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いとしのCinderella(その11)『天地明察』

2012-10-11 08:05:05 | 幾何学
一昨年の4月に冲方丁(うぶかた とう)さんの『天地明察』が本屋大賞を受賞したことを記事にしました。結局、マンガ『とろける鉄工所』は購入しましたが、『天地明察』は買いませんでした。アマゾンのレビューがあまり芳しくなかった、というのがその理由でした。
ところが先月、この小説が映画化されて、私の加入するメーリングリストでも話題になりました。割りと高い評価でした。『天地明察』が上映されているシネコンの下の階は紀伊国屋書店前橋店で、映画に連動して出版された『江戸の理系力』というムックも見かけました。ぱらぱらとページをめくると「江戸時代の科学技術の実力は世界水準を超えていた!」とい売り文句が踊っています。こういうお国自慢はかつての旧ソ連が盛んに唱えたものです。この手の「江戸時代は良かった」とか「中世は素晴らしかった」という主張は眉唾と思って間違いありません。
それでも映画の出来が気になって仕方ありません。月曜日は「メンズデー」とかで料金は千円、18:15からの上映を観ることにしました。観客の入りは良くない。ベストの席に陣取って大量のポップコーンと緑茶で空腹になるのを避けながら観始めました。ポップコーンのカップは巨大でクイーカを小ぶりにしたサイズ。
この映画の前半のハイライトは北極星の仰角を観測してその地点の緯度を計測する観測旅行(北極出地)です。歩数と方向を記録し、前の地点の緯度から現在の緯度を計算し、それを観測結果と付き合わせるシーンでは伊藤重孝(岸辺一徳)と建部昌明(笹野高史)と安井算哲(岡田准一、V6)の計算勝負になり、算哲の圧勝で終わります。しかしここで緯度を35度○○分と読み上げたのには驚きました。こうなるともういけません。江戸時代には角度の概念が無かったことを思い出し、あれこれ考え込んでしまいました。大工の世界はともかく、幕府の天文方には中国経由でヨーロッパの天文学の知識や幾何学も入っていたのだろうか?帰宅して調べるとそうではないらしい。

もう一つ気になって仕方が無かったのが、関孝和と安井算哲の算額でした。問題を正確に記憶出来ないので700円のパンフレットを買い求めました。関の出題は与えられた円の直径が一尺(10寸)で弦の長さが9寸のときに円背(劣弧)の長さを求めよ、というものです。自宅のPCでCinderellaを使って作図してみました。

分かり易くするために図形を横倒しにして、補助線もそのままにしてあります。円の定義を半径でなく直径で行うのはノギスを思い起こさせますが、この時代のやり方なのでしょう。現代風に考えるとarcsin(逆三角関数)の数値計算の問題です。今なら関数電卓で答え一発、しかし当時は大変だったと思う。関はベルヌーイ数も知っていたらしいので級数で近似して、算盤か算木で数値を求めたに違いないでしょう。

これに対して算哲の出題は初等幾何の問題です。一辺10寸の正方形の内部に円が図のように接しているときに、直径の和が11.716寸ならば大円の直径はいくらか、というものです。映画の中では解が求まらないと指摘されて算哲が落ち込むシーンがありました。
この図をCinderellaで作図するにはグリッドを表示させ、グリッドにスナップするモードにして、正方形ABCDを描きます。対角線ACを引き、この線上に点を打ち、辺BC・CDに垂線を下ろし、それぞれの交点に接する円を描きます。この円と対角線の交点に半径11.716の円を描きその交点をKとします。後はもう簡単です。Cinderellaの自由点Eは動かすことが出来るので、解が無限にあることはマウスでドラッグしても良く分かります。しかし最初の直径の和を数値で与えるのはエレガントではないと思われました。

昨晩、入浴しながら思いついたのが上の図です。二つ目の円を描くのは内心を作図することです。従って私の算額なら「正方形の内部に接して描かれた2円の中心の距離が一定である事を示し、その距離を求めよ」となるでしょう。多分2次方程式を解くことに帰着されるでしょう。こうして見ると関孝和と安井算哲の数学の実力の差が明らかです。

私も和算の本は持っていますが、見ただけでうんざりし、勉強する気が起こりません。

さて映画に戻って、最後のクレジットが印象に残っています。「ステディカム;○○○○、××××」と出て来ました。映画ではどのシーンでステディカムが使われたのでしょうか。

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