遺伝子の特許
一昨日の「読書備忘(17)」で,書き残したことがあるので,補足する。
スヴァンテ・ペーポは,2009年にネアンデルタール人のゲノム解析を報告した後,この発見が人々の間に新たな差別をもたらすのではないかと気づいた。ネアンデルタール人の遺伝子を高頻度で持つ集団は見下されるのではないかということだ。ネアンデルタール人の遺伝子の,ヒトの全遺伝子に占める割合は,ペーポらの研究によって計測可能になっている。
すでに,ペーポのところへは,自分あるいは自分の愛する人がネアンデルタール人ではないか,血液を提供するので調べて欲しい,という手紙が何通も届いている。
ペーポは,自分たちの発見が社会的に間違った目的に使われないようにする責任があると考え,そのために,ネアンデルタール人の遺伝子の使用に特許をかけ,その商業的利用に制限を加える方法を思いつく。また,特許使用料によって,これまでの研究費の一部を補うことができる。
この考えを研究チームの中に提案したところ,少数派ではあったが,自然に存在するものへ特許をかけるべきではないという,強烈な反対意見を述べるメンバーがいて,議論は果てしなく紛糾し,ペーポはチームの団結を考慮して,特許の提案を撤回する。
その後,遺伝子調査会社の最大手が,ネアンデルタール人の遺伝子についてサービスを始めたのを見て,ペーポは複雑な思いに駆られる。
3ページ足らずの記述ではあるが,わたしはここに述べられていることは,複雑な問題を含んでいるように思う。
なお,法律的には,現生人類に自然に存在する遺伝子は特許の対象にならないが,加工のような手を加えられたものはその使用に特許がかけられる。ネアンデルタール人の遺伝子は,ペーポの依頼した弁護士から,特許の申請が可能との見解が得られている。
わたしはかつて,ヒトの遺伝子診断は差別の物質的根拠を与えることになりかねないことをSH主張し,その考えは今でも変わっていない。現在はどうなのか知らないが,保険会社が,契約に当たって加入者に遺伝子のデータを請求したという話を聞いたことがある。
しかし一方で,自分の遺伝子を知ることで,健康管理に役立てることができるという利点も否定できない。高名な女優さんが,自身に乳がんを高頻度で誘発する遺伝子があるのを知って,乳房を切除した話は有名である。これもその人の決断であって,是非を簡単に決めつけることはできない。
わたしは,現役時代の生物の授業で,遺伝子診断についてその問題点も含めて講義し,受講生に診断を受けたいかどうかを問うたことがある。過半数の学生はそれを希望すると答えた。
すでに遺伝子診断は営利事業として成立し,需要は増加している。この趨勢は止めようがないだろう。わたしが憂慮する弊害が現れていないかを常に監視し,もし現れたならどのように対処するかを考えていくことが必要である。
なお,わたしは。20年以上前に単なる興味から,飲酒への反応についての遺伝子診断を受けた。あまり酒に強くなく,飲むとすぐ赤くなるという性質を裏書きする結果が得られた。
文化の日
11月3日撮影
今日は文化の日である。明治天皇の誕生日で,昔は明治節と言った。現行憲法の公布された日でもある。毎年好天なので「異常日」とされ,今日も抜けるような青空だった。
朝日新聞の社説が面白かった。
映画『男はつらいよ』から引用している。寅さんの喧嘩相手のタコ社長が,ベレー帽をかぶってめかし込み,「文化の日だ。博物館に行かなくちゃ。」と言って去っていく。帰ってきた社長曰く,「いやあもう人だらけでね。何見てんだか,わかりゃしねえよ。」
この社説のタイトルは「あなたの畑の耕し方は」で,それぞれが自分流に畑を耕していて,その多様さが文化の礎だと結論している。
垣根越しの秋
11月3日,阿見町にて撮影
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