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参参参(二十八)先入観への疑い

2023年08月03日 | 読書
 七月後半、ゴロンと寝転んで、しばしの本読みは…。


『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎  集英社)

 文庫化されていたのを機に図書館から借りる(笑)。伊坂の魅力の一つは、セリフのきれのよさだと思うが、それは「断言」と呼んでもいいかもしれない。この頃、世間全体が断言を嫌う、まあそもそも国民性として曖昧さが持ち味なのだから、伊坂の使う言葉遣いは新鮮に思えるのだろう。「僕は、そうは、思わない」と言い切るためには、私たちが毒されている固定観念、先入観への疑う眼差しが求められる。そしてそれには常に大きな波に逆って進んだり、留まったりする体力・知力が必要だ。物語のなかで活躍する人物たちが元気をくれるような気がした。久しぶりに楽しく読めた伊坂本だった。



 アツいときこそ、アツいものを食らえ


『小田嶋隆のコラムの向こう側』(小田嶋隆  ミシマ社)

 昨年6月に亡くなったコラムニストの遺稿集と呼べる一冊。「ア・ピース・オブ・警句」と題されたweb連載で、死の二ヶ月前まで書き続けていた。この人の文章に接して数年しか経たないが、まあなんと切れ味(斬れ味というべきか)鋭さは天下一品と思う。正面に対し最初の一刀を軽く受け止めたのはいいが、次の一振りで「あれっ」と自分の弱く脆い姿に気づいてしまう…といったイメージを持つ。例えば「日本のジェンダー平等をさまたげているのは、日本人の『ユーモア』だ。」という一文。これに森元総理や武田鉄矢あたりの発言を当てはめてみると、笑っている自身の感覚に気づかされるのだ。



『月下のサクラ』(柚月裕子  徳間書店)

 人気作家だが、単行本を読むのはたぶん初めてだ。全体を通して心理描写は巧いが、設定・展開に少し突飛なものを感じてしまったのが正直な読後感。主人公が勤めることになった捜査支援分析センターは、TVの刑事モノにはよく登場するがあくまでサブ的な扱いが多いと思う。カメラ映像分析がカギとなる現在の捜査手法からすれば、当然取り上げられてよい仕事だが、ミステリーの中心になり得るか…うーん、時代はそうかもしれないが…と正直感じる。もちろん物語は人物の抱える矜持や葛藤、そして階級社会の現実や暗部をよく見せてくれていた。ただ、背景にある技術革新の波を読者が把握しイメージできなければ置いてけぼりをくう、そんな不安もある高齢者である。




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