健康法を考察するためには、その生物の進化過程を踏まえる必要があるだろう。進化は、生物種と地球環境(その種の生息環境)との相互作用で起こるからだ。
そのような相互作用の在り方(種の生態などに反映)は様々であり共通性は少ないかもしれない。しかし、相互作用の原動力は、生物種が採用した生活様式に伴い生体に働く力学現象にあることは間違いないだろう(こう考えるのは、ラマルク的な進化の考え方を基盤にしているからだろうか)。
島 泰三氏の著作「親指はなぜ太いのか」(2003年)では、猿のアイアイの形質形態の観察から出発して論考を展開しているが、その意義をまとめると次のような感じになるだろう:
アイアイ(原猿類)の形質形態(耳・口・手の特異な形)を観察しその合理的理由を解釈
→ 今西錦司氏の棲み分け理論を「食べ分け理論」に組み替えた上で、食性と口・手に関するの相関を霊長類に演繹し、食性が霊長類の口(歯)と手の形を決めている(口と手連合仮説)を提唱
→ この仮説の応用として、ヒトの口と手の形から初期人類の食性と、食性関連の移動方法について推論を展開(骨食を採用し直立二足歩行になったと結論)
この辺りの話は、西原克成氏の著作「究極の免疫力」(2004年)が簡潔にまとめているので引用しておこう(207頁):
「哺乳動物の歯と顎と顔の形は、食物の性質が一定に決まると、それにしたがって変化します。食べ方、噛み方、餌のとり方で、身体のすべての形が少しずつそれに適したように変化し、これが親子代々に続き累代に及ぶと亜種が分離します。つまり、『種の起源』は、突然変異や適者生存ではなく、行動様式の変更そのものにあり、行動様式の力学現象つまり重力作用そのものこそが、進化の原動力だったのです。」
島氏の論法を応用する目的でさらに演繹すれば、次のようにできるだろう:
島氏の口と手連合仮説
→ 食性は生活様式の主体であり、口や手の形は結局遺伝因子ということであり、島説は、生活様式遺伝因子形成仮説に衣替えできそう
→ 現生人類(ホモ・サピエンス)を含むホモ属の進化には二つの様式があり、生物学的な進化と文化的な進化である。前者は遺伝因子に、後者は道具に制御されていると見られるので、上述の仮説はホモ属においては「生活様式遺伝因子・道具形成仮説」と発展させられそう。
生活様式遺伝因子・道具形成仮説を考察上の基本法則として設定すれば、生物種の生活様式が進化を主導するということとなり、ヒト遺伝子想定的生活様式実践(健康)法の意義が見えてくるのではなかろうか。