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桜と絵本と豆乳と

聞いてほしい聞きたがり

2018年05月26日 | 読書
 このベストセラー新書を何故読んでいなかったか。心の底で「自分には聞く力がある」と自惚れていたのかもしれない。実践の中心的分野であったし、ポイントに関しては知っているつもりだ。読み終えて確かに技術的な点の多くは了解していた内容だったが、聞く行為の本質や原動力について改めて考えさせられた。


2018読了55
 『聞く力 心をひらく35のヒント』(阿川佐和子  文春新書)


 「まえがき」にあった「聞き書き甲子園」のことに興味を覚えた。話す・聞くという行為は、いわばある者の脳にあることを他者の脳へ移動させることとも言えるが、一人から取り出された内容がそのまま収められるわけではない。受け取る側の理解度や感覚の違いなどによって、入る抽斗は違うし、容量の差もある


 著者が、長年インタビューを続け、成功や失敗を例に語る秘訣、それはあくまで彼女の個性に依ることが大きい。人間への関心が強い人だ。父が小説家の家庭という特殊環境で育ち、一般人と落差のある経験を積んできたことが背景にある。だから聞いてほしいし、同時に聞きたがりでもある。つまり抽斗が多く、深い。


 第一章の4「自分の話を聞いてほしくない人はいない」という題の挙げ方は、ビジネス書でもよくされる。それは、表面上の無口や話下手はいるにしろ、人間は表現したい存在であり、きっかけさえあれば共通手段である言語を引き出せる確信を持っているからだ。要するにきっかけを作る工夫。それを多様に備える。


 「私は貴方の話を聞きたい」をいかに相手に伝えるか。身も蓋もない言い方だが「相手次第」である。まず相手を知ることから始まるので、リサーチが必須だ。ただそれも万能ではない。いい質問の準備ももちろんだが、真正面すぎる。TVでの印象では、彼女は目の表情と相槌の使いこなしを身につけ、多用している。