すぎなみ民営化反対通信

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指定管理現場・図書館からみる公務員制度解体・「道州制」・民営化

2010年09月25日 | 杉並図書館指定管理をめぐって

 前回記事(9月22日)からの続きです。

現場から見える「公務員制度改革」と「新しい公共」の正体

地域図書館12館全館指定管理で何がどうなるか?

 既に6館が今年4月から実施されている杉並区の地域図書館12館全館指定管理者制度導入がそのまま区の決定通り全館で実施されると結局どうなるのでしょうか?杉並区の図書館事業はどうなるのでしょうか。山田宏前区長に変わって新たに区長となった田中良区長は、開会中の区議会本会議で「慎重に実施する」と答弁していますが、あらためて、この地域図書館全館指定管理で何がどうなるのかという問題の結論と意味についてはっきりさせる必要があります。これだけ取り出してみれば、杉並区という自治体、その図書館という一事業で起きている問題ですが、杉並区全体という単位、東京都という単位であるいは国という単位に置き換えてみて同様のことが行われたらどうなるかという発想で考えてみてください。実にとてつもなく構造的な大攻撃であることが一目瞭然です。とはいえ、ここではまず杉並区に即して整理して、そこから論を進めましょう。

(1)図書館の仕事をことごとく外注・民営に

  杉並区立の中央図書館を含む13館による図書館事業は、地域図書館12館全館が指定管理者制度による民間企業の運営に変わることで、図書館事業の行政的中枢機能を除いて全部、民営化される。

 中央図書館は既に窓口業務は業務委託している。つまり、杉並区は、区立図書館のうち中央図書館の一部の中央機能を除く図書館としての図書館の仕事(業務)はことごとく外注し、民営にするということです。

(2)民間各社による業務・運営と「公立」の有名無実化

 中央図書館の窓口業務と今年4月1日実施の6館の運営が、株式会社図書館流通センター(TRC)、丸善株式会社、株式会社ヴィアックス、大新東ヒューマンサービス株式会社という民間企業によって現在担われているように、全館指定管理では、各館ごとに図書館業務・図書館運営が別々の民間各社によって行われる

 それでも「TRC図書館」「丸善図書館」「ヴィアックス図書館」・・・というわけにはいかず、あくまで杉並区立図書館だからそれぞれに異なる業務主体・運営主体たる各社を指導監督する位置と役割は中央図書館が担うということで中央的機能だけが残る。ここで重要な点は、仕事としての図書館業務における指揮命令権は各館ごとに民間各社に専属するということ。中央図書館といえども業務上の直接の指揮命令権を各館で行われる業務に対して持っていないということ。

 中央図書館の「指導監督」は名ばかりで、図書・資料等の共通データーベースの中央的管理機能と標準的ノウハウの政策的な助言機能、館長会議の定期的開催の主宰機能があるだけ。たとえば館長会議でも、各館で起きている現場の問題を区(自治体)=中央図書館はほとんどつかめない。そもそも図書館の生の仕事(業務)は管理職がデスクワークだけでつかむことのできない、現場で首を突っ込まなければ決して理解も解決もできない。おまけに館長会議に出てくる各館館長は互いに競い合っている民間各社。各社が自分が管理・運営する図書館で起きたネガティヴな問題を隠ぺいし、「うまくいっていること」「いかに問題が起きていないか」しか報告しないのは目に見えている。区の中央図書館長を通しての行政上の「指導監督」も、せいぜい、事務的レベルの連絡や(個人情報漏出等の)事故があった場合に注意することができる程度の「名ばかり指導監督」に過ぎない。

 指定管理者制度実施によって、「区立図書館」という名称は残っても、その「区立」とは区が区の財政で建て、これまで区の財政で整備してきた図書・資料を保管している施設(イレモノ)で区が指定管理費を出しているという以上の意味はない。

(3)ボトムラインの超低賃金で激務を担う典型的な非正規職場

   全館指定管理で起きる最大の激変は、図書館で業務に従事する労働者の賃金等の労働条件の問題です。中央図書館で前記した中央的機能に携わる職員だけが常勤の公務員各地域図書館館長と業務主任の計2、3名が民間(指定管理者企業)の契約社員でしかも基本的に非常勤、スタッフはすべてパート、アルバイト。中央図書館も前記公務員職員を除いて、パート・アルバイト。

 各社が出している求人情報によれば、館長や業務主任でも月額10数万円~20数万円パート、アルバイトの一般スタッフは時給800円台、高い場合でも900円台。図書館の仕事で重要な専門性の意味を持っていた司書資格と司書としての図書館実務経験も、時給でプラス10円~20円程度の加算に過ぎない。

 指定管理者制度の実施によって、図書館は典型的な非正規職場となる。図書館の仕事に携わる従事者の90%程度が低賃金で、年金も医療保険もない、雇用契約期間が数年~1年の明日なき不安定雇用の状態強いられる。時給800円台~900円台のパート、アルバイトも細切れシフト制、週勤日数上限があり、給与月額は4、5万円~10万円以下だ。これで生きていけるというのでしょうか?文字通りのワーキングプア職場です。

  しかも何か問題が発生し、運営能力が不適格と評価されたり、企業が図書館ビジネスとは別のビジネス等で経営破たんした場合には、指定が解除、契約打ち切りによって、企業が切られ、その瞬間、労働者は職を失う。

(4)これまでの図書館の職員(公務員)はどうなる?

  これまで地域図書館で働いていた職員はどうなるのか?区は全館指定管理者制度導入の際に、「解雇ではなく異動」とし、実際に本庁や他施設・部署へ「異動」しました。組合との労使交渉や議会答弁でも「非常勤は雇い止めにはしない」と確認しました。今度区長になった田中良も区職全般にわたることですが「クビにはしない。解雇はしない」と言っているようです。では地域図書館全館指定管理に伴う職員(常勤・非常勤)の「異動」は、これまでも普通に行っている区役所内の何年かおきの異動とかわりがないものなのでしょうか?そうではありません。

 まず田中区長の「クビはきらない、解雇はしない」から。ハッキリさせるべきですが、2011年には国家公務員法改正が行われ2012年度には実施されます。地方公務員法改正も同時に連動して強行してきます。そこでは、「協約締結権」を付与する代わりに公務員の賃金等の労働条件も解雇も自由にできる仕組みに変わります。田中区長が「地域図書館全館指定管理者制度の実施は慎重に進める」と答弁し「少なくとも(既に今年4月実施の6館の)一年程度の運営期間を確保して評価・検証して進めていく」と答弁したことにはウラがあり、そのウラとは、この解雇自由化の公務員制度改革を前提にしているということです。導入を既に決定済みの残る6館の実施に際しては、《公務員の身分保障》付きの「異動」ではなく職員のいったん全員解雇が計算されているということではないでしょうか。田中区長は法律の改正、公務員制度改革を楯に「クビにはしない、解雇はしない」の確認を必ず反古にしてきます。

 そもそも区は「コストダウン(経費縮減)効果」を目的として図書館全館指定管理を決定しました。田中良も「最小経費」を第一に掲げています。図書館事業で指定管理者制度実施でコストダウンしても、「異動」では他事業他部署でその「異動」職員分の人件費がかかり、区のトータルコストでは節減とはならない。私たちの批判の論点は「経費節減にはならないではないか」ではなく、「『異動』は全館指定管理のための当座のペテン。これは全員解雇攻撃の始まりだ、絶対反対」ということでなくてはなりません。

 さらに「異動」させられる現場の職員の実際の想いと鬱々とした不安の問題があります。「解雇だ」「クビだ」と言わなくても辞めたくなるように仕向ける「異動」は事実上の「クビ」ということにほかなりません。

  図書館の仕事に苦労に耐えて使命感と意欲をもって長年専念してきた司書の職員にとってはその仕事を奪われる、辞めさせられるということです。「異動」部署は民間で言う「異業種」のようなものです。パッと頭や気持ちの切り替えが簡単にいくわけではない。

 ② 区の本庁等の他の部署で「不向き」と一方的に評価され、さらに図書館での仕事の大変さに対するまったくの無理解と過小評価から「図書館なら勤まるだろう」と図書館に「異動」で配置されてきた職員にとって、目が回るような忙しさと利用者接遇の大変さに何とか慣れてきたところでの「異動」は図書館激務からの「解放」になるか。自分を「不向き」と言って図書館に異動させた本庁等のどこかの部署に戻されて果たしてそこにその人の「居場所」「仕事場」があるか。これは職員が自分から嫌になって辞めるように仕向けているということではないのか。辞めざるを得ないように追い込むこと、仕向けることもほとんどクビきりと同じではないか。

 つまり全館指定管理とは、現職員の全員クビきり、全員解雇だということです。それでも図書館で働きたい職員は、指定管理者(民間企業)に契約社員やパート・アルバイトで採用されるしか道がないということです。

(5)図書館の労働組合は一分会まるごと消えてなくなる

 これまで杉並区役所には杉並区職員労働組合(杉並区職労)があり、中央図書館と地域図書館には杉並区職労の組合員で構成する図書館分会がありました。12地域図書館の指定管理・民営化でこの図書館分会がなくなってしまいます。正確にいえば中央図書館に数名の組合員からなる分会が残るか、それもなくなるかということですが、要するに杉並区立図書館という中央図書館も含めて13の職場から、労働組合が一瞬で消えるということです。図書館職場から憲法28条に基づく団結権の保障がなくなるということです。

 全館指定管理のもとでは、労使関係はすべて各館ごとの指定管理者企業=民間各社と杉並のその図書館に派遣・配置される労働者の関係となります。これらの企業=使用者は図書館ビジネスを看板にしていますが実体は図書館サービススタッフの人材派遣会社です。契約社員にもパート、アルバイトにも自ら労働組合をつくらない限り、労働条件等の交渉を行うすべもありません。しかも組合の結成等を採用時にあらかじめ禁圧しています。指定管理者制度、民営化=非正規化とは労働者を団結させない、労働者の団結権を認めないということにほかなりません。

(6)地域コミュニティ支える図書館の役割の解体

 公立無料の図書館が、地域社会で果たしている役割はとてつもなく大きいし、今日ますます重要になっています。図書館に行けば、読んでみたい本や新聞全紙があり、知りたい情報とその材料・資料があり、問題解決の手掛かりを得ることができ、それを手助けしてくれる職員がいる、だから地域コミュニティの大切な拠り所となり、人々の集う場所となっている・・・・。この図書館のかけがえのない役割は、ひとえに図書館の仕事に公務として従事してきた司書をはじめとする職員の連綿たる仕事の組織的な蓄積と継承、その努力によって築き上げられ、培われ、守り抜かれてきた財産です。指定管理者制度の実施、図書館民営化はこの図書館の社会的役割を根こそぎ解体するもの。《図書館がなくなる》、域住民は《図書館を失う、奪われる》ということです。

 社会経済情勢の激変と生活状態の変化、情報の死活性の中で図書館に対する人々の要求はますます大きくなり、図書館を支える職員の仕事はますます質的な変化、量的な拡大、献身的な多忙化に直面しています。この時代と社会、地域の要請に図書館が応えるためには、職員を増員し、図書館事業の質量充実のための財政を強化する以外に道はないはずです。

 「最小経費で最大効果、多様な質の高いサービス」という指定管理者制度・民営化は、根本的に図書館の社会的役割と時代の要請に逆行しており、公立・無料という図書館の制度原則に敵対し阻害する反対物です。核心は、図書館を支える労働者に、生きていけないような労働条件を強い、図書館の仕事に責任をとれない職場環境と勤務体系を強いることで、図書館を土台から解体していくところにあります。区が言うように「多様な質の高い」図書館事業は、指定管理者制度・民営化では絶対にもたらすことはできません。これまで図書館職員の献身的努力によってギリギリに維持されてきた図書館の水準から後退し、それどころか図書館が図書館ではなくなってしまいます。公務員が優秀で民間が駄目だということではまったくありません。労働者のせいではなく、民営化のせいです。

(7)外部評価制度(第三者機関)は指定管理がひきおこす何事も解決しない

 縷々上記した指定管理者制度実施がもたらす幾多の大問題を外部評価制度や第三者機関が解決できるはずがありません。当サイトの前々回9月21日付の記事で詳細にあきらかにしている通りです。

  外部評価制度や第三者機関は、指定管理者制度の実施・継続を前提にして、当該指定管理者企業の運営が「コスト面」や「サービス面」で適切かどうか、改善すべき点があるかどうか、評価・検証し、不適切な点があれば改善を、その企業には運営をゆだね続けることができないとすれば指定解除を区に対して報告し、別の指定管理者に切り替えるように勧告するだけです。図書館を図書館たらしめている労働者の労働条件等についてはまったく関与しないし、予め切り捨てています。

政財界が言ってきた「新時代の日本的経営」、「この国のかたち」、菅民主党政権の「新しい公共」「公務員制度改革」

 図書館全館指定管理とは、こうしてみると、そのものズバリでこの国の政財界がそこに向かおうとしている国家経営戦略であることがわかります。

 ◆公務員は全員いったん解雇するということ。

 ◆これまで「公務」「住民の福祉」として行ってきた役所の仕事は全部民間企業が行うということ。

 ◆労働者の9割は超低賃金で不安定雇用、年金も医療保険もない、労働基本権が奪われている非正規職にすること

 ◆労働組合はなくする、つくらせない、つぶすということ

 ◆これまで住民の福祉とされてきたものがことごとくきりすてられ、焼け野原状態になるということ

 「地域主権改革」と呼ぼうが「道州制」と言おうが、「新しい公共」と言おうが、政財界が突き進んでいる道の行き着く先は、こうした社会です。

 企業がこの大恐慌時代に国際競争に打ち勝って利潤をあげ、日本が資本主義として生き残るためには、今までの制度を全部破壊しリセットしてそういう社会システムに切り替える。公務員制度とか地方自治とか住民の福祉とか労働基本権といったものは邪魔になった。公務員の身分保障を取っ払い全員解雇で公務員制度をいったん廃止しないかぎり労働者の9割非正規化という企業の「生き残り戦略」は成り立たない。

 これが政財界や新自由主義者が「地域主権改革」「この国のかたち」「道州制」「新しい公共」「公務員制度改革」等と言っている攻撃の同じ核心です。その考え方があからさまに政策化されたのが、杉並区の地域図書館全館指定管理だということです。

正規・非正規の垣根を超える労働者の団結、分断を超える労働者と住民の団結で公務員制度解体・民営化・地域図書館全館指定管理を打ち破ろう

 参院選惨敗以来、零落はなはだしく見る影もないのが山田宏氏。山田宏のホームページは参院選以来まったく更新されず放置されたままです。ところでこの杉並区立図書館の地域図書館12館全館指定管理者制度導入はこの山田前区政によって決定されたものです。

  特徴的だったのは、ほとんどの主要施策をセンセーショナルに大量の事前宣伝で周知して、その物量で施策を強行してきた山田前区長は、この図書館指定管理については黙っていきなり決定し、一方的に強行し、区議会で6館指定管理者の指定が議決承認されるまでは一言も触れてこなかったことです。そのためには、職員の雇用、身分に直接関係するものでありながら、それまでの諸施策の場合とは違って、労働組合への事前のいかなる通知もなしに一方的に強行してきたことです。

 ◆ 思い当たる伏線は山田区長の「これまでの一部署、一職場といったものではなく、(民営化については)ワープ(時空超越)といった制度まるごと、事業まるごとの単位で実施を考える必要がある」という趣旨の答弁にありました。その具体化がいきなりの地域図書館12館全館の指定管理者制度導入でした。いきなり決定、そして事業者募集、選定、区議会議決にいたるまで区長としては図書館問題に言及することもありませんでした。山田区長が初めて図書館全館指定管理について言及したのは、区議会議決後の広報すぎなみでした。明らかに「黙って強行し、指定管理者制度を導入してしまうこと」を山田区長はねらって、そうしてきたとしか考えられません。

 田中区長は、「慎重に進める」「第三者機関では少なくとも一年程度の運営期間を確保して評価・検証していただきたい」と全館指定管理者制度実施を「慎重に進める」ことを議会答弁で強調しています。これは田中区政が山田区政の暴走としての地域図書館全館指定管理にブレーキをかけたものではありません。実施のスピードを少し遅くしアクセルを緩めて推進するものであることは、9月18日付の記事でお伝えしています。

 私たちは、山田前区長の手法と田中区長の手法には違いがあるが、地域図書館全館指定管理者制度実施の攻撃の大きさ、激しさ、それゆえに大反対運動が必至であるという同じ認識に立ったうえでの推進・強行の手法の問題としてこの問題を考えます。山田前区長の「ワープ(時空超越)」に端的に表現されている問題とは、まさにこの記事の前半(1)~(7)の全館指定管理で何がどうなるのかのすさまじさの問題です。

 

 総反撃、大反対運動の展望、それをこじあけるヒントは、この山田認識、田中認識の中にもあります。これだけのとてつもない大きさ、激しさの攻撃が、大反対を呼び起こさないなどということは絶対にあり得ないという認識であり確信です。「おかしい!」の声、「理不尽だ!」の怒り、「こんな低賃金でやってられるか!生きさせろ」の叫び、「私たち司書の仕事を何と思っているのか!」「図書館を守れ!の声はすべて正義の叫びであり、すべて大反対闘争の原点です。カギは、違いは留保し、絶対反対の一点で一致団結すること。正規・非正規の分断、労働者と住民(地域の労働者住民)の分断を打ち破り、のりこえる声をあげ、絶対反対の一点で一致し運動をおこすことです。

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