みずからの声が、山神・息吹(イブ)の声になっている。水神の驚きは、それだけに留まらなかった。側仕えの山吹の涙にほだされるまでもない。己の変化に、気づかないわけにはいられなかった。変わったのは、声だけではなかった。姿もまた、ひともとの青柳さながら、優しくたおやかな、息吹そのひとの姿になっていたのだから。「いったい何が……」水神は呟いた──息吹の、声で。心は、水神のままであるというのに。“わたくしを、その身にお納めくださいませ。”──息吹の言葉が、水神の胸によみがえる。水神は、愕然と我が身をかえりみた。息吹の声、息吹の姿。息吹が己の枝に宿した朝の露──それを、水神は飲んだ。その朝露に息吹が託したものは──息吹に残されたいのち、息吹の魂、水神への想いそのものであったのだ。いま、水神はあらためてそのことを知った。「……わかった、息吹殿」水神は言った。元の己の声で。「ともに生きよう。そして、唄おう」