博多住吉通信(旧六本松通信)

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山川菊栄評論集

2012年11月02日 | 読書・映画

写真は20年間「積読」状態にあって、先日出張中の列車の中で読んだ本です。あまりの面白さに一気に読んでしまいました。

山川菊栄は、明治の女性の社会的解放を訴えた先駆者として有名です。改めてここで紹介するまでもないと思いますが、この本が出版された1990年は、山川菊栄の生誕100周年、没後10年の年でした。幕末の水戸藩弘道館教授頭取代理を務めた儒学者・史学者の青山延寿の家に生まれ、夫は日本共産党創立者の一人である山川均(山川イズムで有名)。「幕末の水戸藩」や「武家の女性」といった史書も残していて、こちらの評価も高いことは有名です。

改めて読んでみますと、リプロダクティブヘルス、夫婦別姓、男女共同参画等への論評が、今日的に全く古くなっていないことに驚かされます。なぜこの本が今日でも古典として読み継がれているのかが納得できます。こういう感想はちょっとネットをググってみますと大勢の方が同じことを書かれています。それだけ胸を打つものがあるのだと思います。

それにしても、この人の他の女性運動家への批判の舌鋒の厳しいことには驚かされます。公娼解放や母性保護などの課題について、平塚らいてう伊藤野枝といった錚々たる論者にも遠慮会釈なく批判をしています。平塚とか伊藤とか、こんなに言われて大丈夫だったのかしらと心配になるほどです。まあどの人も日本史に名前を残している方々ですからそんな心配はなかったのでしょうが。それぞれ政治思想は違っても、当時、正真正銘牛馬のような扱いを受け、人権もろくに保障されていなかった(ついに戦後まで選挙権・被選挙権もなく家父長制の下で種々の制約を受け、妻だけが処罰される姦通罪だの公娼制度まであったのですから)女性の社会的解放を訴えるグループの中で、言うべきことは何としても言わないといけないという思いが強く山川にあったのでしょう。

昨年は生誕120年を記念した映画も公開されていました。「山川菊栄の思想と活動‐姉妹よ、まずかく疑うことを習え」というタイトルですが、この映画の副題も本書の中に出てきました。日本の支配層は1925年に普通選挙法(男子だけの)を実施した時に、治安維持法という稀代の悪法を抱き合わせで制定した。それだけ男子のみとはいえ国民大衆が政治に参画してくることへの恐怖感があったのだ。しかるに戦後、女性に選挙権が付与された時には、日本の支配層はそういう心配を一切しなかった。支配層は敗戦で打ちひしがれていたとはいえ、日本女性は簡単に抱き込めるとみなしていたのだ。こんなふうになめられていては日本女性はだめだという山川の問題意識を表した副題です。この映画は私は未見なので、今度見てみようと思います。


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