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「村上さんのところ」へ五日間

2018年02月14日 | 読書

(20180214 朝焼けがつくりだす)

2018読了14
 『村上さんのところ』(村上春樹 新潮社)


 ハルキストでも村上主義者でもない。しかしこの企画は気になっていた。まえがきに「何年かに一度、読者のみなさんとメールのやりとり」と書かれてあり、作家としての姿勢の一つだろうと感じた。専用サイトの存在を知ったのは今回(と言っても3年前)が初めてだ。読み続けた五日間。なんだか居心地が良かった。


 17日間で約3万7千のメールが寄せられその1割に返信を書き、それらは全て電子ブックで収められ、本書には473通が取り上げられた。雑誌連載にありがちな人生相談とは当然異なる、ファンとの会話的な雰囲気を出しつつ、作品に込められた思いや日常の暮らし方から価値観、世界観が垣間見えて、刺激を受けた。


 心に沁みてくるような言葉がたくさんあった。いくつか区分した形で書き留めておこうと思う。一つ目は小説のこと。この作家のファンでない自分が、語られた意味について今考えられることは少ないが、きっと何かの折に重なり合う機会がくる気がしている。そういう瞬間に巡り合える未来が本当に楽しみになる。


Quote 060
 小説には意味なんてそんなにありません。というか、意味という座標軸でとらえることができないからこそ、小説が有効に機能するのです。

Quote 367
 努力すれば地下に降りていって、「神話性」と「物語性」がひとつに溶け合っている世界に足を踏み入れることができます。そしてその世界の有り様を小説というかたちに転換していくことができます。小説家といわれる人はそのようにして「真実を伝えるために必要な嘘」をリアルに立ち上げていくことができるのです。


Quote 284
 「属し方」が大事なのです。その属し方を納得するために、物語が必要になってきます。物語は僕らがどのようにしてそのようなものに属しているか、なぜ属さなくてはいけないかということを意識下でありありと疑似体験させます。



 「村上さん」は小説の優れた点を「『嘘を検証する能力』が身についてくること」とも書いている。それは「底の浅い嘘」を見抜き、「実のある嘘」を見分けることだ。それは「目に見える真実以上の真実」でもある。しかし、いわゆる「生産性」とは結びつかない。この「あってもなくてもいいもの」の必要度が人間性か。

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