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藤田佳代作品展

2006-11-19 20:17:36 | 舞踊
 洋舞家・藤田佳代さんのリサイタルを兵庫県立芸術文化センターで見ました。藤田さんが全力を傾けて取り組んでいる3年に一度の創作ステージで、今年が第9回です。あと1回で通算30年になるわけです。すごいですねえ。プログラムは「追いかける」と「花」と「震える木」の3本でした。

 最初の「追いかける」は、藤田さんのソロを中心に、主として二種類の群舞を並行して展開する、いわば三元構成の作品でした。二種類の群舞とは、舞台の中・前景で繰り広げられる比較的開放的なダンスと、そして紗幕の向こうのホリゾントに沿って延々と続けられる定型的なダンスのことです。紗幕の陰に隠れて進む定型詩的な通奏低音とこちらへ絶え間なく広がってくる自由詩的なオーケストレーションが中央の藤田さんの独舞で結ばれ、全体として分厚い協奏曲を響かせるといった趣きでした。
 伝統的な形やこれまでの価値観・経験・習俗を体の基層に宿しながら、けれども新しい地平に向かって何かをひたすらに追い続けないではいられない人間の宿命のようなものが浮かんできました。わたしたちは星を追っているのでしょうか。風を追っているのでしょうか。影を追っているのでしょうか。陰影の深い表現主義的な作品でした。

 「花」はそれこそ桜の季節に川面を流れる花筏(いかだ)ような群舞でした。真っ青なホリゾントに真っ白な衣装。間断なく現れる祈りのようなフォルム。美しいの一言です。このようなダンス・ブランシュ(白のダンス)の世界では、今のモダンダンサーで藤田さんの右にでる振付家はいないでしょう。モダンの中に現れるクラシカルな美学です。花のように平和で美しい世界でありたいという願いがこめられているようです。光を愛した画家たちになぞらえて印象主義的な作品と言っておいていいでしょう。

 「震える木」は神戸在住の詩人・安水稔和(としかず)さんの同名の詩に想を得た作品だということです。フラメンコ・ダンサーの東仲一矩(かずのり)さんをゲストに迎えて、ソロ、デュエット、群舞による構成でした。作曲家の丹生ナオミさんがこの舞台のために底深い現代音楽を書き下ろしたというのもトピックです。洋画家の南和好さんが美術を担当して、背景のスクリ-ンいっぱいに色彩のダンスを繰り広げたのも、目に鮮やかなことでした。樹木を見つめながら心がそこでどんなに広大な世界を感じているか、その無限の広がりを踊りでとらえようとしているようにみえました。精神の奥の微妙な震えをダンス表現に託したという点で、これは象徴主義的な作品だったといっていいかもしれません。

 音楽を3曲ともナマ演奏で行ったというのも、藤田さんの意欲の表れだったといえるでしょう。チェロ・黒田育世、ピアノ・加島裕子、オーボエ・小林寛子。

(藤田佳代さんの創作舞踊についてはこれまでにもSplitterechoのPress版とWeb版で記事を掲載しています。参照 http://www16.ocn.ne.jp/~kobecat/) 
 
 

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