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再生の海、美しい水死体―藤田佳代のモダンダンス

2012-02-26 18:29:00 | 舞踊
 藤田佳代舞踊研究所の公演「創作実験劇場」をJR住吉駅南のうはらホールで見ました(2012年2月25日)。
 藤田研究所は神戸に拠点を置くモダンダンス・カンパニーで、毎年、春に先駆けて研究所のメンバーたちがオリジナルな振り付け作品を上演します。
 今年は主宰の藤田さんが、珍しく最初から最後まで文字通り独りで踊る完全なソロ作品「海」を発表、これがやはり圧巻でした。

 音楽は千秋次郎さんのシンセサイザー曲「海―記憶と希望」。
 藤田・千秋のコンビネーションもひさびさです。

 ひとまず音楽のほうに触れておきますと、この「海」は、海底から海面へ、そして空へ、海を垂直方向に上昇していくように聴き取れました。
 すぐにドビュッシーと宮城道雄の海の曲を連想しましたが、千秋作品の新しさは格別です。
 構造的に違うのです。
 ドビュッシーも宮城も海を平面としてとらえています。
 千秋さんはそこに深さ(深度)を加え、海を二次元平面から三次元立体へ構造化したのです。
 平面的・情緒的な表現からなかなか前へ進めないシンセサイザーで、これを成し遂げたということも特筆すべきことなのです。

 さて、ソロダンサーとしての藤田さんは、美しい水死体のように現われました。
 あえて「美しい」といったのは、そこでの水底は、闇に閉ざされた墓場のイメージでは全くなくて、淡いとはいえむしろ透明な光に満ちた再生の場所のように見えたからです。
 舞踊家はゆっくりと動きます。
 水死体がゆっくりと上昇を始めます。

 モダンダンスは過去一世紀に渡ってとにかく素早い運動を追い続けてきましたが、そんな潮流の中で、この人だけはひたすらにむしろ不動への道を求めてきました。
 その孤独な追求が、この作品では存分に生きました。
 素早い動きには、いくらふりほどこうとしても、ますます重力がからんできますが、ゆっくりとした彼女の動きは、かえって重力から解き放たれ、むしろ無重力の遊泳です。
 水死体が光へと昇ります。
 少しずつ生に染まっていくのです。

 この舞踊家が見事なのは、海の中のその上昇を、ある時点を境にして、無限の底から無限の天空への上昇にくっきりと変えることができることです。
 限られた運動が無限の運動に変わります。
 肉体の運動が宇宙の運動とつながります。
 これは、たぶん、天性のものですが…。

 かつて水死体であったものが、いまは生命の光に満ちて、天空をめざしています。
 魚族の仲間であったものが鳥類の仲間になったのです。

 なんと光に満ちた生のダンス。
 
   
 

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