6 宵の明星の谷──第四の竪琴
今朝は、母上の雷が落ちないな。
珍しいこともあるものだ。ふだんなら、呑気に寝坊などしていれば、たちどころに稲妻の二つや三つ……
いや。ここは、天宮じゃない。
それに、この右肩の痛みは何だ?
頭がはっきりするにつれて、風神にはようやく状況が呑み込めてきた。
砂漠に現れた、第三の竪琴。初めは仲良くハーモニーを奏でていた双子が、好き勝手に弦をいじりだしたのが事の発端だった。ハーモニーがたちまちにして、不協和音に変わる。意地になった双子が弦を力まかせに引っぱるせいで、音はどんどん濁っていった。
「こら、放しなさい!」
風神はふたりから竪琴を取り上げようとした。双子はかぶりを振って後ずさる。3人が、竪琴を取り合うような格好になった。耳ざわりな音が鳴る。
「ほら、放して!」
風神がなかば強引に竪琴に手をかけたとき。
砂が、崩れた。
砂に埋もれてよく見えなかったが、そこは崖地になっていたのだった。悲鳴をあげる双子をとっさにかばったのまでは覚えている。
(……落ちたのか……)
衣についた砂をはたき落として立ち上がる──ろうとした。右肩の鋭い痛みが、それをはばむ。落ちるとき、捻りでもしたようだ。風神は、己の間抜けさを呪った。利き腕がこれでは、風も呼べない。しかも日が暮れている。早く双子のところに戻らなければならないのに、なんて有様だ。
右肩を動かさないようそろそろと起き上がり、ようやく体勢を整える。
(あの子たち、どうしたろう)
勝手に動いて迷ってなければいいが。痛みをこらえて、崖地の上を見上げる。
(──ん?)
鳥の羽音を聞いた気がした。そんなはずはない、と思った風神の耳に、しかし、まぎれもなく力強い羽音が飛び込んできた。驚く間もなく、身体が持ち上げられる。
「おまえは……!」
“鳥躍る谷”にいた、堂々たる黄色の鳥。それが翼を広げて、風神を背に乗せたのだった。見る間に、下界が遠くなる。
「お兄ちゃん!」
半泣きの双子が駆け寄ってくる。ブーツを覆い隠しそうな、緑の草花を踏みながら。
今朝は、母上の雷が落ちないな。
珍しいこともあるものだ。ふだんなら、呑気に寝坊などしていれば、たちどころに稲妻の二つや三つ……
いや。ここは、天宮じゃない。
それに、この右肩の痛みは何だ?
頭がはっきりするにつれて、風神にはようやく状況が呑み込めてきた。
砂漠に現れた、第三の竪琴。初めは仲良くハーモニーを奏でていた双子が、好き勝手に弦をいじりだしたのが事の発端だった。ハーモニーがたちまちにして、不協和音に変わる。意地になった双子が弦を力まかせに引っぱるせいで、音はどんどん濁っていった。
「こら、放しなさい!」
風神はふたりから竪琴を取り上げようとした。双子はかぶりを振って後ずさる。3人が、竪琴を取り合うような格好になった。耳ざわりな音が鳴る。
「ほら、放して!」
風神がなかば強引に竪琴に手をかけたとき。
砂が、崩れた。
砂に埋もれてよく見えなかったが、そこは崖地になっていたのだった。悲鳴をあげる双子をとっさにかばったのまでは覚えている。
(……落ちたのか……)
衣についた砂をはたき落として立ち上がる──ろうとした。右肩の鋭い痛みが、それをはばむ。落ちるとき、捻りでもしたようだ。風神は、己の間抜けさを呪った。利き腕がこれでは、風も呼べない。しかも日が暮れている。早く双子のところに戻らなければならないのに、なんて有様だ。
右肩を動かさないようそろそろと起き上がり、ようやく体勢を整える。
(あの子たち、どうしたろう)
勝手に動いて迷ってなければいいが。痛みをこらえて、崖地の上を見上げる。
(──ん?)
鳥の羽音を聞いた気がした。そんなはずはない、と思った風神の耳に、しかし、まぎれもなく力強い羽音が飛び込んできた。驚く間もなく、身体が持ち上げられる。
「おまえは……!」
“鳥躍る谷”にいた、堂々たる黄色の鳥。それが翼を広げて、風神を背に乗せたのだった。見る間に、下界が遠くなる。
「お兄ちゃん!」
半泣きの双子が駆け寄ってくる。ブーツを覆い隠しそうな、緑の草花を踏みながら。
第五の竪琴が見つかるか、風神は、双子達はこのあとどうなるのでしょう!幸運を祈っています
温かいコメントありがとうございます。
旅が進むにつれて、少しずつ双子の才能があらわになっていきます。双子と風神の旅も半ばを越えました。引き続き応援をよろしくお願いします(^_^)