アイルランドの文学って、みなさん、どんなイメージをお持ちですか。
日本の能に深い共感を示して、いわばヨーロッパ的能舞台「鷹(たか)の井戸」を書き下ろしたイェイツ、それから陰鬱(いんうつ)深遠な戯曲「サロメ」で有名なワイルド、それらの作家の名前を思い出されるでしょうか。
でも、この特異な文学的土壌の底にはどうやらアイルランド文化の源流でもあるケルトの深い精神世界があるようです。おびただしい妖精(ようせい)たちがうごめいている魂の世界です。
その神秘このうえない妖精世界との付き合い方を、アイルランド文学者の風呂本武敏さん(元神戸大学教授)が一冊の本にまとめました。「見えないものを見る力―ケルトの妖精の贈り物」です。桜が満開の4月7日、神戸市・婦人会館の会議室で出版記念をかねた「風呂本さんを囲む会」も開かれて、本をめぐる活発な議論も行われました。
妖精の世界と交流するには、まさしく目に見える世界を超えて、その向こうの見えない世界と交信する微妙な能力を回復しなければなりません。
現代はビジュアルな情報が重宝され、重宝されるばかりかビジュアルな情報だけで十分で、その向こうの一歩踏み込んだ情報などもう必要ないという風潮さえありますが、このようなコンビニ的感性ではとてもケルトの妖精たちと友達になることはできません。
ですが、いったんその微妙な交信能力を回復すると、わたしたちの目と心は神秘で感動的な風景へ一気に開かれることになるのです。
「そこでは現世にあるものはほとんどそろっていて、人は自分が妖精界に入ったと気付くのはそこの芝生(しばふ)はいよいよ緑で、太陽はますます金色で、月は銀色に冴(さ)え渡り、女性も男性も一回り大きく、見目麗しいことによる…」と、風呂本さんはその世界の一端を紹介しながら、その妖精界が実はこの世界のすぐそばに並行して存在していることをひもといていくのです。
現代を生きるわたしたちは、十人が十人とも、百人が百人とも、口には出さなくても心のどこかにいつも喪失感をたずさえているようです。何かが欠けているという感じです。ひょっとしたら、それは妖精たちとの交流がとだえてから心の底でまず目立たない形で始まって、すこしずつふくらんで、今になっていよいよ心の表面にあふれ出てきたのかもしれません。
風呂本武敏著「見えないものを見る力」は春風社刊。2190円。春風社は045.261.3168 http://www.shumpu.com
日本の能に深い共感を示して、いわばヨーロッパ的能舞台「鷹(たか)の井戸」を書き下ろしたイェイツ、それから陰鬱(いんうつ)深遠な戯曲「サロメ」で有名なワイルド、それらの作家の名前を思い出されるでしょうか。
でも、この特異な文学的土壌の底にはどうやらアイルランド文化の源流でもあるケルトの深い精神世界があるようです。おびただしい妖精(ようせい)たちがうごめいている魂の世界です。
その神秘このうえない妖精世界との付き合い方を、アイルランド文学者の風呂本武敏さん(元神戸大学教授)が一冊の本にまとめました。「見えないものを見る力―ケルトの妖精の贈り物」です。桜が満開の4月7日、神戸市・婦人会館の会議室で出版記念をかねた「風呂本さんを囲む会」も開かれて、本をめぐる活発な議論も行われました。
妖精の世界と交流するには、まさしく目に見える世界を超えて、その向こうの見えない世界と交信する微妙な能力を回復しなければなりません。
現代はビジュアルな情報が重宝され、重宝されるばかりかビジュアルな情報だけで十分で、その向こうの一歩踏み込んだ情報などもう必要ないという風潮さえありますが、このようなコンビニ的感性ではとてもケルトの妖精たちと友達になることはできません。
ですが、いったんその微妙な交信能力を回復すると、わたしたちの目と心は神秘で感動的な風景へ一気に開かれることになるのです。
「そこでは現世にあるものはほとんどそろっていて、人は自分が妖精界に入ったと気付くのはそこの芝生(しばふ)はいよいよ緑で、太陽はますます金色で、月は銀色に冴(さ)え渡り、女性も男性も一回り大きく、見目麗しいことによる…」と、風呂本さんはその世界の一端を紹介しながら、その妖精界が実はこの世界のすぐそばに並行して存在していることをひもといていくのです。
現代を生きるわたしたちは、十人が十人とも、百人が百人とも、口には出さなくても心のどこかにいつも喪失感をたずさえているようです。何かが欠けているという感じです。ひょっとしたら、それは妖精たちとの交流がとだえてから心の底でまず目立たない形で始まって、すこしずつふくらんで、今になっていよいよ心の表面にあふれ出てきたのかもしれません。
風呂本武敏著「見えないものを見る力」は春風社刊。2190円。春風社は045.261.3168 http://www.shumpu.com