いだ金は全部、保育に消えるのです。象徴的に数字を挙げ対比しましたが、これが子どもを保育所に入れたくて苦しんでいる非正規世帯が直面している現実です。

 自治体は、保育について、義務として保障しなくなった、保育をそういうものとして実施しない!子育て支援ビジネスの株式会社からカネで買うものになった、利用料金を支払うカネがあれば受けられるが、そのカネがなければ受けられないものに変わった、このことを「横浜方式」は示したのです。この一点で、「横浜方式」は住民の福祉の実施という行政努力などではまったくありません。この点にアンケート回答は反応し、「40%が不満」という結果が出ているのです。(アンケートについては、NHKシリーズ①4月30日放送分・・・前回記事で参照欄を開いて末尾をごらんください。)

 
 
 

何が「保育士の確保のために保育士の処遇改善に取り組む」だ?!・・・ 保育士資格取得者や保育職経験者が保育職場に就かないのは、国や自治体が保育をコスト削減のために民営化・非正規化し、政財界が企業のカネ儲けのために超低賃金・総非正規化を進めているからだ!

 「横浜方式」で保育を必要とするすべての人々に、それは保障されるのか、という問題についての現実の回答はかくも過酷なものでした。では、「横浜方式」のもとで行われる「子育て支援」サービスの中身、これまで「保育」といわれてきたものはどうなるのか?それは保育士の行う仕事に、従って保育士の労働者としての地位、労働条件、勤務形態、職場環境にかかっています。

 「待機児童解消加速化」のためにと、安倍首相は「保育士の確保が必要だ」と言っています。認可保育所への株式会社参入や認可外保育の拡大の促進とともに、保育士が不足し「保育士の確保」なしには「待機児童解消加速化」も絵に描いた餅になるからです。

 保育士も確保しなければなりません。保育士の資格を持つ人は、全国で113万人。しかし、実際に勤務している方は、38万人ぐらいしかいません。7割近い方々が、結婚や出産などを機に、第一線から退き、その後戻ってきていません。 保育士の処遇改善に取り組むことで、復帰を促してまいります。4・19「成長戦略スピーチ」)

 保育労働者の皆さんから言えば、「誰のせいで、何のおかげで、こういう事態になったと思っているのか」という話です。
 もともとは保育所の大半を占めていた公立保育所では、適正な面積と設備の職場で、受け入れ人数に対する職員数の適正配置が義務付けられ、労働基準法にかなう労働条件がまがりなりにも保障され、保育士が常勤・正職員として勤務し、保育の仕事に従事していたのです。しかし、歴代自民党政権が、「保育はカネがかかりすぎるから、自治体がコスト削減に励むか民間に委ねよ」とコスト削減と民間委託を迫り、自治体が人件費削減のために常勤を減らし非常勤やパートにとって替え、民間委託や業務委託を拡大してきたことによって、正規・常勤職員も含めて保育職場の労働者の賃金はどんどん、削られてきたのです。企業立の民間保育園では、自治体立保育所に先行して、保育士資格を持った契約社員・パートとアルバイトがほとんどというスタッフ構成で賃金も低賃金化の一途をたどってきたのです。

 民間では、たとえ保育士資格をとって保育園に就職しても、契約社員で月給18万円とか園長職・主任格でも月給22万円。パート・アルバイトスタッフでは時給800円~900円で細切れのシフト勤務、それも週2~3日から3~4日の日替わりローテーション勤務というのが、こうして現在標準化・一般化している保育労働者の賃金です。これは雇用の9割を非正規不安定雇用とするという財界の経営指針にそって進んできた低賃金非正規化のもとで、保育園でも当たり前のようにまかり通っている現実であり、自治体立の保育所でも広範な非常勤化、アルバイト多用、民間への業務委託で進行している現実です。

 そこへ、このかん保育園受け入れ定員の天井を外すような詰め込みが加わり、保育現場はそうでなくてもテンテコマイの職場が大変な労働強化の現場となっているのです。どんなに子どもが好きでどんなに保育に生きがいや情熱を燃やして臨んでも、これでは中途退職が出ても不思議はないし、資格を取っても求人票で賃金・時給欄、勤務形態を見て保育園就職に二の足を踏む人が出ても何の不思議もありません。

 安倍首相が言うように「結婚や出産が理由で退職した」というだけでなく、乳幼児の子育て期が過ぎても復職しないのも新卒・保育士資格取得者が就職先に保育園を選ばないのも、いったん就職しても長続きしないのも、この保育職のそれだけでは暮らしていけないような低賃金非正規構造、勤務体系に根本原因があります。

 この低賃金・総非正規化政策、保育園の非正規・不安定雇用構造をつくりだした政財界の側にいる安倍首相が、その責任を棚上げして、口先、小手先で「処遇改善」を言い出しても、誰が信用するかという話です。そもそも、保育労働者の賃金・労働時間等の労働条件、雇用形態、勤務形態、職場環境の悪化、劣悪化はいま始まったことではありません。保育労働者がこの厳しさの中で懸命に保育職場を守りとおしてきましたが、保育に情熱と使命感をもちながら身体的にも精神的にも耐えられなくなってボロボロにされどれほど多くの労働者が職場を離れざるを得なかったのか、また意欲も情熱もあって保育士資格をとりながらこの賃金では暮らしていけないとどれほど多くの保育士資格取得者が断念せざるを得なかったのか、「処遇改善」を言うならとっくの昔に施策化されているべきことです。それを行わず、株式会社の全面的参入と「待機児童解消」のために、「保育士の確保」が必要になったからと、今頃になって「保育職員の処遇改善」などと言いだしていること自体、ゆるせないことなのです。しかも「処遇改善」は口先の話に過ぎず、実際に大量に出されている企業の求人情報は、それとは真逆の生きていけない超低賃金と細切れ勤務シフト、日替わりローテーションの非正規不安定雇用、契約社員・パート・アルバイトです。

 「横浜方式」の中での逸話として、NHKシリーズでは、横浜市での60人定員の認可保育所の開園で園長として保育士16人の募集をかけたが、応募はまったく集まらなかった、それで2万円ほど給与を当初の募集要項より増額し、交通費全額支給等に変更したら、やっと職員が確保できたという話が出てきます(5月1日放送分)。その給与額さえ、正社員19万7800円、パート・アルバイトでは時給850円~950円でしかないのです。2万円増額してこの程度なのです。これは前掲のアスク保育園、株式会社日本保育サービスの各園の場合の水準と同じです。

  新聞折り込みチラシやインターネットの求人情報で給与欄をみた人はわかると思いますが、これはファミリ―レストランや宅配ピザハウスのアルバイトの時給水準と同じです。職業職種による賃金比較で保育職の賃金は安すぎると批判しているのではありません。この国日本の社会全体で、労働者の賃金は、家族が生きていけるかどうかのギリギリまで押し下げる、それ以下もあるという食べられない低賃金構造が平均化してきているのです。問われているのは、非正規職という制度をそのままにしてその「処遇改善」を行うと口先で言い、小手先だけのゴマカシの施策を行うことではなく、非正規職(制度)を撤廃することです。9割非正規化、総非正規化を国策としている政府が、それをするはずがありません。それは私たちがたちあがって、たたかって、かちとる闘いです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安倍首相の「全国化したい待機児童解消モデル」-「横浜方式」とは?

2013年05月20日 | アベノミクス版「子育て支援」批判

今回③と次回④に《「横浜方式」批判》は、ニ回に分けることにしました。

《「横浜方式」批判その一」》

「3年間で全国ワーストワンから待機児童ゼロにこぎつけた」と注目されている「横浜方式」だが・・・

  安倍首相は4月19日の「成長戦略スピーチ」で「全国で待機児童数最多でワーストワンの横浜市がわずか3年でゼロに解消した。その気になれば全国の自治体でやってやれないはずがない。」として「横浜方式を全国に展開していきたい」と横浜市の林市政による「待機児童解消」を掲げたこのかんの取り組みを、雛形モデルとして賛美しています。

  NHKTVが、4月30日から5月2日に、「首都圏ネットワーク」で『どう減らす待機児童』というタイトルで3回のシリーズを行っています。ごらんになった方も多いと思います。このNHKのシリーズも含めて、4月中下旬から5月にかけて行われたマスメディアの「横浜方式」に関する報道は、安倍首相スピーチと歩調を合わせた「横浜方式」積極評価の大キャンペーンでした。
  報道では一様に、
「待機児童数」で「3年前には1552名、2年後の昨年4月には179名、今年4月はゼロに」と「解消」を驚きの目を持ってクローズアップ。それをもたらした「横浜方式」の特徴として、▲横浜市が推進した、認可保育所への株式会社の参入促進、認可外保育所・小規模保育への積極的支援の施策、▲入所希望世帯・待機児童世帯の声と多様な主体による多様なサービスを結びつけた全国初のコンシェルジュ制度という独自の創造的な取り組み、保育士確保のための取り組み等々の横浜市の行政努力を挙げ、▲「待機児童」問題を抱えている全国の自治体の今後の取り組みの参考になると強調しています。

 実際に行われた「横浜方式」の具体的な実態、中身はどんなものでしょうか。それを検証、批判するのが、短期シリーズの今回③での目的です。

  【検証・批判の視点】

 
 ① 「待機児童」というとき、その親たちにとっては
認可保育所に入れたいのに入れられなかったという問題です。「保育とは、『認可保育所』への入所」という働く世帯のとらえかた、発想は、「あらゆる手段を講じての待機児童解消」という「横浜方式」とキャンペーンの“勢い”の中でともすればかき消されがちですが、一番大切な視点です。

 ② 戦後の日本国憲法のもとでの福祉としての本旨に立った保育からとらえ返したとき、横浜市が行ったこのかんの取り組みはどうなのかという本質的な問題があります。憲法と児童福祉法のもとで、保育は働く世帯及び子どもの権利であり、保育の実施・保障は国と自治体の義務でした。ここで「はじかれ、取り残される世帯(子ども)」「切りすてられる世帯(子ども)」が構造的に出てくるような方式であれば、どんなに「あらゆる手段を講じた待機児童解消」であろうと「横浜方式」はまがいものです。

 ③ 現在保育を最も必要とする共働き世帯の過半をなしている非正規共働き世帯に、「横浜方式」は「保育」を保障するものなのか、という問題です。具体的には、認可保育所の入所選考基準の問題と認可外保育所の利用料金(保育料金)の問題です。

 ④ 保育は、保育に従事する職員(保育労働者)の職場環境と労働条件(雇用形態、勤務形態、賃金等の労働条件)と切り離して考えることはできません。「横浜方式」ではどうなのか、という問題です。保育は乳幼児保育にもっとも典型的ですが、百人百様に違いがある子どもを対象に、子どもから一瞬も目を離せない仕事であり、専門的知識を有し経験を積んだベテラン保育士を中心に職員(保育士)が緊密なチームとなって子どもの安全と健康、子どもの伸びやかな成長を見守る仕事です。この保育の仕事は、資格があり研修があってあとはマニュアル通りやればこなせるという仕事ではありません。職員の熱意や責任感や努力もさることながら、それ以上に、職員の労働条件や職場環境、職員が心をひとつにして仕事に専念できるミーティングや相談・助言・ひきつぎ等々のきめ細かな集団的組織的取り組みの体制があるかないか・・・といった問題が、行われる保育の内容を左右し、それが十全なものでないと、子どもの命にもかかわってくる保育事故さえ起きる - それが保育所であり保育の仕事です。保育士資格の取得者でも、実際に保育の仕事についている保育士の数ははるかに少なく、また保育の仕事を途中でやめる人は多く、再び保育の仕事に再就職する人は非常に少ない、という国も認める現実があります。保育の仕事が身体的にも精神的にも大変な仕事であるにもかかわらず、保育労働者の労働条件は著しく低い現状があり、たとえ保育という仕事に熱意や献身の気持ちがあってもそれだけでは続けられないという現実があるからです。保育労働者が十全な安定した労働条件、責任がとれる職場環境があって生き生きと仕事に臨めて、はじめて、保育所に子どもを預ける親たちにとっての安全・安心も守られるのです。林横浜市長は「待機児童ゼロのうえで、次は保育の質保育士の確保だ」と話し、安倍首相も「保育の質を高める」「処遇を改善し不足している保育士を確保する」と言っていますが、保育職場で保育に従事する労働者の労働条件、職場環境、勤務形態等こそその核心問題です。なぜ「保育の質」が大きくクローズアップされざるを得ないのか、なぜ資格取得者が現在の保育職員の3倍近くいるのに「保育士不足」に陥っているのか、この問題です。

【参照・検証の資料】

 横浜市が“こんなにも横浜市は待機児童解消で頑張っている”と言わんばかりに発信している横浜市の提出資料(2013年3月21日規制改革会議説明資料-横浜市子ども青少年局作成)とこのNHK「首都圏ネットワーク」シリーズを通して、見えるものは見えてきます。

横浜市提出資料pdf

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130321/item4.pdf<o:p></o:p>

NHK「首都圏ネットワーク」『シリーズ-どう減らす待機児童』

① 430日放送:横浜市“10分の1減”の背景<o:p></o:p>

 http://www.nhk.or.jp/shutoken/net/report/20130430.html<o:p></o:p>

 ② 51日放送:保育士確保の取り組み<o:p></o:p>

 https://www.nhk.or.jp/shutoken//net/report/20130501.html<o:p></o:p>

 ③ 5月2日放送 母親の声にきめ細かく応えて<o:p></o:p>

 https://www.nhk.or.jp/shutoken/////net/report/20130502.html<o:p></o:p>

 

「横浜方式」としてどんな取り組みが行われたのか?

 

  以下、前掲資料に基づいてみていきます。

(1) 横浜市の保育所待機児童数の推移

  中田宏市長をひきついだ林文子横浜市長が「あらゆる手段を講じて3年間で待機児童をゼロに」を掲げてチーム・ヨコハマのもとに取り組みを開始したのは2010年のことです。この2010年時点での「1552人の待機児童数」に至る経過を最初に見ておきます。前掲横浜市提出資料の1-1「保育所待機児童数の推移」のグラフと表によれば以下の経緯があります。

  ▲2001年に1000人を超えた横浜市の保育所待機児童数は、2003年には1198人に増え続け、これに対して2003年横浜市は「3年間で保育園定数を8000人増やす」とする待機児童対策を開始し2006年には保育所待機児童数363人まで減少。
  ▲しかし、その後、再び増加の一途のため、2007年には横浜市は定員数を5300人増やした。それでも今度は保育所待機児童数は減らず、増加し続け、前述の通り、2010年には1552人まで増加するに至った。
  ▲これが林横浜市政の2010年「3年間で待機児童ゼロ」宣言とチームヨコハマ発足の前提です。

 (2) 横浜市のこの10年間の認可保育所での市立と株式会社立の逆転

 「認可保育所の設置主体別内訳」 (前同・横浜市提出資料1-6参照)をみると、2003年から2013年の間に、どういう変化があったのか、何が行われたのか、その根幹が相当ハッキリ見えてきます。

  ▲2003年は認可保育所の総数は267園。その内訳でみると、市立保育所は127園、これに対して民間社会福祉法人立保育園109園。企業立保育園は株式会社立が2園のみでした。
  ▲では「待機児童数が2010年の1552人から2年間で179人にまで減った」という「横浜方式」下の2012年には、横浜市の認可保育所はどうなっているか?総数が507園。内訳で見ると、市立保育所は94園、社会福祉法人立の保育園が245園。企業立保育園は、株式会社立が106園、有限会社立が6園です。
  ▲この2013年「待機児童ゼロの年」には、認可保育所総数は579園。市立保育所90園、社会福祉法人立の保育園が276園。企業立保育園は株式会社立が142園、有限会社立が10園です。市立保育所には公設民営の指定管理者制度による園が2園含まれています。また2004年~2013年で実施予定も含めて市立保育所の37園が社会福祉法人に民間移管と記載されています。

  以上から見えることは何でしょうか?

   ① 横浜市は前中田市政のときから今日の現林市政も、「待機児童対策」としては市立保育所については「増設」「拡充」施策をとらず、詰め込み(定員増)で臨み、さらに民間移管を進め、指定管理者制度を導入して民営化するとともに、市立保育所(公設保育園)そのものの削減=減園を進めてきた。これがひとつ。

   ② このかんの際立った特徴は、この10年間での企業立保育園、とりわけ株式会社立の認可保育所の激増です。今では施設数では、認可保育所の4分の1を占め、市立保育所15%を大きく上回っており、この株式会社立の増加はますます強まるとみられています。
   株式会社立の最初の1園目株式会社ポピンズ・コーポレーション(港北区)。現在、横浜市の株式会社立の認可保育所のトップは、「子ども子育て支援」サービスをビッグチャンスととらえて早くから東京はじめ首都圏と政令指定都市での「保育」ビジネスにシフトしてきた山口洋代表のJPホールディンググループ=株式会社日本保育サービス
、「アスク保育園」名で横浜市では20園を新設しています。山口洋は現在、安倍政権の子ども子育て会議のメンバーです。

 【※当サイトでは、株式会社日本保育サービスに集中的な批判を過去に行っていますが、1999年新ゴールドプランを受けて保育・学童・子育て支援事業に取り組みを開始したのが代表山口洋氏。2001年小泉政権時の「仕事と子育ての両立に向けて」(「待機児童ゼロ作戦」端緒)を受けてJASDAQ上場、2003年小泉保育規制緩和を経て2004年JPホールディングの子会社・株式会社日本保育サービスを設立、子ども子育て支援事業に特化、2010年に「保育・子育て支援ビジネス」のリーディングカンパニーの評価を受けてJASDAQ最優良銘柄「J-STOCK」に指定。石原都政の認証保育所制度のもとで首都圏トップのシェアをアスク保育園展開で握ってきたという経過があります。この石原都政の認証保育所施策とその受け皿としての日本保育サービスのアスク保育園展開は、「3年間で待機児童解消」の横浜林市政の「横浜保育室」制度とアスク保育室新設開始のモデルになっています。】

01_2

(2006年 東京都認証保育所キッズプラザ・アスク晴海保育園での御手洗経団連会長・山口洋代表・石原東京都知事のスリーショット写真の再録)

  この株式会社日本保育サービス代表の山口洋氏は、横浜市でも資金力や土地の確保で株式会社の強みを生かしての全面的参入、コスト面でも自信があると言い切っています(4月30日テレビ朝日「報道ステーション」)

  すべてを物語っているのが次の林文子市長のコメントです。
「株式会社・有限会社の参入がなければ、約3年間でこれだけの待機児童の解消にいたることはできなかった」。要は「株式会社の活用」(株式会社への「保育ビジネス」の全面的解禁・開放)に横浜市は舵を切ったということです。その結果としての当座の「待機児童ゼロ」なのです。

 (3) 「横浜保育室」

 
前同横浜市提出資料の1-7「横浜市の保育資源」を見ると、認可外保育施設「横浜保育室」等にみられる小規模保育が「待機児童解消」施策で占めている位置が、認可保育所への株式会社参入に次ぐものとして注目されます。

  ▲「横浜保育室」という横浜市独自の認可外保育施設の施策によって、横浜保育室は総数157か所、受け入れ児童数5277人です。
  この数は、市立保育所・株式会社立保育園を含む認可保育所の579カ所、48927人と比べても決して少なくありません。0~2歳の乳幼児専門の保育施設で小規模の面積で整備できることから横浜市は今後この「横浜保育室」をいっそう増やす方針でいることは明らかです。個人であれ企業であれ、法人格があり、横浜市が独自に定める認定要件にかなえば設置できるというものです。下記の市のPDFをごらんになればわかりますが、認可保育所の認可要件よりゆるい認定要件で、建物の空きを「待機児童解消」のために活用するものにほかなりません。なぜ「横浜保育室」(保育!)という制度呼称にしているのでしょうか?これなら設置者にとっても簡単であり、市にとっても手っ取り早い「待機児童解消策」だということです。横浜市による認定とは言っても、あくまでも認可外保育施設であるということを曖昧にはできません。横浜市は「横浜保育室」として認定したら、その法人に助成金を出して支援します。「横浜保育室」の数を増やすというのが市の方針であることは明らかです。

※横浜市こども青少年局:「横浜保育室の案内」   http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/unei/hoikuseido/file/ysitufutankeigen.pdf

※横浜市こども青少年局:「平成25年度横浜保育室 新規認定説明資料」

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/incubator/file/y-setumeikaishiryou.pdf

  ▲また、児童数はその整備の性格上大きくないが、事業所内保育が71カ所、118人と記載されています。1事業所で1人か2人の子どもということになりますから、「保育」すると言っても、いかに親がその事業所に勤めているからと言っても、はたして“どんな保育”が保障されているといえるでしょうか。事業所とは基本的に企業です。企業が1人か2人の子どものために、どれだけの設備やスタッフを配置するでしょうか。専従のスタッフを事業所が置くはずがありません。コスト面をみても自明です。結局、親が子どもを職場に連れて行き、その子どもを「置いておくスペース」があるだけというのが実際でしょう。子連れで安心して働け、子育てもできるなどと簡単に言える制度でないことだけは確かです。

  ① ここで特に留意すべき点は「横浜保育室」という曲者です。「認可外保育施設」の「小規模保育」が株式会社にとって認可要件よりゆるい要件で認定を受けられることで手っ取り早く参入しやすく、かつ横浜市から「横浜保育室」として助成金も交付され、利用料金も認可保育所の場合よりはるかに高く設定でき、ビジネスとして旨みがある(儲けを挙げやすい)という点です。認可保育所の場合には、公立に準じ同等の利用料が世帯の前年度の所得税額と子どもの年度当初の年齢に応じて所得税額階層別に利用料が定められていますが、小規模保育の「横浜保育室」では利用料金は自由なのです。

  ② この「横浜保育室」でも前掲の株式会社日本保育サービスの参入が注目されます。いまのところはまだアスク山手保育室、同あざみの保育室、同本牧保育室等ですが、東京都の場合の認可外保育所である認証保育所に株式会社日本保育サービスがアスク保育園名称で大量に参入したのと同様に、全面的に参入してくるとみてまず間違いないでしょう。「横浜保育室」としてのアスク保育室の利用料金は月極め保育の場合も一時保育の場合も東京都での認証保育所アスク保育園展開の場合の利用料金を標準として設定されています。都の認証保育所もそうですが、「小規模保育」を標榜する「横浜保育室」の場合も受け入れ数は(30名規模もあるにはありますが)認可保育所並かそれに近い60名規模、そしてそれ以上の規模のものがあります。「小規模保育」「保育室」という表現にだまされてはなりません。

  ③ 
認可保育所並かそれに近い受け入れ規模の施設を、認定要件のゆるい「小規模保育」「保育室」としてつくり、企業にとって自由度の高い利用料金で儲けるのですから、認可保育所への参入以上に企業にとっては旨みがある制度なのです。株式会社日本保育サービスは、横浜市で既に認可保育所で最多の20園を開設していますが、そのトップの位置(ネームバリュー・宣伝効果)を使って、実際には「横浜保育室」での全面的な展開をめざしているとみるべきでしょう。

 
  ④ この「横浜保育室」なる独自の制度から浮かび上がってくるのは、「待機児童ゼロ」の「横浜方式」とは文字通り、市から言えば株式会社の全面的導入、株式会社から言えば全面的参入、つまり保育の全面的市場化・民営化以外の何ものでもないということです。横浜市は、認可保育所への株式会社の参入に舵をきっただけでなく
、「認可保育所に入れない待機児童の解消」という羊頭狗肉の看板で「横浜保育室」という形態で株式会社により自由な金儲けビジネスの舞台を与えたのです。

(4) NHKシリーズのように「横浜方式」を「待機児童解消」のための横浜市による行政努力、入所希望世帯・待機児童世帯のニーズと多様な主体による子育て支援サービスの提供のコ―ディネートと美化することはできない!
   

 ここまでの「横浜方式」の検証を通して、「横浜方式」とは何かが非常に鮮明になったのではないでしょうか。「横浜方式」とは、▲入所希望世帯・待機児童世帯の保育のニーズに対して、横浜市が寄り添って就業状態・就労時間や預けたい時間帯や施設の希望を聞き取り、それに対して、認可保育所ではないが多種多様な提供サービスがあるとメニューを示して、相談に乗り、ニーズに適合したサービスの選択肢を与え、その結果、「3年間で待機児童解消」にたどり着いた、▲そこで「保育コンシェルジュ」という独自の制度が重要な役割を果たした、▲いま「待機児童問題」を抱えている自治体にとって大いに参考になる教訓に満ちている・・・というようなものではまったくありません。

 横浜市が果たした「行政努力」とは、チームヨコハマやプロジェクト、保育コンシェルジュの“思い入れ”の要素を捨象して見れば、入所希望世帯・待機児童世帯のために行われたものではないことは明らかであり、子育て支援ビジネスでカネ儲けを狙う株式会社のために、入所希望世帯・待機児童世帯をあっせんしたということ以外の何ものでもありません。

 そして重大なことは、NHKシリーズ(①4月30日放送分)の最後のところでアンケート結果で触れているように、「横浜方式」では保育から取り残される世帯、保育に苦しむ世帯が4割もいるということを、ほかでもないNHKも知っている、NHKもわかっているということです。

横浜市で子育て支援を行っているNPOが、4月、市内で子育てをしている母親を対象に行ったアンケートでは、保育所探しについて全体の45%が “満足” あるいは “ほぼ満足” と回答した一方で “不満” “やや不満” と答えた人も、全体の40%に上りました。 横浜市では取り組みを継続していくとしています。

 要は「横浜方式」では掬(すく)えない、救われない、取り残される世帯が広範にいるということです。次回は、この問題と「保育士不足」の問題についてみていくことになります。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////

次回は、「横浜方式」の「利用料金」の問題と保育職員の賃金等労働条件の問題を扱います。

 

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

株式会社の全面参入、認可外保育所の拡大と小規模保育奨励が安倍の「待機児童解消加速化」プラン

2013年05月13日 | アベノミクス版「子育て支援」批判

シリーズ 《アベノミクス版「子ども子育て支援ー待機児童解消加速化」プラン批判 》前回①では、ー安倍首相の「3年間抱っこし放題」発言、自民党の「育児休業3年延長方針」について書きました。今回はその続き、②です。

「待機児童解消加速化」プラン掲げ、安倍政権が子ども子育て支援法の二年前倒し運用

株式会社の認可保育所参入を自治体に促迫 

・・・・5月2日規制改革会議で厚労省が方針表明

 厚労省は、この5月2日、規制改革会議において、「株式会社の認可保育所参入」を広げるように地方自治体に要請して自治体に認可の積極的緩和を促迫するという方針を表明しました。これが財界と安倍政権の意を受けたものであることは言うまでもありません

  現在の制度でも認可保育所の設置主体に制限はなく、株式会社の参入は認められています。しかし、認可するか、認可しないかは都道府県や政令指定都市などの地方自治体に裁量権があり、「保育の質に不安がある」「認可を求めている株式会社には経営上問題がある」などの理由で、株式会社を排除するケースは多々ありました。

 これに対して、「子ども子育て新システム」への反対を無視して昨年8月22日に野田政権下の自公民合意に基づいて成立した「子ども子育て支援法」によって、同法に基づいて2015年4月にスタートする新制度では、国や自治体が定める認可基準以外では、「資金・財産」「経営に必要な知識、経験」「設置者・経営者の社会的信望」の三点をクリアしさえすれば、要件を満たす株式会社として原則認可される仕組みとされたのでした。

  厚労省の子ども子育て支援法の2年の運用前倒しは、財界と一体の自民党・安倍首相の4月19日の「成長戦略スピーチ」での以下(※下記引用・抜粋参照)のツルの一声に対応したものです。

                001
              5月2日朝日新聞夕刊1面トップ

「子ども・子育て支援新制度」のスタートは、2年後を予定しておりました。しかし、そんなに時間をかけて、待ってはいられません。状況は、深刻です。

 そのため、今年度から、このプランを直ちに実施します。

 平成2526年度の二年間で、20万人分の保育の受け皿を整備します。さらに、保育ニーズのピークを迎える平成29年度までに、40万人分の保育の受け皿を確保して、「待機児童ゼロ」を目指します。 (「成長戦略スピーチ」から抜粋)

 この「待ったなし」で安倍首相が「直ちに実現」と言っている子ども子育て支援法の「子ども子育て支援法の運用二年前倒し」「五年間で待機児童ゼロ」の「待機児童解消加速化」プランの狙いは、要約すれば以下の点にあります。

  (1) 「待機児童問題」の深刻な重大社会問題化の中で、7月参議院選を前に「子ども子育て支援」で女性票目当てに、5月5日の子どもの日を前に、「待機児童解消加速化」プランを安倍首相と自民党が前面に押し出したという点にとどまりません。この短期シリーズでの①(前回)で触れたように、

  (2) 9割非正規化による「成長戦略」のカギをなすものとして30代の女性労働力の根こそぎ動員、そこでネックとなってくる待機児童問題の「解消」を掲げないわけにはいかないという政策テーマがあります。さらには、

 (3) 保育・子育てを市場として民間企業に全面的規制緩和で解禁・開放し、財界と歴代自民党の積年の目標であった福祉解体・保育民営化を一気に促進するものです。「待機児童解消の加速化」とは保育解体、「子ども子育て支援」の大ウソによる全面的民営化そのものです。

 (4) 認可保育所における株式会社立保育所による公立保育所の駆逐、乳幼児保育への株式会社立の認可外保育施設・小規模保育の全面的参入によって、政府財界からみたとき保育所が砦となってしまっている公務員労働組合運動・自治体労働運動、保育職場の団結を一掃するという狙いがあります。

「待機児童解消」目的は大ウソ、保育(福祉)の解体、株式会社への開放ゆるすな!

 (1) 「株式会社の認可保育所参入」については、文字通り保育の市場開放を求める株式会社のために行われるのであって、子どもの保育のために行われるものでもなければ、就労と子育てのはざまで苦しむ働く女性と共働き世帯をはじめとした労働者家庭のために行われるものでもありません。ここは自明ですが、あいまいにしてはならない点です。財界と企業の「保育は自治体にやらせず企業に委ね、企業のカネ儲けビジネスに開放しろ、保育から国や自治体も手を引き、保育を明け渡せ」の要求通り、そして国の「国の財政も火の車だ、減らせるものはとことん減らせ、この際、国のカネを保育には回せない」という財政緊縮・福祉きりすて・民営化政策のために、この「株式会社の認可保育所参入」の「待ったなし」「直ちに実現」が行われるのです。

  遡れば、小泉構造改革・規制緩和のもとで、保育所の設置基準は、入所枠でも入所児童数比の職員数比率でも大幅あるいは無制限に緩和・弾力化され、業務委託化・民営化が始まっています。その際に掲げられたのが「待機児童解消」でした。児童福祉法に基づく保育所の設置基準を潜脱した無認可保育所が民間企業・民間個人のカネ儲けのために乱立され、ちびっこ園・全国チェーンでの乳幼児の年間10件にものぼる保育児童の死亡事故が社会的に発覚したとき、国は規制基準として保育所設置基準を無認可保育に厳格に適用し規制を強め、公立保育所の増設・強化をはかるのではなく、逆に「監督下に置く」という名目で、無認可保育を認可外保育所として「合法化」し、届け出を受け報告を受けることで容認し、あわせて、保育所の区分を認可保育所と認可外保育所とし、「無認可保育」という表現をやめ、そういった定義もやめました。国と歴代与党政権は、公立保育所の増設によって保育ニーズに対応するのではなく、民間の導入・活用を福祉としての保育にかわるものとして制度・政策にビルトインし拡大し続けてきたのです。小泉規制緩和、石原都政や東京・杉並区山田前区政をはじめとする「待機児童ゼロ作戦」は、常に、この保育民営化、保育規制緩和の旗印とされてきました。

  民主党政権による「子ども子育て新システム」も、野田政権下の自公民合意による「子ども子育て法」も、安倍政権によるこのたびの「子ども子育て支援法」の運用前倒し-「待機児童解消加速化」プランも、この「待機児童解消」「待機児童ゼロ」を看板に、公的保育(福祉)の解体、保育の市場化、民営化・規制緩和を究極まで推し進めようとするものなのです。

 (2) 安倍首相の「待機児童解消加速化」プラン、とりわけその「柱」として標榜されている「株式会社の認可保育所参入の判断の即時緩和」については、共働き世帯の激増、さらにはダブルジョブ、トリプルジョブなしには生計を賄えない世帯の増加によって、親の就労のために保育に欠ける子どもが大量に発生し保育所に入れない子ども(待機児童)が激増している状態に対して、これを打開し保育を十全に「保育が必要なすべての母親、世帯」に保障するために出されているものではまったくありません。

  ここであらためてハッキリさせなければならない問題は、「待機児童」とは何か、という問題です。2~4万円の保育費なら子どもを預けることもギリギリ何とかできる、やはり認可要件・設置基準というものがあって子どもを安心して預けられるところがよいと思って認可保育所に入所を希望しても、入所希望者が多くて入れない、さらに入所条件、選考基準が厳しすぎて審査で落とされて入れない子どもを指すということです。ここには、重大なうえにも重大、深刻なうえにも深刻な問題があるのです。つまり単なる「空き」待ち、単なる「待機」ではないという問題があるのです。

  言い換えれば、保育を必要としている共働き世帯、すなわち世帯の収入総額から公立保育所を含む認可保育所にしか預けられない水準の世帯で、申し込んでも既に枠が一杯で入所できない、又は就業日数・就業時間、両親の定収額等々のさまざまな理由で入所が拒まれているケースの総数が待機児童数なのです。

  厳格に言えば、本来なら保育所に入れるべき子どもがありながら、公立にも民間認可保育所も入れられず、入所申込そのものもあきらめざるを得ない、現にそうなっている、「公式の入所希望者数」にはカウントされない世帯の児童数もこれに加えるべきでしょう。

 (ⅰ) 【親の就労のために保育に欠ける子どものための福祉として保育があり、保育所はその福祉の施設なのです。この「福祉」という保育の本来の本旨に立って考えることが大切です。保育所に入れることもできない、施設による保育が受けられない子どもとその世帯に対して、社会・国・自治体がどうするのか、これこそが「待機児童」問題と呼ばれている社会問題の本質です。単なる「保育所の空き待ち」「待機」の問題ではありません。つまり福祉としてあるべき保育の欠如・不足・不備・瓦解・解体の現状の問題として、「待機児童」と呼ばれている社会問題はアプローチされ解決されなければならないということです。】

 (ⅱ) 【ここでの深刻かつ重大な“余談”として言えば、これは、戦後の今も、自衛隊や日米安保や沖縄の現実とその悪化や社会保障制度の法律も含めた改廃や労基法の改悪や民営化・非正規化や原発事故や福島圧殺によって、実際には形骸化・空洞化・ないがしろにされていながらも、国家の統治規範(最高法規)たる『日本国憲法』に「改廃」の手がまだ具体的には加えられていない現行憲法の改悪・解体(安倍首相いうところの「憲法改正」 に手をつけるということです。憲法13条(幸福追求権)、14条(法の下の平等)、25条(生存権、国の社会的使命)、27条(勤労の権利)、98条(最高法規の遵守)、99条(憲法尊重擁護の義務)のすべてに反し、否定するのが、「保育に欠ける子ども」「保育に欠ける子どもを抱える世帯」を制度的実体的に排除・切り捨てるアベノミクス(新自由主義)版「子ども子育て支援」「待機児童解消加速化」だからです。】

 踏み込んではっきりさせなければならない点は次の点ではないでしょうか。このような待機児童を抱えた労働者世帯とは、実際には、20代から30代の若い非正規世帯がその圧倒的過半の実体をなしているということです。その子どもたちとは、3歳未満児が大半です。ここに「待機児童問題」といわれる問題の深刻さがあります。

  ③ 株式会社立の認可保育所は、こうした非正規世帯には子どもを入所させたくても選考基準が厳しすぎて入れられないという厳しい現実があるのです。

 

 両親が、ともに就業時間が週5日・1日7時間(休憩時間1時間は別)を満たさなければ、認可保育所の入所の選考基準では受け入れてもらえないというのが実際には今では一般的になってしまっています。認可保育所への入所とは、非正規共働きにとっては「針の穴にラクダを通す」ほどの、ほとんど無理不可能な難関なのです。さらに「非正規共働き」というだけで、ろくに相談に乗らずまともな選考審査もせず、「収入の不安定性」を理由に門前払いで断られるという現実が実際にはまかり通っているのです。

 株式会社立の認可保育所は、たとえ国や自治体が定める設置基準やガイドラインに適合した認可保育所ではあっても、子ども子育て支援法のもとでは、入所は保護者と企業との自由契約のシステムです。入所させるかさせないかは、企業の一方的裁量によって決まります。

   つまり、子ども子育て支援法で児童福祉法や「自治体の実施義務」「児童福祉の措置義務」から基本的に自由(無規制)となった株式会社立の認可保育所の増加は、もっとも保育が必要な非正規世帯、そこに累増している待機児童の問題を、解消・解決するようなものではまったくないのです。

  福祉としての保育を否定・解体し、それにかわるものとして、就業形態や経済状態によって「受けられる世帯」と「受けられない世帯」が生みだされる「子ども子育て支援サービス」の制度に切り替えられ、株式会社は専らその「受けられる世帯」を対象としてその「子ども子育て支援サービス」を提供するものだからです。政府が言う「就業と子育てに苦しむ女性に活躍してもらうために、ネックとなっている待機児童問題の解消のために、株式会社の認可保育所参入を促進し、保育の受け皿を前倒しで準備し確保する」というのが、大ウソであることは、まずもって明らかです。保育の本旨に立った「保育に欠ける子どもとその世帯」すべてに対する福祉でない限り、「待機児童」問題と言われているこの保育の問題は解決されないのです。福祉とはそういうものであり、保育とはそういうものです。「待機児童解消加速化」はそうした、すべての人々に保障されるべき福祉、すべての子どもに保障されるべき保育とは、縁もゆかりもない、その対極にある福祉切り捨て、保育解体です。

これが保育・子育てに苦しむ非正規世帯への「保育・子育て支援」だとでも安倍首相は言うつもりか?!

・・・・認可外保育所への支援と小規模保育の拡大促進とは親たちにとっては、高い利用料を苦労して無理やり工面したうえ、行われる保育への不安を抱えながら、子どもが命を落とす保育事故の危険さえ潜むところへ白紙委任するようなものだ。

 安倍政権は、この株式会社の認可保育所参入の緩和・促進とともに、「待機児童解消加速化」プランの実際のウエイトを認可外保育所への支援の強化による増設と小規模保育の奨励・促進(20人以下の小規模保育、事業所内保育、保育ルーム・保育ママによる預かり保育、保育ママの居宅訪問保育等々)に置いています。安倍首相は4月19日の「成長戦略スピーチ」では「待機児童解消加速化」プランについて、以下のように言っています。

「全国で最も待機児童が多い」という状況から、あの手この手で、わずか3年ほどで、待機児童ゼロを実現した市区町村があります。「横浜市」です。

やれば、できます。要は、やるか、やらないか。

 私は、待機児童の早期解消に向けて、このいわば「横浜方式」を全国に横展開していきたいと考えています。

 まず、これまで国の支援対象ではなかった認可外保育施設についても、将来の認可を目指すことを前提に、力強く支援します。

 これまで支援の対象としてこなかった20人未満の小規模保育や、幼稚園での長時間預かり保育も、支援の対象にします。

 さらに、賃貸ビルなども活用して、多様な主体による保育所設置・新規参入を促すとともに、事業所内保育の要件を緩和して、即効性のある保育の受け皿整備を進めてまいります。

 安倍首相がここで言っている「横浜方式」については、「待機児童解消加速化」プランの実体モデルとなっているので、このシリーズでは、次回③で見ていきます。

 ここでは予め、それに先だって次のことを指摘しておきます。

(1)認可外保育所やいわゆる小規模保育は、認可保育所に入所できない「待機児童」、前述申し上げた点からいえば、その過半をなす非正規共働き世帯の子どもたちの保育の受け皿になり得るでしょうか?

 確かに認可外保育所や小規模保育は、認可保育所のように設置基準や認可要件といったものからは自由ですから、施設数は増やせ、枠としての入所・預かり枠は大きくなるでしょう。

 認可保育所の場合のような入所条件や選考基準もほとんどありません。言いかえれば、保育料金(カネ)さえ払えれば入所させられるでしょう。

 だが、まさにその保育料金(カネ)の問題、認可外保育所や小規模保育たとえば保育ルームや保育ママの場合には、料金の問題が、今度は認可保育所入所の場合の入所倍率、選考基準にかわる《最大の難関》です。現在、実際の可外保育所の保育料金は概ね認可保育所の場合の2倍前後ですが、3倍にもなるところもあるのです。認可外保育所は認可保育所の場合よりもはるかに高いのです。おまけに入所では、認可保育所では求められることもない預かり金まで事前に高額とられます。認可外保育所や小規模保育は、保育を売っているのです。買う金(保育料)がなければ保育は受けさせることはできません。子ども子育て支援法の新制度では、認可保育所への株式会社参入以上に、この認可外保育所や小規模保育の保育料金の問題に、制度のギラギラした本質が現れていると指摘している人も少なくありません。カネがなければ子どもに保育を受けさせられない、いっさいはカネ次第だからです。

 非正規共働き世帯にとっては、両親がともに昼夜分かたずボロボロになるまで働いて稼いでもその何割かが保育料として払う金に消えるのです。認可保育所の保育料金でも厳しいのに、これでは認可保育所に子どもを入れられなかった非正規共働きの世帯にとっては、認可外保育所や保育ルーム・保育ママは、最後の「助け舟」「頼みの綱」にもならないのです。

 しかも、公立保育所や認可保育所のように基準や要綱があって設備やスタッフの水準が確保されている場合と違って、そういうものがない認可外保育所や小規模保育では、子どもを安心して預けることができるでしょうか。子どもがを預けるにも不安を抱かざるを得ないところに、共働きでやっとのことで稼いだなけなしの金をはたいてわが子を預けるしかないというのは、地獄の苦しみに等しいことです。そう思います。

 要するに、安倍首相が言っていること、やろうとしていることは、株式会社の認可保育所参入にせよ、認可外保育所支援にせよ、小規模保育の拡大にせよ、保育を必要としている非正規共働き世帯には、保育などまったく保障しない、保育で苦しんでいる非正規世帯などどうなってもかまわない、というに等しいことです。何が、どこが、「待機児童解消加速化」でしょうか!安倍首相の言っていること(「待機児童解消加速化」)とやっていること(非正規世帯の保育のきりすて)はまったく真逆です。だから大ウソとだまし討ちだというのです。

(2)安倍首相「待機児童解消加速化」プランには、本当に、あげればきりがないほど、怒りに堪えない、ゆるせない点が山ほどあります。

 ◆前掲引用の通り、安倍首相は「あの手この手で待機児童ゼロ実現」「要はやるか、やらないか」「賃貸ビルなども活用」「多様な主体」「即効性のある保育の受け皿」・・・と非常に乱暴で粗雑な手法で「待機児童解消」のためには何でもありといわんばかりです。

 ◆認可外「保育所」、小規模「保育」と「保育」とは言うけれど、肝心の保育の中身については安倍首相は触れるところがありません。これでは、公立保育所に入れられず、民間の認可保育所からもはじかれて、喉から手が出るくらい、藁にもすがる思いで、「子どもの保育」「保活」で苦しんでいる渦中の20代、30代の親であっても、「ちょっと待って」「これでは自分の子どもを安倍首相があげるあの手この手においそれと委ねるってことにはならないのではないか」「いったい子どものこと、子どもを預ける私たちのことを何だと思っているのよ」と考えるのも当然です。

 ◆「賃貸ビルの活用」とか「事業所内保育」とか「あの手この手」を並べていますが、安倍首相は、いま保育所に入れられず「保活」で苦しんでいる世帯の身になって考えたことがあるでしょうか?安倍首相が「保活」に苦しんでいる人間の立場に置かれたら、自分の子どもをさまざまの設置基準が義務付けられている公立保育所や認可保育所ではないところに、預けられるでしょうか?

 ◆まるでコインロッカーに子どもを出し入れする、とにもかくにも預け先さえあればどこでもかまわない、そういう感覚で、いま「保活」で苦しんでいる親たちがいるとでも考えているのでしょうか? 子どもの命と安全、育ちにかかわる保育の問題をこれほど軽々に扱う宰相もいないのではないでしょうか?

 ◆親代わりになって、子どもの命と安全、育ちを預かり、自分の目が子どもに届き、見守ることができる環境、条件、施設空間、複数の経験と知識がある資格を有するスタッフが十分に配置されていて、一瞬目を離したらその一瞬が子どもの死亡事故につながりかねないという緊張ある保育の仕事でスタッフが全神経を集中してチームプレーで臨んではじめて、百人百様に個性があり年齢も特徴も成長段階も異なる子ども、とりわけ乳幼児の保育に責任をとれる職場・・・それが本来の保育の現場であり、保育の仕事というものです。こういう保育のイロハと言うべき連綿たる日常の仕事に、まるで無知無理解なのが、安倍首相の「待機児童解消加速化」プランの「やるかやらないか」「あの手この手」「即効性」の発想ではないでしょうか?

 ◆保育現場では、小泉規制緩和以来、保育事故は画然と増え続け、とりわけ、「子ども子育て支援新システム」議論開始以来、社会的に明らかにされただけでも1年間に10数件の乳幼児の死亡事故が、この数年、続いています。こういう子どもの命と安全の問題、責任を伴っているのが保育だということ、そしていま保育現場が危なくなっているという問題を、一度でも安倍首相は今度の「待機児童解消加速」プランで考えたことがあるでしょうか?一瞬でも子どもの動きから目が離せない、しっかりした体制とスタッフと職場環境・保育スタッフの労働条件なしには保育重大事故が絶えないのが保育の現場です。安倍首相のスピーチからは、そうした保育の現場に対する認識の一かけらも、保育所や小規模保育に子どもを預けて働きに出る親の気持ちに対する思いも気遣いの一かけらもまったく感じ取ることはできません。安倍首相の「待機児童解消加速」プランからわかるのは、子どもを預かる「場所」、「器」、「箱」、「入れ物」さえあれば、預かる「人」さえいれば、それを揃えさえすれば、いま深刻な社会問題にもなっている「待機児童」問題に蓋ができるのではないかという安直で粗雑な発想、無責任な考え方だけです。

 ◆いや、それさえも資本のカネ儲けの道具にしようとしているということです。認可外保育所、小規模保育、事業所内保育、保育ルーム、保育ママ(預かり、居宅派遣)・・・・、すべて企業にかかればカネ儲けの道具です。企業として仕切り、コ―ディネートし、パート・アルバイトを多用し、ピンハネし、・・・・。そこでは必ず子どもの命にかかわる重大事故が起きます。事故はそこで働くスタッフ、パート、アルバイトのせいで起きるのではありません。少なくとも、これからは、「待機児童解消加速化」プラン、そうです、安倍首相あなたが引きおこすのです。

《次回に続く》 ③「横浜方式」とは何か

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安倍政権、大うそとだまし討ちの「子ども子育て支援」「待機児童解消加速」

2013年05月07日 | アベノミクス版「子育て支援」批判

★シリーズのはじめに

   安倍首相が4月19日の「成長戦略スピーチ」で「子ども子育て支援」「待機児童解消」についてかなりのスペースを割きウエイトを置いて位置づけとプランを出しました。アベノミクスの当座の「好調」に有頂天になって「3歳まで抱っこし放題」はじめ色々な問題発言を行い安倍その人のKYぶり(・・・空気が読めていないこと)と社会で起きている物事への無知無理解ぶりをさらけだしていますが、もちろん最大のテーマは、このスピーチと政府、自民党の方針としていま出されている「子ども子育て支援法」の運用の2年前倒しによる「株式会社の認可保育所参入の即時全面的推進」「認可外保育所への支援拡大と小規模保育の奨励・拡大」、「待機児童解消加速化」プラン推進の問題です。結論的に言って、これは全面的な民営化による保育の解体・一掃です。公立保育所を実体的中核として歴史的に形成されてきた(福祉としての)保育、その後の社会保障の解体攻撃の中で「最後の砦」としてギリギリのところで守られ存続してきた保育の最終的解体を狙う攻撃が、この安倍政権の「待機児童解消加速化」プランです。

  安倍首相と政府・厚労省は「待機児童解消加速」と言いながら、「認可保育所への株式会社参入の促進」とは言っても「認可保育所の増設」とは決して言いません。認可保育所は認可要件にかなう公立保育所と株式会社や社会福祉法人等の民間保育所です。あえて具体的に「株式会社の認可保育所参入の促進」というのは、公立保育所を新設・増設する考えは国にはないということであり、市町村の公立保育所もこのかん業務委託・外部委託・指定管理者制度等で大半が本来の公立保育所とは様変わりしてきており、株式会社の参入促進で株式会社立の認可保育所が勢いを増せば、子ども子育て支援法に自公民合意で潜り込ませた「公私連携型法人」「公私連携型認定子ども園」の条項・規定により、公立保育所もその地位を株式会社に明け渡すことになると見込んでいるからです。

  この「株式会社の認可保育所参入の促進」と「認可外保育所の支援の強化」「小規模保育の奨励、支援、促進」こそ、公立保育所を中核とした(福祉としての)保育の解体です。これを「待機児童解消加速」「「4年間で待機児童ゼロ」の大ウソのスローガンで、「抱っこし放題」のキャッチコピーでやるというのです。まさに文字通り、あらゆる面からの、「あの手この手を使った」民営化による保育の解体です。こんな大ウソでだまし討ちを食らうわけにはいきません。

 「待機児童解消加速」の大ウソによる保育解体・一掃のだまし討ちです。▲ぎりぎりのところで団結を崩さず、民営化と対峙し保育職場をまもってきた保育職員、▲委託職場・民間職場で低賃金・不安定雇用下、同じ非正規世帯や共働き世帯の子どもの保育の質を落とすことに反対し、職場環境と雇用形態・労働条件の改善をもとめて歯を食いしばって頑張ってきた非正規職員(契約社員・非常勤・パート・アルバイト)▲共働きでわが子を保育に預けて働く保護者(労働者)にとって、抗議の声をあげ、一歩も譲れないだけでなく、一歩前に出て声をあげるときが来ました。自らと仲間、わが子の現在と未来、生活を賭けた、職を賭けた、人間としての誇りを賭けたたたかいのときが来ました。保育職場から立ち上がろう!同じ仲間である保護者(親たち)と結んで立ちあがろう。街頭に打って出て、安倍政権の「待機児童解消加速化」「子ども子育て支援」の大ウソと保育解体のだまし討ちへの抗議で社会的反撃をまきおこして闘おう。「待機児童」の問題で国と自治体がすべきことは公立保育所の新設・増設と保育労働条件の抜本的改善・向上、非常勤・非正規職の正規化だ!株式会社の保育参入や、無認可保育所拡大、小規模保育促進ではない!民営化に絶対反対!保育を守れ!

安倍首相の「3年間抱っこし放題」発言、自民党の「育児休業3年延長方針」に対し、徹底した怒りの弾劾・抗議を!

 安倍首相が、7月参議院選での女性支持票拡大のあけすけな狙いで、4月18日日本テレビで行った「育児休業期間の3年間への延長」発言、4月19日「成長戦略スピーチ」の中で触れた「3年間抱っこし放題」発言と「今後5年間で保育受け皿40万人分確保による待機児童解消」発言をめぐって、働く女性、子育て中の女性、出産を予定している女性、これから結婚しようという女性を中心に、ほとんど総スカンで反発と批判と怒りの議論がまき起こっています。いくら参議院選の女性票目当てにせよ、いかにアベノミクスによる株価上昇・金融バブル再来に有頂天のあまり、図に乗った軽佻浮薄発言にせよ、人を愚弄するもはなはだしいというものです。

 

  (1) 保育・子育てめぐる深刻な現実に対する根本的無知・無理解・・・安倍首相「三年間抱っこし放題」の軽佻浮薄暴言

  安倍首相が、ここで言っているのは、子育て、保育という女性・母親にとっても女性・母親にとどまらず家庭と社会、未来にとってのかけがえがない子どもたちの問題に関することです。いま子ども子育てで最大の問題となっているのは何でしょうか?実際の保活の厳しさ(子どもを保育所に入れられず、働くために必死で行われている入所できる保育所さがし、経験したものでないとわからない苦労と困難。今日では若者の就職が困難を極めている「就活」になぞらえて「保活」と呼ばれるようになっています)、子どもがいる働く女性、共働き家庭における保育・子育ての問題をめぐる困難と切実な苦悩に対して、まるで無知無理解で偏頗な認識で、「育児休業三年延長=三年間抱っこし放題」などというキャッチコピーで支持が得られるだろうと思っていること自体、人を愚弄するもはなはだしい、怒りにたえない話です。


 (2) 参議院選での女性票目当て

 そこには「子育てはママ(母親)が家庭でするもの」という自民党保守ならではの一貫せる伝統的家族観が見え隠れしています。安倍発言を聴いて「夫(男・父親)が社会で稼いでいるのだから、妻(女・母親)が家事・育児で家庭を守るのは当然。子育ては女の仕事」という家族観にカチンときた人はたくさんいると思います。しかも、そう言いながら、選挙での女性(ママ)票目当てで、実際に実施されているのは2・6%にもかかわらず、男性の育児休業の現実を知ってか知らずか「8819(パパイク)」「イクメン促進」まで無責任なリップサービスよろしく軽口で挙げています。魂胆があまりにも見え透いた話です。

 (3) 一般職や非正規の共働き世帯にはおよそ無縁な「育休3年」

 愚弄するもはなはだしい問題の核心は次のことです。「3年間抱っこし放題?」「育児休暇3年間?」!!! 安倍首相は何を現実として見ているのか?何も見ておらず、何も知らず、何もわかっていないのではないか!! 時給いくらの世界で日々の生計をしのいでいる非正規共働き家庭にとっては、「育児休業3年間」「3年間抱っこし放題」などおよそ自分たちの現実とは無縁な別世界の話です。「いったい、3年抱っこし放題など安倍首相はどこの誰に向けて話しているのか」と批判されているように、ごくわずか、ごく一部の恵まれた条件にある人々にしか与えられない例外中の例外の世界の話に過ぎません。そもそも育児休業とは言いますが、育児休業期間の給付金は中小企業やパート・アルバイトの世界ではまったく保障されないし、大企業で育休給付金制度を実施している場合も正社員でなければ保障されず、その給付金もこれまでの給与額にはまったく満たないものです。「3年間育児休業延長」と口先だけ「子育て支援」のようなことを言っているように聞こえますが、ごく一部の恵まれた環境にある家庭以外の圧倒的大半、非正規や一般職の家庭は、そのかん、どうやって生計を維持すればいいのでしょうか。

  安倍首相はどこの誰に向けて言っているのか無自覚かもしれませんが、「抱っこし放題」とは「3年間は育児に専念せよ」ということであり、一般職の労働者世帯、中小企業や非正規で働く労働者世帯にとっては「子どもはつくれない」「子どもをつくるな」というに等しい実に許せない暴言です。

 (4) 核心は、「成長戦略」のための30代女性の非正規労働への根こそぎ動員

  そのうえで、安倍首相が、アベノミクス「三本の矢」の三本目の矢としての「成長戦略」について、それが軌道に乗るかどうかの鍵は「戦略の中核である女性の活躍」にあると「成長戦略」スピーチで強調している点は、自民党と安倍政権の「子ども子育て支援」政策の正体を考える上で重視する必要があります。 これはまさに労働者の9割非正規化・総非正規化・ワーキングプア化の犠牲の上に濡れ手に粟でカネ儲けする新自由主義、アベノミクス版「子ども子育て支援」です。

現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは女性」です。女性の活躍は、しばしば、社会政策の文脈で語られがちです。しかし、私は、違います。「成長戦略」の中核をなすものであると考えています。女性の中に眠る高い能力を、十二分に開花させていただくことが、閉塞感の漂う日本を、再び成長軌道に乗せる原動力だ、・・・・(4・19安倍首相「成長戦略スピーチ」:官邸hp)

 そうです。安倍首相にとっては、女性は「活用しきれていない労働資源」なのです。安倍首相は「輝く女性の活躍」「女性の登用」だの、前掲引用のように「女性の中に眠る高い能力」「閉塞感の漂う日本を再び成長軌道に乗せる原動力」だのと持ちあげてみせ、「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上としたい」、「自民党は女性を党の四役という要衝に二人登用した」と言い、「経済団体にも役員に一人は女性を起用すべきと進言した」などと吹聴していますが、この「成長戦略スピーチ」で言われていることは、男性労働力よりはるかに人件費が廉価ですむ女性労働力をとことん活用しようという政府財界の雇用(労働資源)戦略にほかなりません。

  「欧米はじめ世界各国と比べて30代女性の就業率が著しく低く落ち込み、M字カーブとなっているのが日本である」と、日本的雇用構造と保育の不十分性・不備・欠陥への国の制度・政策責任を棚上げした勝手な女性就業率分析から、この就業していない30代女性を低賃金で非正規雇用すれば企業の利潤率がもっと向上する、というものでしかないのです。

 資本(企業)は、長時間労働を軸とした労働強化と賃金の切り下げによる強搾取で利潤を紡ぎ出そうとします。日本の財界は、1995年日経連プロジェクトの報告「新時代の日本的経営」ではそのために「経営的資源たり得る労働力人材=1割正社員」「9割=非正規、不安定有期雇用」としました。

 9割非正規化とは、にいま就業している労働者(男女)の非正規化にとどまらず、中卒高卒の少年から家庭の主婦、さらには退役労働者である高齢者、さらには障害者、病気の人々まで、「老いも若きも」、資本が利潤をあげつづけるための廉価な労働資源として非正規労働に駆りだすということ以外の何ものでもありません。安倍首相が「成長戦略スピーチ」で「老いも若きも全員参加の成長戦略」と言っているのはこのことにほかなりません。これが安倍首相が「能力が十分に発揮され活用されていない」とする若い世代・女性・高齢者等の全員に対して求めている「チャレンジ」です。大恐慌・大不況・大失業のもとで労働に駆りだす層に、資本の側で制限はありません。搾取できるかぎりは誰からも最後の血の一滴まで搾取しつくす、失業と窮乏の恐怖・不安から労働に駆りだせば駆りだすほど、安く労働力を買いたたけ、労働条件の切り下げも賃金の切り下げもどんどん進めやすくなり、その分利潤は上がるというのが資本(企業・財界)の論理なのです。

 ここから、「活用できていない(⇒企業の利潤を生みだす非正規雇用にまだ十分に動員・駆り出せていない)30代女性(女性労働力)」を「活かしきる」・・・このことを安倍首相は「女性の活躍」「女性の中に眠る能力の十二分の開花」「成長戦略の中核」「成長軌道に乗せる原動力」と言っているのです。

 「3年間抱っこし放題」(安倍首相発言)「育休3年延長」(自民党方針)に対して、本能的直観的に30代を中心に働く女性、子育て中の女性はじめ多くの人々が胡散臭さ、違和感を覚えた最深の根拠は、▲この政府財界の狙いである労働者の9割の非正規化、▲共働き化のもとで切実な苦悩となり死活的な要求となっている子ども子育て支援とは裏腹に、実体を伴わない口先だけの虚構性、▲それゆえの政府がやろうとしていることと人々が求めていることの真逆な乖離の大きさによるものです。安倍首相の本音はスピーチでも出ています。「社会政策(※⇒社会保障や社会福祉としての保育=子ども子育て支援)ではなく成長戦略(※⇒企業・財界にとって儲けになる雇用戦略)」・・・この本音が安倍首相の「子ども子育て支援」をめぐる発言の端々に見えてしまうということです。

 安倍首相の「アベノミクス」や「世界最高水準の安全技術による原発再稼働」や「失業なき労働移動による雇用」等々、安倍首相が言うことなすことは、このように、ことごとく、大うそとだまし討ちです。30代女性をターゲットにした廉価な非正規労働力としての動員が狙いの「三年間抱っこし放題」「2013年・14年の2年で20万人分、2017年までの4年で40万人分の保育受け皿の確保で待機児童ゼロ」も実にゆるしがたい大うそとだまし討ちだということです。

 (5) 「3歳になるまでは家庭の責任で育児・養育の子育て」「3歳児からは学校教育課程」

  ここでは簡潔に済ませたいと思いますが、安倍首相が自民党の参議院選挙マニフェストの作成過程で「育児休業期間延長」(現行制度では期間は1年)の年数にこだわり、「3年」と明記することを強く求め、経済団体・企業サイドからの疑問符や慎重意見も押し切って「育児休業3年延長」方針となったという経過の問題があります。

 自民党は、一貫して「3歳児からの教育課程」「幼児教育を3歳児から」という制度改革に執着してきました。戦後の歴史的な経過では、子どもを預けて共働き形態の世帯と父親が働き母親が育児する専業主婦形態の世帯という、母親が就労か専業かで保育所と幼稚園にすみ分けしてきたという面が、実体はほとんど子どもの養育で大差ないまでも保育所と幼稚園の分化・併存にはありました。前者(保育所)には親の就労のために保育に欠ける児童への「福祉」が、後者(幼稚園)には小学校就学前の準備としての「教育」が国の制度・政策契機となっており、法令も前者は児童福祉法、後者は学校教育法を根拠とし、所轄官庁では、前者は厚生省(現在の厚生労働省)、後者は文部省(現在の文部科学省)の管掌とされてきました。自民党は、その一元化のために「3歳児からの幼児教育」を軸に再編し、「保育(福祉)」には国のカネは出さず、家庭と民間企業に委ね、「幼児教育」にだけ国のカネを使うという「幼児教育の無償化」政策の制度化をめざし、たえず追求してきました。安倍政権による今般の参議院選向けパンフレットでも自民党は「幼児教育の無償化」を掲げています。

 このようにみると、「教育再生」「教育改革」を強く押し出している安倍首相が「三年間抱っこし放題」「育児休暇3年延長」と言いだした根幹には、「3歳までは家庭で育児・養育」「3歳以降は学校教育」という自民党の国家戦略、その基礎をなすものとして保守層に位置付けられている教育改革戦略が、-それが「子ども子育て支援」政策との関係でどれほど実現性や整合性があるのかどうかは措くとしても- 透けて見えます。3歳を境とする「子どもの養育」と「幼児教育」への制度上の区分とは、保育に欠ける子どもへの「福祉」の最後的解体と国家主義的な幼児教育への一元化を意味します。

 (6) 保育・子育ての責任を放り出したこの国・政府に、未来は委ねられない!

 これほどデタラメで無責任な話はありません。子どもは、社会の次代の担い手、未来そのものであり、国の未来を担う宝です。たとえ安倍首相や自民党が「3歳からは幼児教育」と勝手に決めようが、「三年間は抱っこし放題、三歳までは家庭で育児」と謳おうが、保育の問題は共働き就労が続く限り厳然として、社会の責任であり、それはとりもなおさず、国がある限り国、その政府の責任です。

 そもそも国も企業も私たちの就労・労働のおかげで養われ支えられているのであって、保育は国、企業の責務です。言い換えれば、この国と政府は、保育、子ども子育てには、もはやいかなる責任もとらなくなった、放り出した、とれなくなった、破たんした、この次代にかかわる根本的な問題でいかなる解決能力、統治能力を持ち合わせていないということです。未来をこの国と政府に、安倍政権に委ね続けることはできません。いま起きている保育、子育てをどうするのか、という問題には、個別政策領域としての「保育、子育て」にとどまらない、どういう社会にするのか、この国を社会のありかたもろとも、政府もろとも、変えるのか、それとも政府・支配層の言いなりで道連れにされ、無茶苦茶な破滅を招くのかという問題がはらまれているのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする