2007年中越沖地震と柏崎刈羽原発への強い揺れの集中という調査結果の解析にとっても、予測される最も恐るべき危険の認識にとっても、これまで専門家間ではこの問題は非常に大きな鍵になってきました。今日は、この2007年7・16中越沖地震をひきおこした活断層の構造の問題に触れたいと思います。ここに踏み込むことが、柏崎刈羽原発の一刻も早い、一刻の猶予もならない即時廃炉を決定づける大きな論拠のひとつを構成すると考えるからにほかなりません。もちろん、断層構造がどうあろうと、また仮に活断層があろうとなかろうと原発は絶対に即刻廃炉すべきことは言うまでもありませんが。
原発は地上に設置された原爆(核爆弾)にほかなりません。その核爆弾が、大量に、地震で破壊的強震動(キラーパルス)をひきおこした活褶曲・活断層群の真上に設置されています・・・それが東電柏崎刈羽原発です。2007年7・16新潟県中越沖地震は、そのことを明らかにしたのです。同原発はただちに廃炉しなければ、巨大原発震災による破滅・破局はいつおきても不思議がない、その一刻を争う超危険性については、いくら強調しても強調しすぎということはありません。
2007年7月16日、地盤変動が柏崎刈羽原発のほぼ直下で起きた
下図は、国土地理院の2007年7・16中越沖地震に伴う地盤変動ベクトル図(第二報)です。図中の白抜きベクトルは傾斜を考慮に入れた黒ベクトルの修正です。

柏崎刈羽原発建屋では、これだけの傾斜変動がおきていた
【1~4号機側の建屋レベル変動図】

【5~7号機側 建屋レベル変動図】

上図で明らかなように、1・2・3・4号機でも、「土捨て場」をはさんだ5・6・7号機でも、1年前のレベル値と比べれば7・16地震後のレベル値との差でわかるとおり、沈下(落ち)が各号機原子炉建屋の各所に発生しており、多数の傾斜ができています。
前回記事の58分動画でも「沈下幅数センチ~手のひら大(10センチ超)」がわかる画像をごらんになれますが、沈下は、即、建屋の傾斜や設備や配管の破断・ずれ・損傷となるから、大変な傾斜が発生したということがわかります。しかも特徴的なことは、最大傾斜面の発生の方向が各建屋で違います。どういうベクトルで震動が働いたかが上図でわかります。これは要するに柏崎刈羽原発が乗っかっている地盤はこの地震動でズタズタになっているということです。
柏崎刈羽原発に強い揺れが集中した2007年7・16中越沖地震に関する当時の共同通信の配信記事の転載
揺れの強さは最大2000ガル超 中越沖地震で柏崎刈羽原発
東京電力は30日、柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市・刈羽村)で観測された新潟県中越沖地震の揺れの強さ(加速度)が、水平方向で最大2058ガルに達し、7基の原子炉すべてで、設計時の想定を大幅に上回っていたと発表した。 7基中5基で1000ガルを超える加速度が観測された。東電は、これまでに地震計から得られた速報値であり、機器に与える影響や詳細な分析は今後進めるとしている。
同原発では既に、基礎となる岩盤のすぐ上に当たる1号機原子炉建屋の最下層、地下5階床上で、最大で想定の約2・5倍に相当する680ガルを観測していた。
同様に想定の約2・5倍に相当する2058ガルが観測されたのは、3号機タービン建屋1階のタービン架台上で、基礎からみて建物のかなり上部に当たるため、揺れがより増幅されたとみられる。
2007/07/30 09:39 【共同通信】
「キラーパルス(破壊的強震動)が柏崎刈羽原発を襲った」 ・・・・2007年8月10日原子力安全委員会での地震学・強震動の専門家の報告とその後の専門家間のアスペリテイ議論は重要
衝撃の専門家報告の存在
2007年8月10日の原子力安全委員会「耐震安全性に関する調査プロジェクトチーム」第三回会合で、元京大教授で地震学・強震動の専門家であり、当時耐震指針検討委員会委員でもあった入倉孝次郎教授から、1995年1・17阪神淡路大震災で顕著に確認された「破壊的強震動」(キラーパルス)が柏崎刈羽原発を襲ったとする衝撃的な報告がそこで行われています。(入倉氏の提起は、東井玲さんの2007/08/16サイトで報道されています。(⇒http://janjan.voicejapan.org/living/0708/0708130705/1.php)
入倉氏報告は、①中越沖地震(柏崎刈羽震災)では、マグニチュード6.8の中規模地震が、柏崎刈羽原子力発電所にまるで狙いを定めていたかのような形で、キラーパルス(破壊的強震動)を発している、②中越沖地震で、原発の周辺地域での揺れより原発での揺れがはるかに大きく、激しい地震波が原発に集中しているのは、柏崎刈羽原発のある地盤の構造の軟弱性の問題とともに、地震の際に震源断層面の中でも強い地震波を発する震動をおこした領域(アスペリティ)がいくつか中越沖地震では顕著に認められ、そのアスペリテイの位置とその原発との位置関係によるものと認められる、というものです。
8月8日の地震調査委員会でも8月10日の原子力安全委員会でもそうですが、入倉氏は当初、地震を起こした震源断層について「北西落ち(北西に行くほど下がる)」という北西傾斜説をとっており、会議等での専門家間議論では「南東落ち(南東に行くほど下がる)」)とする南東傾斜説とのあいだで断層構造モデルの確定は見ていませんでした。
※ 当初の入倉氏・北西傾斜説については『2007年新潟県中越沖地震にみられる強震動と震源断層モデル-破壊的強震動が柏崎刈羽原発を襲ったー』(2007年9月4日 修正版)参照 ⇒ http://www.kojiro-irikura.jp/pdf/2007cyuetsu_ppt.pdf
しかし、その後の諸データの集約・整理、専門家間の研究と集中的な議論で、2007年7・16中越沖地震の震源断層モデルは、南東傾斜説で集約・確定しました。南東傾斜説をとっていたのは釜江克宏京大原子炉実験所教授をはじめとした専門家でしたが、入倉氏も最終的にこの南東傾斜を認めています。
※ 『2007年新潟県中越沖地震にみられる強震動と震源断層モデル-破壊的強震動が柏崎刈羽原発を襲ったー』(2008年3月19日 再修正版)参照 <o:p></o:p>
⇒ http://www.kojiro-irikura.jp/pdf/cyuetsu_080319.pdf
「北西傾斜」(当初・入倉氏説)か「南東傾斜」(釜江氏説)かという以上に、私たちにとって最も重要な意味を持っているのは、2007年7・16中越沖地震に関して、当時私たちが聞かされていた「原発の揺れは周辺よりはるかに小さい」とは反対に、「周辺の揺れは決して大きくないのに、原発では顕著に大であった」ということが、さまざまの報告データとともに地震専門家の研究・解析議論を通して、決定的に明らかになったということです。
そこでの最大のテーマは、破壊的強震動をもたらしたアスペリテイの問題、その位置の問題でした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アスペリティーとキラーパルスの問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
入倉氏同様に、アスペリティと原発の位置関係を重視している釜江氏は、アスペリテイについて強調しています。
「(1)地震は地下の岩盤が急激にずれることで生じるが、岩盤のずれは決して断層面全体にわたって一様ではなく、大きくずれるところとほとんどずれないところがある。通常は強く固着しているが、地震の際に急に大きくずれるところを「アスペリティ」と呼ぶ。
(2)アスペリティの位置・大きさ
アスペリティの位置や大きさは、地震波の記録を分析によって推定することができる。最近では,高密度GPSによるプレートの観測によって、地震波の記録がない場所でも、アスペリティの判別が行えるようになった。その結果、アスペリティの位置や大きさは、地震ごとにまちまちだと思われていたが,プレート境界ではあらかじめ特定の場所に決まっていることが分かってきた。」
※釜江克宏氏の2007年7・16中越沖地震に関する見解については『平成19年新潟県中越沖地震の強振動の特徴-原子力発電所サイトを襲ったと思われる強震動とは?-』詳しくは下記標題のPDFを参照
⇒ 「平成19年新潟県中越沖地震の強震動の特徴」
◆地震・強震動の専門家である入倉氏・釜江氏らの研究と議論を中心にして、完全に明瞭になった問題、その核心は、柏崎刈羽原発は震源地の直近であったからという漠然とした理由だけでなく、地震に際してそれまで強固に結びついていると思われていたところでありながら実際には最も大きくずれる危険性があるアスペリテイが目の前にあったことです。柏崎刈羽原発の南西にそのアスペリテイの一つがあった。東電は「活断層調査」と称してどこの断層を調査していたというのか。キラーパルスと呼ばれる破壊的強震動をひきおこすおそるべきアスペリテイそのものが原発の目の前にあった。
⇒前掲「平成19年新潟県中越沖地震の強震動の特徴」(釜江京大教授)の48頁の図にそのアスペリテイが○印で示めされています。
そのアスペリテイが柏崎刈羽原発を直撃するキラーパルスを発した。その結果が、柏崎刈羽原発に周辺よりはるかに大きな地震波が集中した理由です。これは「どこに原発をつくってはいけないのか」「どういう耐震対策を必要とするか」の議論ではもとよりない。そんなものはこのおそるべき事実で、吹っ飛んでいます。私たちが怒りを込め、声を大にして言わねばならないことは、震源は柏崎刈羽原発から約16kmとはいうものの、震源断層は、海岸線にほぼ平行して原発の目の前を通っているということであり、震源地が少しでも実際よりずれていたり、7・16地震を上回るような地震が起きていれば、柏崎刈羽原発は、ズタズタどころか、壊滅的大事故にいたる原発大震災になったであろうということです。キラーパルスということから例えて言えば、《阪神淡路大震災》が柏崎刈羽原発そのもので起きる、それはまた即、《3・11福島原発事故》ということです。
前記東井玲さんの記事では、こう書かれていますがまったく同感です。
「一事が万事、こうして日本の原子力発電所は建設されてきたのです。地下は見えないし、歪がどれだけ溜まり、すでに臨月を迎えているのか否か、などまるで判りません。いつだって地震は突然襲ってくるのです。
そんな中で『活断層調査は十分行った』『十分な耐震性を考慮して建設した』『原発震災などありえない』……そう繰り返してきた電力会社、建設会社、許可してきた政府、審査に関わった専門家等々を、これからもまだ信じますか。」
★結びとして・・・・・
アスペリテイとキラーパルスに収斂された《中越沖地震と柏崎刈羽原発》をめぐる解析結果と専門家議論は衝撃的なものですが、《中越沖地震と柏崎刈羽原発》の問題の核心部に迫るものであることは間違いないように思います。 《中越沖地震と柏崎刈羽原発》に関するネット上の重要記事の転載、専門家の意見の紹介も含めて今回思ったのは以下の点です。
① 政府・東電・IAEAの「中越沖地震の柏崎刈羽原発への安全上の影響は軽微」「事故レベルはレベルゼロ」はまたく根拠もない大うそであり、同地震は原発のほぼ直下を震源とするもので起きた同原発の被害損傷も広範かつ深刻なものだった。地震の激しい揺れも被害も原発に集中した。
② 3・11福島原発事故のような凄惨凄絶な未曾有の原発事故にいたらなかったからと言って、政府・東電・IAEAのように、一対をなしている▲柏崎刈羽原発そのものの超危険性と▲直下の活褶曲・活断層構造そのものの危険性の問題、アスペリテイとキラーパルスの問題をいずれも軽視するようなことは絶対に許されない。ここまで危険が明々白々とされながら再稼働など発想していること自体が許されない。
第一に、この原発事故は、柏崎刈羽原発にキラーパルスが襲うという最大の激震をもたらしたこと、その結果、あわや3・11福島レベルにもいたりかねない事故を起こしたことを軽視することは断じて許されない。
第二に、それでもIAEAが「予測に反して原発への影響は軽微」とごまかすような事故にとどまったことは同原発の耐震能力によるものではまったくなく、震源地の位置、アスペリテイと原発の位置関係、地震による地盤・地層の破壊の方向性による単なる偶然に過ぎない。
③ すなわち、原発直下を震源とするキラーパルスが柏崎刈羽原発を襲って、同原発で一帯地域で最大の揺れ(強震動)を観測しながら、にもかかわらず、あえて言えば「この程度の損傷、被害」にとどまったが、震源位置が少しずれた場合やマグニチュード・震度がより激甚だった場合には、2007年7・16事故どころでは済まされない未曾有の原発事故を引き起こすのが、柏崎刈羽原発でありその直下活褶曲・活断層構造、多数のアスペリテイの存在だということである。
④ 結論的に言えば、絶対に原発をつくってはいけない超危険な場所にこの柏崎刈羽原発はつくられているということをあらゆる意味で示したのが、2007年7月16日中越沖地震だということである。原発は原爆である。原爆(核兵器)そのものが存在すること自身が危険である。その核兵器が大量に、破壊的強震動をひきおこす大地震がいつ起きても不思議がない地盤構造、多数の活褶曲・活断層の走る地盤の上にあるということである。いかなる「耐震基準」や「新安全基準」が定められようと、またそれが「遵守」されようとも、地震や強震動はその「基準」を守ってくれるわけではない。
⑤ 柏崎刈羽原発は「世界最大の原発」である。その世界の原発推進国における位置が地震によって瓦解すること、そのことが暴露されることを、政府もIAEAも最も恐れている。シンボライズされている「世界最大の原発」である柏崎刈羽原発が運転できていないことは、原発推進の各国政府、原子力マフイアにとって致命的となる。福島事故原発に続いて柏崎刈羽原発がつぶれたら、福島第一第二と柏崎刈羽しかない東電は壊滅するが、ことは東電の破たんにとどまらない。「東電がおしまい」になるだけでなく、彼らにとって最大の関心事は「原発はおしまい」になることなのである。そうするわけにはいかないというのが彼らである。そこから「何事も起きなかった」ように「中越沖地震による事故レベルゼロ」ですべてに蓋をし、何があろうと「運転再開」を強行する、それが、3・11フクシマがあってなおのこと、政府、財界、東電、国際原子力マフイア、IAEAの利害を賭けて柏崎刈羽原発の早期再稼働への暴走となっているのである。これは言うまでもなく、破滅・破局の道であり、私たちは道連れにされるわけには行かない。「世界最大の原発」「世界で最も危険な原発」柏崎刈羽の再稼働阻止はもちろんのこと、即刻廃炉こそが一刻を争う。
⑥ 2007年7・16中越沖地震による柏崎刈羽原発事故のすべてに蓋をしたのが当時の第一次安倍政権であり、東電、IAEAである。彼らは、いま安倍政権のもとで、福島の圧殺のために総力を傾けるとともに、柏崎刈羽の再稼働に全力を傾けてくる。福島とともに柏崎刈羽が決戦になる。柏崎刈羽の再稼働を万が一にも許すことになれば、「新安全基準」で「対策済み」としているように福島第二の再稼働すらやってくるだろう。すべての原発廃炉の戦いは、この2013年、決定的な正念場の決戦となっている。安倍晋三首相について言えば、3・11福島第一原発事故をわすれさせようとし、福島の圧殺の上に福島第二の再稼働すら考えており、また、中越沖地震・柏崎刈羽原発事故をなかった話として蓋をし、柏崎刈羽を再稼働させようとしていること、これは、もう《人間失格》としか言いようがない。