SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

双子の虹のハーモニー 第6話(1)

2014-03-17 16:00:03 | 書いた話
6 宵の明星の谷──第四の竪琴

 今朝は、母上の雷が落ちないな。
 珍しいこともあるものだ。ふだんなら、呑気に寝坊などしていれば、たちどころに稲妻の二つや三つ……
 いや。ここは、天宮じゃない。
 それに、この右肩の痛みは何だ?
 頭がはっきりするにつれて、風神にはようやく状況が呑み込めてきた。
 砂漠に現れた、第三の竪琴。初めは仲良くハーモニーを奏でていた双子が、好き勝手に弦をいじりだしたのが事の発端だった。ハーモニーがたちまちにして、不協和音に変わる。意地になった双子が弦を力まかせに引っぱるせいで、音はどんどん濁っていった。
「こら、放しなさい!」
 風神はふたりから竪琴を取り上げようとした。双子はかぶりを振って後ずさる。3人が、竪琴を取り合うような格好になった。耳ざわりな音が鳴る。
「ほら、放して!」
 風神がなかば強引に竪琴に手をかけたとき。
 砂が、崩れた。
 砂に埋もれてよく見えなかったが、そこは崖地になっていたのだった。悲鳴をあげる双子をとっさにかばったのまでは覚えている。
(……落ちたのか……)
 衣についた砂をはたき落として立ち上がる──ろうとした。右肩の鋭い痛みが、それをはばむ。落ちるとき、捻りでもしたようだ。風神は、己の間抜けさを呪った。利き腕がこれでは、風も呼べない。しかも日が暮れている。早く双子のところに戻らなければならないのに、なんて有様だ。
 右肩を動かさないようそろそろと起き上がり、ようやく体勢を整える。
(あの子たち、どうしたろう)
 勝手に動いて迷ってなければいいが。痛みをこらえて、崖地の上を見上げる。
(──ん?)
 鳥の羽音を聞いた気がした。そんなはずはない、と思った風神の耳に、しかし、まぎれもなく力強い羽音が飛び込んできた。驚く間もなく、身体が持ち上げられる。
「おまえは……!」
 “鳥躍る谷”にいた、堂々たる黄色の鳥。それが翼を広げて、風神を背に乗せたのだった。見る間に、下界が遠くなる。
「お兄ちゃん!」
 半泣きの双子が駆け寄ってくる。ブーツを覆い隠しそうな、緑の草花を踏みながら。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Y)
2014-03-26 00:24:33
詩情溢れる言葉と共に少しづつ物語が進むのを楽しみにしています✨
第五の竪琴が見つかるか、風神は、双子達はこのあとどうなるのでしょう!幸運を祈っています
返信する
少しずつ (新渡 春)
2014-03-26 11:52:18
>Yさん
温かいコメントありがとうございます。
旅が進むにつれて、少しずつ双子の才能があらわになっていきます。双子と風神の旅も半ばを越えました。引き続き応援をよろしくお願いします(^_^)
返信する

コメントを投稿