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「今」に活きる読書

2021年05月26日 | 読書
 先週から今週にかけて読了した本。

『木皿食堂』(木皿 泉  双葉文庫)

 エッセイ、インタビュー、対談等が収められている。一番メジャーなのは『野ブタ。をプロデュース』の脚本ということになろうが、その番組を観ていない自分にも、文章から夫婦二人のいい息遣いが伝わってくる。書名に「食堂」と名づけるほどに「食」にこだわりがあることもよし。作品をもっと見ると決めた。

 「シナリオ講座」の記録も収められていて、そこでの「オリジナリティ」の説明に得心した。オリジナルの反対語を「マニュアル・ノウハウ」と捉え、脚本を書く本質をずばりこう語った。「日常の中で、当たり前と思われていることを、本当は違うんじゃないかと、切り取ってみせる。」…この視点でドラマを見てみたい。


『常識的で何か問題でも?』(内田樹  朝日新書)

 2014年から2018年までの「AERA」連載コラムである。まえがきを読めば(読まなくとも氏の文章に触れている者は予想できるが)、この新書の肝は次の一節だとわかる。「僕は『リスクを過小評価し、最悪の事態に備えない』態度を日本社会の重篤な病だと診立てています」…そして、今この国はその渦中にある。

 第2章「真の知的成熟は何か」の冒頭コラムは心揺さぶられた。道徳の教科化に関する論だが、実に明快に語る。「人間が真に『道徳』的問題に出会うのは、『上位者が間違った指示をしている場合』『定められたルールを機械的に適用するとたいせつなものが損なわれる場合』である」これも今、まさに直面している。


『あしたのことば』(森絵都  小峰書店)



 月遅れの新着図書コーナーにあったので、寝室読書用に借りた。冒頭篇「帰り道」が国語教科書(小6)に収録されている。この単行本は9篇がそれぞれ違うイラストレーターが表紙絵と挿絵を描いている。「人気イラストレーター」と帯にはあったが、たった一人しか知らなかった。不明を恥じる。少し関心を高めたい。

 それぞれの話はさすが短編名手らしい仕上がりだ。全体を貫いているのは「ことば」の持つ多様性への理解とでも言えばいいか。それらはコミュニケーションのあり方、常套句と意味、自然に対する向き合い方等を考えさせてくれる。表題作は最終篇。「あしたのことば」は「今」を真に生きることからしか生まれない。


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