すぎなみ民営化反対通信

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「潜在待機児童数1764名」「保育士不足」の横浜のどこが「成功モデル」か!

2013年05月22日 | アベノミクス版「子育て支援」批判

《「横浜方式」批判の続き》

 記事の準備中に、5月20日林文子横浜市長が「待機児童ゼロ達成」記者会見をひらき、「横浜市の全区でゼロ」「横浜市の待機児童ゼロ目標達成で成功モデルをつくった。横浜市の取り組みについて全国に情報発信していく。この地平を継続して堅持していくとともに、次は保育の質と保育士不足の解消の課題だ」と報告し、抱負を述べています。また、同日、安倍首相は、示し合わせたように、横浜市の保育園を視察し「横浜市のように安倍政権が待機児童ゼロを全国で実現します」「やればできる」と言っています。

                        
【因みに、この林文子横浜市長、東レ、松下電器産業を経て、以降はホンダ、BMW、BMW代表取締役社長、ダイエー代表取締役社長兼CEO、日産自動車販売代表取締役社長を経ていまの横浜市長になった。米フォーチューン誌で「米国外のビジネス業界最強の女性経営者」「世界ビジネス最強の女性50人」ともてはやされ、本人もこの経歴と評価が気に入っている・・・そういう新自由主義の「申し子」のような人物、私たち労働者の敵そのものです。特に非正規化でぼろ儲けした自動車産業畑ということはきっちり確認しておきましょう。】

林市長自身が「ほんとうは待機児童ゼロではない」と認め、把握しているだけでも1764人の「潜在的待機児童」がいることがわかっているのに、何が「横浜市全区でゼロを実現」「横浜市で成功モデルをつくった」だ !!

 5月20日の林市長「待機児童ゼロ目標達成」記者会見で林市長は「全区でゼロ」「待機児童ゼロ目標を完全実現」「やればできることを示した成功モデル」とくり返し強調しました。しかし、記者から問われたためか、ウソはつけませんでした。「厚生労働省の定義ではゼロだが、まだ希望しているところに入所できていない多くの児童がいる」と!
  どういうことでしょうか?
  待機児童(数)とは、本来、認可保育所に入所を希望して入所できなかった児童(数)のこと、そういう意味です。横浜市の認可保育所への今年度入所の希望児童数は4万8818人、これに対して実際に認可保育所に入所できた児童数は4万7072人(3740人増)、認可保育所への入所を申込んだ児童だけに限っても、差し引き1764人の待機児童が発生しているのです。
  これを「潜在的待機児童(数)」と呼ぶらしいですが、「潜在」も「顕在」もあったものではありません。まぎれもない「待機児童」「認可保育所に入所を希望して入れなかった児童」です。1764人という人数を超重大視すべきです。「待機児童全国最多の1552人」「ワーストワンの横浜市の待機児童数」、この3年前の待機児童数より多いのです。

 【「横浜市 待機児童ゼロ」カウントのインチキ・ごまかし】
 では、どうやって「待機児童ゼロ達成」などというのか?その1764人中、
 ①横浜市が開設した認可外保育施設「横浜保育室」に横浜市の「行政努力」で入れた児童887人は、「待機児童(数)」扱いにせず除外、②(入所先は内定しているが)第一希望の認可保育所入所にこだわり続けている児童(世帯)も除外、③育児休業延長で育休を選択した児童(世帯)も除外、④インターネット等で求職活動中の世帯も除外、この①~④の除外合計で、1764名の待機児童は、「ゼロ」とされているのです。「厚労省の定義」のイカサマもさることながら、まず「ゼロ目標達成(の発表)」ありき、まさに、そのためにする「ゼロ」のための除外ではありませんか!このことを会見でも認めながら、「待機児童ゼロ目標達成」「全区でゼロ」「全国の成功モデルをつくった」と強調しているのですから、何をかいわんやで、本当にゆるせない会見です。5月20日の会見をニュースで聴いて「市民感覚とのズレを感じる」「横浜市の言っていることには違和感がある」という声が広範にまきおこっているのも当然のことです。

  NHKシリーズでも横浜市の「待機児童ゼロ」チームの職員は「保育所に入れたいというとき認可保育所に入れることとしてしかとらえない」と「入所希望世帯が保育(保育所)について思い違いしている」「ないものねだりをしている」と言わんばかりにコメントしたうえで、「(認可保育所以外でも)こういう保育サービスがあると丁寧に説明した」という「取り組み努力」を重ねたことを教訓として語っていました。ここに示されている考え方で、前記①の「横浜保育室」は「入所希望をかなえたもの」として除外し、前記②~④は、認可外保育ならかなえられたのに、認可保育所にあくまでこだわって、その選択方途を放棄して「待機」「育休」等を自分で選択したのだから、・・・と「待機児童数」から除外しているのです。

  こんなゆるせない話はありません。

  なぜ認可保育所に入れなかったのか?単に入所希望者が多過ぎてそうなっているわけではありません。
認可保育所の入所条件・選考基準をクリアできない入所希望世帯が選考で落とされたからです。なぜ認可保育所にこだわって「待機」を選び、また「育休延長」や「求職活動」を選んだのか。保育料から認可保育所にしか入所させられないから、「横浜保育室」等の利用料金が認可保育所より高い認可外保育所に入れることもできないからです

「横浜方式」では、利用料金の問題が深刻なうえにも深刻!認可保育所へは選考基準で入所できず、「横浜保育室」へは利用料金が高くて手が届かない!この若い非正規共働き世帯の苦しみを切り捨てるのか! 

  「待機児童を抱える世帯」の過半が20~30代の若い共働き非正規世帯であることを前回強調しました。認可保育所の場合には保育料は、前年度の世帯の所得税額と入所当初年度の子どもの年齢で保育料は階層的に設定されています。その保育料は前述の若い共働き世帯非正規世帯では、大変でも支払えない額では基本的にありません。ところが、認可保育所では「両親ともにフルタイム就労」という入所条件・選考基準が実際には適用されています。そのために非正規共働き世帯は、認可保育所には入れたくても、入れず、入所させようとすれば、認可保育所の利用料金(保育料)より高額の利用料金をとられる認可外保育所にたよるしかありません。

  そこで利用料金の問題を具体的に見てみます。認可外保育の「横浜保育室」であるアスク山手保育室の利用料金を例示すると以下の通りです。

【月極め保育】
▽週4日の場合(1日4~6時間:43000円、6~8時間:45000円、8~11時間:47000円)
▽週5日の場合(4~6時間:46000円、6~8時間:48000円、8~11時間:50000円)
▽週6日の場合(4~6時間:48000円、6~8時間:50000円、8~11時間:52000円)


【月極め延長保育】
▽~30分:2000円、~60分:4000円、~90分:6000円

【一時保育】 1時間:900円

 因みに、上記、アスク山手保育室の利用料金体系は、東京都認証保育所のアスク両国保育園の利用料金と概ね同じで、株式会社日本保育サービスのアスク展開の設定標準額とも言えます。

  若い共働き非正規世帯は乳幼児がいても認可保育所からははじかれ、それでは認可外保育施設・小規模保育が「助け舟」「頼みの綱」になるかといえば、認可保育所の場合の2~3倍もの保育料金が求められる・・・最も優先的に保育が保障されるべき世帯が最も険しい、厳しいところに立たされているということがわかります。

【「横浜保育室・利用料金は上限58100円」が「利用料金に公平感を持たせる」?】

 NHKシリーズでは、「横浜方式」について認可保育所との間で今度の「横浜方式」でのサービス提供で入所世帯に「公平感を持たせる」努力を横浜市が払っているとコメントしています。「公平感」というとき、施設の整備や保育士の水準等の点もあるでしょうが、共働き世帯、とりわけ非正規共働き世帯にとっての最大の点はやはり利用料金です。20~30代の非正規共働き世帯の所得年額には一定の幅があっても、基本的には、認可保育所の場合なら保育料は月2万円台かそれ以下にとどまります。「横浜保育室」の場合は上限額なら月58100円まで利用料金(横浜市こども青少年局の提出資料)を払わねばならず、前掲アスク保育室なら、月4万数千円から5万円台になります。「横浜保育室」以外は、当然「58100円」を超えるところも多々あります。これが横浜市が言う、認可保育所と認可外保育所で入所者にとって料金格差をつくらず「公平感を持たせる」ということですか?!

 前掲横浜市こども青少年局提出資料によれば、確かに「横浜保育室」に限って、10000円~50000円の減免があるようです。しかし、基準がはっきりしないし、そうした減免制度を続け得る財源見通しに裏打ちされた根拠も定かではありません。本当に「公平感を持たせる」、否、(「公平感」は「~らしさ」に過ぎませんから)「公平」にするためには、『入所世帯の前年度所得税額と入所児童の年齢から階層的に設定されている認可保育所の保育料金を超える額は全額横浜市が助成(負担)する」と具体的に横浜市は明示すべきでしょう。そうしないのは、そうはならない、「公平」でもなければ、「公平感を持たせる」ものでもないということです。

【「横浜方式」は名実ともに、福祉としての保育の解体・きりすて。保育を必要とする非正規共働き世帯のきりすて・見殺しが「待機児童ゼロ達成」宣言の核心】

  子どもを預けたくても料金が高くて預けられないで就業か保育か、どちらかをあきらめて苦しむ・・・そもそも子どもをつくれない・・・、これは決して誇張ではありません。一時保育の時間当たり料金は900円、これはパートやアルバイトの場合の時給900円という一般的水準と同じです。働いて稼いだ金は全部、保育に消えるのです。象徴的に数字を挙げ対比しましたが、これが子どもを保育所に入れたくて苦しんでいる非正規世帯が直面している現実です。

 自治体は、保育について、義務として保障しなくなった、保育をそういうものとして実施しない!子育て支援ビジネスの株式会社からカネで買うものになった、利用料金を支払うカネがあれば受けられるが、そのカネがなければ受けられないものに変わった、このことを「横浜方式」は示したのです。この一点で、「横浜方式」は住民の福祉の実施という行政努力などではまったくありません。この点にアンケート回答は反応し、「40%が不満」という結果が出ているのです。(アンケートについては、NHKシリーズ①4月30日放送分・・・前回記事で参照欄を開いて末尾をごらんください。)

 
 
 

何が「保育士の確保のために保育士の処遇改善に取り組む」だ?!・・・ 保育士資格取得者や保育職経験者が保育職場に就かないのは、国や自治体が保育をコスト削減のために民営化・非正規化し、政財界が企業のカネ儲けのために超低賃金・総非正規化を進めているからだ!

 「横浜方式」で保育を必要とするすべての人々に、それは保障されるのか、という問題についての現実の回答はかくも過酷なものでした。では、「横浜方式」のもとで行われる「子育て支援」サービスの中身、これまで「保育」といわれてきたものはどうなるのか?それは保育士の行う仕事に、従って保育士の労働者としての地位、労働条件、勤務形態、職場環境にかかっています。

 「待機児童解消加速化」のためにと、安倍首相は「保育士の確保が必要だ」と言っています。認可保育所への株式会社参入や認可外保育の拡大の促進とともに、保育士が不足し「保育士の確保」なしには「待機児童解消加速化」も絵に描いた餅になるからです。

 保育士も確保しなければなりません。保育士の資格を持つ人は、全国で113万人。しかし、実際に勤務している方は、38万人ぐらいしかいません。7割近い方々が、結婚や出産などを機に、第一線から退き、その後戻ってきていません。 保育士の処遇改善に取り組むことで、復帰を促してまいります。4・19「成長戦略スピーチ」)

 保育労働者の皆さんから言えば、「誰のせいで、何のおかげで、こういう事態になったと思っているのか」という話です。
 もともとは保育所の大半を占めていた公立保育所では、適正な面積と設備の職場で、受け入れ人数に対する職員数の適正配置が義務付けられ、労働基準法にかなう労働条件がまがりなりにも保障され、保育士が常勤・正職員として勤務し、保育の仕事に従事していたのです。しかし、歴代自民党政権が、「保育はカネがかかりすぎるから、自治体がコスト削減に励むか民間に委ねよ」とコスト削減と民間委託を迫り、自治体が人件費削減のために常勤を減らし非常勤やパートにとって替え、民間委託や業務委託を拡大してきたことによって、正規・常勤職員も含めて保育職場の労働者の賃金はどんどん、削られてきたのです。企業立の民間保育園では、自治体立保育所に先行して、保育士資格を持った契約社員・パートとアルバイトがほとんどというスタッフ構成で賃金も低賃金化の一途をたどってきたのです。

 民間では、たとえ保育士資格をとって保育園に就職しても、契約社員で月給18万円とか園長職・主任格でも月給22万円。パート・アルバイトスタッフでは時給800円~900円で細切れのシフト勤務、それも週2~3日から3~4日の日替わりローテーション勤務というのが、こうして現在標準化・一般化している保育労働者の賃金です。これは雇用の9割を非正規不安定雇用とするという財界の経営指針にそって進んできた低賃金非正規化のもとで、保育園でも当たり前のようにまかり通っている現実であり、自治体立の保育所でも広範な非常勤化、アルバイト多用、民間への業務委託で進行している現実です。

 そこへ、このかん保育園受け入れ定員の天井を外すような詰め込みが加わり、保育現場はそうでなくてもテンテコマイの職場が大変な労働強化の現場となっているのです。どんなに子どもが好きでどんなに保育に生きがいや情熱を燃やして臨んでも、これでは中途退職が出ても不思議はないし、資格を取っても求人票で賃金・時給欄、勤務形態を見て保育園就職に二の足を踏む人が出ても何の不思議もありません。

 安倍首相が言うように「結婚や出産が理由で退職した」というだけでなく、乳幼児の子育て期が過ぎても復職しないのも新卒・保育士資格取得者が就職先に保育園を選ばないのも、いったん就職しても長続きしないのも、この保育職のそれだけでは暮らしていけないような低賃金非正規構造、勤務体系に根本原因があります。

 この低賃金・総非正規化政策、保育園の非正規・不安定雇用構造をつくりだした政財界の側にいる安倍首相が、その責任を棚上げして、口先、小手先で「処遇改善」を言い出しても、誰が信用するかという話です。そもそも、保育労働者の賃金・労働時間等の労働条件、雇用形態、勤務形態、職場環境の悪化、劣悪化はいま始まったことではありません。保育労働者がこの厳しさの中で懸命に保育職場を守りとおしてきましたが、保育に情熱と使命感をもちながら身体的にも精神的にも耐えられなくなってボロボロにされどれほど多くの労働者が職場を離れざるを得なかったのか、また意欲も情熱もあって保育士資格をとりながらこの賃金では暮らしていけないとどれほど多くの保育士資格取得者が断念せざるを得なかったのか、「処遇改善」を言うならとっくの昔に施策化されているべきことです。それを行わず、株式会社の全面的参入と「待機児童解消」のために、「保育士の確保」が必要になったからと、今頃になって「保育職員の処遇改善」などと言いだしていること自体、ゆるせないことなのです。しかも「処遇改善」は口先の話に過ぎず、実際に大量に出されている企業の求人情報は、それとは真逆の生きていけない超低賃金と細切れ勤務シフト、日替わりローテーションの非正規不安定雇用、契約社員・パート・アルバイトです。

 「横浜方式」の中での逸話として、NHKシリーズでは、横浜市での60人定員の認可保育所の開園で園長として保育士16人の募集をかけたが、応募はまったく集まらなかった、それで2万円ほど給与を当初の募集要項より増額し、交通費全額支給等に変更したら、やっと職員が確保できたという話が出てきます(5月1日放送分)。その給与額さえ、正社員19万7800円、パート・アルバイトでは時給850円~950円でしかないのです。2万円増額してこの程度なのです。これは前掲のアスク保育園、株式会社日本保育サービスの各園の場合の水準と同じです。

  新聞折り込みチラシやインターネットの求人情報で給与欄をみた人はわかると思いますが、これはファミリ―レストランや宅配ピザハウスのアルバイトの時給水準と同じです。職業職種による賃金比較で保育職の賃金は安すぎると批判しているのではありません。この国日本の社会全体で、労働者の賃金は、家族が生きていけるかどうかのギリギリまで押し下げる、それ以下もあるという食べられない低賃金構造が平均化してきているのです。問われているのは、非正規職という制度をそのままにしてその「処遇改善」を行うと口先で言い、小手先だけのゴマカシの施策を行うことではなく、非正規職(制度)を撤廃することです。9割非正規化、総非正規化を国策としている政府が、それをするはずがありません。それは私たちがたちあがって、たたかって、かちとる闘いです。

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