去る2月13日に漫画家の松本零士氏がお亡くなりになりました。享年85歳とのことで、ご冥福をお祈りいたします。私が初めて氏の作品に接したのは、小学校2年の時(昭和43年 1968年です)に妹が読んでいた少女漫画誌「なかよし」の付録『クレアの湖』という作品でした。今から55年も昔のことでストーリーはよく覚えていないのですが、記憶に残っています。試しにグーグルで検索してみると同作品が古書として1万円の価格が付いていることが分かりました。松本氏は『銀河鉄道スリーナイン』、『宇宙戦艦ヤマト』などSF物で有名ですが、初期の頃は少女漫画も描かれていたようです。
さて、私自身は上記の超有名作品は、不思議と余り読んでいなかったようです。心に残っているのは高校生の頃に読んでいた『戦場まんがシリーズ』(後に『ザ・コクピット』という作品名で単行本シリーズになっています)でした。このシリーズは、第二次世界大戦中の様々なエピソードの短編漫画集でした。「少年サンデー」や「ビッグコミック」など様々な漫画誌に1969年から1989年まで、およそ20年間にわたって掲載されていたそうです。
このシリーズでは、多くは日本かドイツの一兵士が主人公で、ほぼ例外なく主人公は悲惨で寂しい死を迎えます。なお松本氏の作品の特色は登場する兵器や当時の制度・システムが、おそろしくリアルに描かれていることと主人公の敵役の連合軍側の人物も丁寧に描写している所だと思います。特に記憶に残ったのは『音速雷撃隊』(初出1974年 少年サンデー 上の写真は後にアニメ化されたビデオのパッケージです)です。この作品は特攻兵器人間ロケット爆弾『桜花』の搭乗員が主人公です。この究極の非人道的・非人間的な兵器による攻撃に対して、攻撃を受ける側の米空母の乗員らが、日本人はキチガイの集団だと怒りを爆発させるのですが、最後に広島への自軍による原爆投下のニュースを聞いて考え込んでしまうという場面が忘れられません。主人公も悲惨なのですが、あまり歴史の表に出てこない人々の運命も悲惨でした。有人ロケット桜花は射程が短いので、一式陸上攻撃機 (一式陸攻)に牽吊されて米艦隊に接近してから桜花を分離しロケットを点火・発進するという方式でした。桜花自体が2tを超える重量であったことから一式陸攻は、その速度・運動性能を低下させざるを得ず、そのために米軍機に撃墜されることが非常に多かったそうです。松本氏の作品では、この「裏方」ともいえる一式陸攻搭乗員の悲惨な運命にも光を当てており、そのことによって戦争の悲惨と無意味さを際立せていました。