博多住吉通信(旧六本松通信)

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魔の系譜

2013年08月02日 | 読書・映画

 写真は独自の視点から新しい民俗学を切り開いたとされる谷川健一氏の代表的著書『魔の系譜』(講談社学術文庫 文庫版初出1984年 紀伊国屋書店版1971年)です。おそらく1985年頃に購入して、そのまま実家に積読状態になっていた同書を最近読みました。今年の正月に実家から運んだ本の山から探し出しました。なぜ同書を読む気になったかと言いますと、7月の連休に隠れキリシタンの歴史を持つ天草諸島を訪問したためです。同書の中の第5章「バスチャン考」は隠れキリシタンを取り上げていました。

 改めて読んでみますと、30年近く読まなかったことを改めて後悔しました。簡単に同書の内容を紹介しますと、日本史が書き記されるようになって以降、一貫して政治的に敗北した側の怨念が「魔」となって、歴史の表側に影響を及ぼしてきたということを指摘しています。例えば保元の乱に連座し、敗北した後に讃岐の国(今の香川県)に配流されそこで一生を終えた崇徳上皇の恨みを、700年後の明治元年(1867年)に即位したばかりの明治天皇が、讃岐の国の崇徳上皇のお墓に勅使を遣わして慰霊するという史実を著者は紹介しています。これから文明開化と近代化に向けてスタートを切ろうとしていた日本近代の出発点で、こういうことが行われていたというのは本当に驚きでした。そしていろいろ考えさせられました。

 似た例は菅原道真や平将門など数多くみられます。逆に言うと政治的に勝利した側が、いかに斃れた敵側の霊(本書でいう「魔」)を意識し恐れてきたかの歴史とも言えます。そして、こうした魔に対峙するために現世の人々が、神社、呪術、魔除け、巫女などの多くの宗教・文化システムを作り上げてきた歴史であるとも言えるでしょう。

 もう一つ私が発見したことは、既に40年近く続いている諸星大二郎さんの「妖怪ハンター」シリーズのテーマの発想に本書が大きな影響を与えているということでした。例えば上記の第5章「バスチャン考」は隠れキリシタンをテーマとした「生命の木」(2005年に「奇談」というタイトルで映画化されています)などです。40年近く読み親しんできた作品の発想の源流を発見できたことは大きな収穫でした。


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