羽花山人日記

徒然なるままに

鹿(しし)踊りのはじまり(宮沢賢治の作品から)

2021-09-10 16:53:46 | 日記

2006年奈良春日山にて撮影

宮沢賢治の作品の中で,好きなものの一つである。語り手が,風から聞いたはなしとして書かれている。

開拓農民の子,嘉十は,痛めた膝の湯治に行こうと,すすきの野原を横切っている。そして,持参した栃団子で昼食をとる。腹いっぱいになった嘉十は,最後の一個を,鹿の餌にと残していく。

しばらく行ってから,嘉十は手ぬぐいを置いてきたことに気づき,取りに戻ると,6頭の鹿が栃団子を囲んでいるのに気付く。

鹿たちは,団子の傍にある手ぬぐいが不気味で,なかなか団子に近づけない。一頭ずつ恐る恐る近づき,逃げかえってくる。この場面の描写は,実にユーモラスである。最後の一頭が,ついに手ぬぐいを咥えて,みんなにちっとも恐ろしくないことを示す。

鹿たちは大喜びで,歌をうたいながら手ぬぐいの周りを走り出す。この歌が実に秀逸である。

     すっこんすっこの栃だんご,栃のだんごは結構だが

     となりにいからだふんながす,青白番兵(ばんぺ)が気にかがる。

中略

     どこが口だがあだまだが,ひでりあがりのなめくじら。

まわりながら,手ぬぐいを角でつき,栃だんごの周りに集まって一口ずつだんごをたべる。

食べ終わると,鹿たちはまた輪になって,短歌を吟じながら歩きだす。どれも素晴らしいが,最後の6頭目のがわたしは一番好きだ。

      「ぎんがぎのすすぎの底(そご)でそっこりと

         咲ぐうめばちの愛(え)どしおえどし」

そして,激しくぐるぐるとまわりだす。

嘉十はもう鹿が自分と一体になったような気分になって,叫びながらとびだす。鹿は一目散に逃げて行き,その後に湖の水面のようなすすきの原が広がる。

これが,風から聞いた,鹿踊りの始まりだという。

宮沢賢治の作品には,人間と動物の交流を描いたものが多い。『なめとこ山の熊』,『オッペルと象』,『セロ弾きのゴーシュ』などなど。アニミズムの世界といってもいいかもしれない。これらの作品の中で,賢治は,人間が動物からなにか大切なこと伝えられていることを,示唆しようとしているように思える。

ウメバチソウ。Bingからダウンロード。

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クリント・イーストウッド

2021-09-09 17:09:36 | 日記

テレビ画面を撮影

昨日,一昨日の晴れ間に,菜っ葉,ダイコンの類の撒きつけが終わり,今日は雨をいいことに,骨休みの一日としゃれこみ,映画をビデオで楽しんだ。

クリント・イーストウッドが製作,監督,主演の『運び屋』。2018年に公開された時,クリントは88歳であった。マカロニウエスタン,『ダーティー・ハリー』でスターダムを登りつめ,70歳過ぎて,『ミリオン・ダラー・ベイビー』,『父親たちの星条旗』,『硫黄島からの手紙』など, さらに80歳を過ぎて『ハドソン川の軌跡』など,大作を製作・監督あるいは主演し,クリント・イーストウッドは老いを知らぬ活躍をしている。91歳を迎えた今年も,『クライ・マッチョで製作・監督・主演を務めているらしい。

『運び屋』は,『グランド・トリノ』や『人生の特等席』と同様に,クリントの老いそのものをにじませた演技を見せてくれる,肩の凝らないコメディー調の娯楽作だ。

花の栽培に打ち込み過ぎて,家族から見放された90歳の老人アールが,ふとしたことから,その生真面目さと無事故無違反の運転歴を見込まれて,麻薬の運び屋にやとわれ,大金を手に入れ,差し押さえられていた農場を取り戻し,退役軍人クラブ再開の資金を提供し,孫娘の結婚披露宴の費用を負担する。

一方,警察サイドはこの麻薬運搬経路の摘発に,腕利きの捜査官を投入する。 捜査官は,捜査中にアールとクロスオーバーするが,善良そうな老人を全く疑わない。

結末は,これからご覧になる方もおいでだろうから,省略しよう。

エンディングに流れる,”Don’t let the old man in”が素敵で,涙が出そうになった。ちょっと長いが,歌詞の和訳をここに記す。

 

老いを迎え入れるな
もう少し生きたいから
老いに身をゆだねるな
ドアをノックされても
ずっと分かっていた
いつか終わりが来ると
立ち上がって外に出よう

 

老いを迎え入れるな
数え切れぬ歳月を生きて
疲れきって衰えたこの体
年齢などどうでもいい
生まれた日を知らないのなら
妻に愛をささげよう
友人たちのそばにいよう
日暮れにはワインを乾杯しよう

 

老いを迎え入れるな
数え切れぬ歳月を生きて
疲れきって衰えたこの体
年齢などどうでもいい
生まれた日を知らないのなら
老いが馬でやって来て
冷たい風を感じたなら
窓から見て微笑みかけよう

 

老いを迎え入れるな
窓から見て微笑みかけよう
まだ老いを迎え入れるな

(映画字幕から引用)

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食べ物

2021-09-08 16:21:13 | 日記

近着の学士会会報950号に,人類学者で北海道大学大学院准教授の山口未花子さんが書いた,面白い記事が載っていた。

山口さんは,学生に「この1週間で動物に触れた人は?」と問う。数人が,ペットに触れたと答える。次に,「この1週間で肉を食べた人は?」と訊くと,ほとんどの学生が,食べたと答える。これはある意味で意地悪な質問だが,学生だけでなく,ほとんどすべての都市生活者は,食物の肉が動物に由来することを意識しない例証だと,山口さんは言う。

狩猟採集時代には,ヒトは狩りの獲物を自分でさばき,食物や毛皮とした。狩りに参加しないものも,それを見て承知している。

山口さんがフィールドワークの対象としている,カナダ・ユーコン地区の先住民もそうである。彼らにとって肉や皮は動物からの贈り物である。贈り物であるから,売り買いすることはしない。お裾分けで分配する。そして,贈り物へのお礼の儀式を行う。こうして,食物の贈り主の動植物と心を通わせる。

現代の都市生活では,贈り主とそれに与るものとの間は分断されている。しかし,人類の歴史の99%以上は,狩猟採集時代に占められていて,われわれには狩猟採集へ適応する素質が備えられているのではないか。都市生活にあっても,食べ物が元はどのように生きていたものからくるのかを思い起こし,動物との関係を見つめ直すことが必要ではないか。山口さんはこう指摘している。

前に書いたことだが,ガーナのカカオ生産農民は,チョコレートを知らないそうだ。これは,上に述べたことと裏腹の現象である。食べ物が何/何処からどのようにして来たのかを意識することは,とても大切なことだと,わたしは考える。

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筑波山

2021-09-07 17:08:49 | 日記

筑波山

久しぶりに,朝起きて晴天の下の筑波山を見た。

筑波山,標高877m。孤立峰なので,もっと高いように見える。海底の隆起で作られ,約一億年前に断層によって,男体,女体のニ峰に別れたとか。西の富士,東の筑波と並び称されるが,一万年前にできた富士山より,筑波山はずっと兄貴分である。万葉集の歌で,詠み込んだものが多い。

今日の日にいかにかしかむ筑波嶺に昔の人の来けむその日も  高橋虫麻呂

 

大規模修繕工事

足場と養生が外され,6ヶ月の籠の鳥から解放された。

 

茨城県知事選挙

予想通り,開票開始と同時に当確が打たれた。争点の一つは東海第二原発再起動であったが,当選者は態度を保留にし,民意に問うという。どうやって問うのか,注目したい。

それにしても投票率35%とは‼

 

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ミータ覚書

2021-09-06 16:59:46 | 日記

ミータ覚書

セミのミータ』の連載が終わった。このブログを訪れて,拙い作品をお読みいただいた方には,心からお礼申し上げたい。

前にも言ったように,蝉の羽化を見て感動した孫たちの興奮に触発されて,一気に書いたのが,この童話らしきものである。この話に何を籠め,何を伝えようとしたかは,お読みいただいた方々のお心にお任せしたい。

ひとつだけ言いたいのは,ミータの「からだのなかのしくみ」についてである。「本能」という言葉に言い換えてもいいかもしれないが,親から残されたものということを強調したくて,「しくみ」とした。

ヒト以外の動物の行動の大部分は,生得的な「しくみ」によるものである。それが生命の存在形態である。われわれヒトは,脳の発達によって,学習し,試行し,推理し,言語で伝える,知能と称される能力を持つようになった。しかし,この知能の進化における歴史は,「しくみ(本能)」のそれと比べて極めて短い。ヒトの知能は,それ以前に備わった膨大な「しくみ」の上に乗っかっているに過ぎないのだ。

『セミのミータ』は,ある出版社の編集者の目に止まり,出版を持ち掛けられた。応分の出版費用の負担も求められたが,私家本としてではなく,ISBNの番号もつけ,全国の書店で平置きにして販売するという,ありがたいお申し出だった。

しかし,そうなるとわたしの拙い文にはかなり手が入れられ,カミさんの絵は恐らく収録されないだろう。孫たちとわたしたちの心の交流から生まれたものが,別なものに変わってしまうような気がして,丁重にお断りした。

以来10年以上,この作品は書棚の隅に置かれていた。しかし,このまま誰の目にも触れないで置いてしまうのはなんとなく心残りで,開設したブログに掲載することにした次第である。

今は,肩の荷をおろした気持ちである。

 

晩     夏

 

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セミのミータ(19:最終回)

2021-09-05 17:24:25 | 日記

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シャーロック・ホームズ

2021-09-04 17:03:08 | 日記

シャーロック・ホームズ

長らく続いてきたBS3の『刑事コロンボ』のシリーズが終わり,新しく『シャーロック・ホームズの冒険』が始まった。1980年代の終わりから90年代にかけて放映された古い映画である。

コナン・ドイルのシャーロック・ホームズもので,最初に読んだのは『まだらの紐』だったと記憶している。中学生の時で,以来記憶にあるものを数えると12編上がったが,内容が定かでないものが多い。

今週は『美しき自転車乗り』で,読んだ記憶がある。その時,「自転車乗り」という言葉に違和感を覚え,それは今でも続いている。cyclistの訳だが,日本語にはこんな単語はなく,「馬乗り」のように行為をあらわしているようにきこえる。

ちょっと調べてみたら,この小説の題名”The Adventure of the Solitary Cyclist”は,訳者によってさまざまに和訳されていた。わたしの感覚に一番近いのは,日暮雅通氏の「ひとり自転車を走らせる女」である。

それはともかく,このテレビ番組,主演のデビッド・バーク演じるホームズは,わたしが描いていたホームズのイメージにぴったりである。いかにもコカイン中毒らしい,神経質な貴公子然とした端正な容貌は,ホームズそのものである。

楽しみに見ることにしよう。

        

                                        パブ「シャーロック・ホームズ」

                                            

                                               同上2階にある,ホームズの「居室」。写真はいずれも,2005年ロンドンにて撮影

 

保守と革新

朝日新聞9月3日の『交論』に,早稲田大学准教授の遠藤昌久氏が保守と革新について,論説を書いていた。その中で,氏が行った,政党を保守と革新の二つの極に位置付けるという調査結果が記されていた。

50代以上は,自民を保守,共産を革新と位置付けていたが,40代以下では,自民・共産を保守,維新を革新と位置付ける人が多かったという。

ちょっとびっくりし,なるほどと思い,面白いと感じた。

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セミのミータ(18)

2021-09-03 17:25:59 | 日記

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パラリンピック

2021-09-02 16:45:00 | 日記

パラリンピック

パラリンピックが終盤を迎えている。

やはりこの時期の開催には,心にひっかかりを感じるが,障害を持つ選手の方々の頑張りに目を見張り,感動している。

ただ,障害者スポーツが,国と国とを競わせる競技の過熱を通して,そもそもの出発点から外れ,勝敗や記録のみを争う,商業主義に堕していくことを恐れる。

原点とされるイギリス,ストークマン病院における競技会は,治療の一環として,障害者の社会復帰をめざしたものであった。

パラリンピック創始者ルートヴィッヒ・グットマン医師の「失われたものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ。」,また,生まれつき両手がなく,10代で水泳選手として国際的に活躍した,スウェーデンのゴスペル歌手レーナ・マリアさんの「障害者が頑張っているのを当たり前の日常だと思うようになることが,障碍者差別のない社会である。」,いずれもわたしは感銘を受けた言葉である。

 

頑張ってます

2021年8月阿見町にて撮影

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セミのミータ(17)

2021-09-01 17:13:55 | 日記

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