ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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〔推測〕 タバコ、アルコールは隠れ蓑だったのか? (4/5)

2013年05月26日 |  推測

 少しサボり過ぎたか・・・

 前回記事(ココ)では、タバコ・アルコールの害のリストが歪んで不正確になった理由として、タバコ・アルコールに別起源の有害物質が相当程度入り込んでいたため、これが害のリストの過大評価に繋がったのだろう(隠れ蓑容器説)という可能性を眺めてみた。

 今回は、タバコについては上述の容器説との関連で、肺がんと放射性ポロニウム210の含有との関係について触れておこう。

 先ずは、基礎知識とおさらいから。放射性ポロニウム210は、ウラン系列の自然放射性核種の一種で、その壊変系列は下図のとおりである。

図1 ウラン壊変系列(ウラン238)
注)「226Ra」はラジウム226、「222Rn」はラドン222。
出典)厚労省の資料(後述の資料4-1の12頁)。



 ウラン238(半減期44.7億年)は地殻に存在しつつ、少しづつ壊変をしている。ラドン222 (希ガスの一種)まで至ると気体化し、その一部は岩盤や土壌の隙間などから大気中に拡散してくることとなる。大気中に拡散したラドン222は、引き続き壊変を続け最終的に鉛206 (安定同位体)に至るが、その過程で半減期が圧倒的に長いのが放射性鉛210 (半減期22.3年)である。つまり、気化して大気中に拡散したラドン222 (同3.82日)は、放射性鉛210の形態で空気中に浮いていたり、地上に降り積もったりしている場合が多い訳である。

 理由がよくわからないが、植物は、その環境中から鉛を吸収するとされている。独立行政法人農業環境技術研究所(NIAES)のサイトから、

植物の金属元素含量に関するデータ集録
http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/hvymetal/

6.鉛(Pb)
 植物の通常のPb含有量は、0.1 ~ 1.0ppm であるとされている35) 。・・・

  [中略]

 少量のPbの添加によって大麦、エンバク、トウモロコシ、小麦、水稲などの生育
が促進されるという報告19,21,42,44)があるが、Pbが植物生育の必須元素であるというこ
とは、まだ証明されていない。・・・


 植物に吸収された鉛の中には、わずかだ当然放射性鉛210が含まれることとなる。放射性鉛210やそれ以降の核種(放射性ポロニウム210を除く)はベータ崩壊だが、放射性ポロニウム210(半減期139日)は短期間でアルファ崩壊するので、これらの核種の中では生体への影響が大きいものと予想される。
 
 ちなみに、以前の記事
   自然放射線について(2) ホルミシス武田説と我が国における水準 2012/4/25
でも触れたように、人体にも放射性ポロニウム210が存在するとされている(日本人成人男性で18ベクレル。放射性鉛210は同15ベクレル)。長くなったので、基礎知識はこのへんまでにしておこう。


 さて、喫煙でタバコに含有されていた放射性ポロニウム210を吸引すると肺がんになるという話(肺がんタバコ含有放射性ポロニウム210原因説)は、理由はよく知らないが、定期的にお出ましになるような気がしている。

 検索してみると、前々回の例は、2006年12月にニューヨーク・タイムズ紙の記事がきっかけで盛り上がったらしい。ウェッブ上に関連記事があるので、サイト「MyNewsJapan」から、

マイルドセブンに「ポロニウム」 JT「入っていないと言い切れません」
01/25 2007
http://www.mynewsjapan.com/reports/521

 『ニューヨーク・タイムズ』では、

●たばこ産業は、少なくとも1960年代からたばこに相当量のポロニウムが含まれていることを知っていた。
●喫煙者はたばこ1本吸うたびに、平均0.04ピコキューリーのポロニウムを吸っている。
●初期の原爆に使われた核物質の何千倍もの放射能がある。
●1日に1箱半のたばこを吸う喫煙者は、年300回も胸部にX線をあびたに等しい。

 といったことが出ている。 (引用者注:ここでは「肺がん」と言及してないけど、念頭にあるのはそうだろうと推測。「0.04ピコキューリー」は換算すると1.48ミリベクレル(mBq))


 上記を主張したのは、プロクトールという人らしい(Robert N. Proctor。米国スタンフォード大学。正確な読みはわからないので不正確かも)。当時は「1日に1箱半のたばこを吸う喫煙者は、年300回も胸部にX線をあびたに等しい」の部分に読者がびっくりしたのかもしれないが、今では、我が国政府は年400回相当のところに子供達を住まわそうとしているのであるから、びっくり度も急減しているかもしれない。

 このプロクトール氏の主張に対する批判については、他力本願でいくと、実効線量換算ベースでの議論になるけど、ブログ「漂流地点報告」の次の2つの記事(後者の記事では、3.11後にプロクトール氏本人とコンタクトした結果の追記あり)があり、その主張に無理があるとの結論部分は個人的にも支持できる。

2007年01月26日(金) タバコにポロニウム
http://d.hatena.ne.jp/ayanami/20070126

 タバコにポロニウムが入っていてタバコを吸うと被爆して大変な事になる!と言いたいらしいんだけど、ポロニウムの出所を書いていないのがミソ(騙しの手口)。・・・


2007年01月28日(日) タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝するか(解決編)
http://d.hatena.ne.jp/ayanami/20070128

(2011年6月5日追記) 

   [中略]

2.Proctor先生はなぜ「タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する」と主張しているのか

 では、なぜProctor先生は「タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝する」と主張しているのか、本人に訊いてみましたところ、データの出所を教えて戴きました(Thomas H. Winters and Joseph R. Difranza, “Letter to the Editor,” New Engl. J.Med 1982,306:364-365)。

 論文(Letter)を参照してみたところ、「喫煙による被曝量は年間8000ミリレム(≒80ミリシーベルト)である」という記述がありますが、これは実際の測定に基づいたものではありません(1965年の生体組織検査報告からの推定)。

 (データの出所を教えて欲しいとお願いした立場でこういう事を言うのは心苦しい事ではありますが)現在は実際に精密測定した論文が何報もあるのに30年前の大雑把な推定値を喫煙による年間被曝量であると主張するにはかなり無理があると思います。そもそもProctor先生がコラムなどで主張する通りタバコ一本あたりのポロニウム摂取量が0.04ピコキュリーであるならば(この摂取量は別の論文から値を持ってきたそうです)、年間被曝量はレントゲン300回分に達しないし、年間被曝量がレントゲン300回分であるならば、タバコ一本あたりのポロニウム量は0.04ピコキュリーでは計算が合いません。矛盾しています。


 このブログ主が指摘しているように、このプロクトール記事では、かなり作為的に放射性ポロニウム210による被曝の影響を過大に評価していた可能性が高いだろう。


 前回の例は、ちょうど3.11の前後だったようで、国内ではほとんど盛り上がらなかったようだ。2011年3月頃、日経サイエンスに次の翻訳記事(米国版サイエンス 2011年1月号から)が掲載されていたらしい。日経サイエンスのサイトから、

タバコに放射性物質
2011年4月号
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1104/201104_066.html


 最新の例である3.11後の話に移ると、肺がんタバコ含有放射性ポロニウム210原因説が再度話題になったのは、2011年9月下旬らしい。契機は、カラギュージアン氏(Hrayr S. Karagueuzian。米カリフォルニア大教授)らの研究グループによる次の論文がウェッブ上で公表されたためらしい。同論文の要旨(英文)については、米政府系サイト「PubMed」から、

Nicotine Tob Res. 2012 Jan;14(1):79-90. doi: 10.1093/ntr/ntr145. Epub 2011 Sep 27.
Cigarette smoke radioactivity and lung cancer risk.
Karagueuzian HS, White C, Sayre J, Norman A.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21956761


 同論文の要点は、次の部分であろう。

According to the Environmental Protection Agency, the industry's and our estimate of long-term lung rad of alpha particles causes 120-138 lung cancer deaths per year per 1,000 regular smokers

 その趣旨は、著者らの被ばく線量評価によれば、通常の喫煙者1,000人につき毎年120~138人の肺がん死が引き起こされるということのようだ。正しいかどうかは別にして、聞いたこともないような大きなリスクであることは間違いがなく、びっくりしてしまった(我々をびっくりさせる基準を調べている人々でもいるのだろうか・・・)。

 同論文の公表についての報道は、国内ものがみつからなかったので(何かみかけたような気がするのだが・・・)、海外もの(英文)だと次の報道がみつかった。タバコ会社が関係データを隠蔽していたという点が強調されている記事なのだが、米ABC Newsのサイトから、

Tobacco Companies Knew of Radiation in Cigarettes, Covered It Up
Sept. 29, 2011
http://abcnews.go.com/Health/tobacco-companies-hid-evidence-radiation-cigarettes-decades/story?id=14635963


 個人的には、放射性ポロニウム210は自然放射性核種なので、たとえ喫煙により吸引したとしても危険かどうかは要検討であり、ちょっとよく分からない(なぜなら前掲の過去記事(ココ)で触れたように、自然放射性核種の場合は進化の過程で対応策を身に着けた可能性があるし、また、個人的には内部被曝については実効線量換算をすべきではないと考えているからでもある)。


 ただ、肺がんとタバコとの関係で言えば、以前の記事
   肺がんタバコ原因説は正しいのか?  2013/4/5
でも触れたように、武田邦彦氏の説(タバコは肺がんの原因の一つだが、喫煙者が肺がんになるのは交通事故死のリスクと同程度)を支持しているので、カラギュージアン氏らの論文が指摘する数値のようなことはあり得ないだろうし、実際の国内の肺がんのデータはそれを裏付けているように思われる。


 独自説だけだとあれなので、実効線量換算ベースでの議論による同論文に対する批判については、これも他力本願でいくと、「六号通り診療所所長のブログ」から、

タバコの放射線量が急増した謎を考える [科学検証]
2012-03-07 08:13
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2012-03-07

 概ね自然放射線のレベルに留まり、単独で発癌を誘発する可能性は低い、という見解が一般的でした。
つまり、タバコによる肺癌を始めとする癌の増加は、放射性ポロニウムによるものではない、と考える意見が大勢を占めていたのです。

ところが…

 驚くなかれこの報告以降に書かれたものには、同じ1日20本のタバコを1年間吸った場合の実効線量が、10~60ミリシーベルトとなっています。
つまり、タバコの被曝線量が、昨年から一気に100倍以上になっているのです。

一体どのような驚天動地の発見があれば、このようなダイナミックな変化が起こるのでしょうか?
疑問に思い上記の論文を読んでみました。

結論から言うと、論文を読んでもどうも釈然とはしません。 (他にも鋭い指摘がいろいろあり、是非一読を)


 被曝線量の評価については、同論文では独自の評価方法を採用していてかなり大きめとなったようで、従来の評価体系の方法(多分ICRP体系か)から突然乖離していたため、このブログ主も全く納得していないように見受けられる。独自の手法というのは、以下のようなものらしい。同じく上記ブログ記事から、

 更にタバコの煙に含まれた、ポロニウム210と鉛210は、肺の全体にくまなく沈着するのではなく、気管支の分岐部に特異的に集積すると解説されています。これを原文でも「ホットスポット」と表現しています。放射性物質が雨樋や排水口に溜まるように、吸入された放射性物質が気管支の分岐部に溜まり、そこで120日間はα線を放出し続けるという推測です。

 これが仮に正しいとすると、従来の肺全体に放射性物質が拡散する、というモデルより、格段に肺の被曝線量は増え、計算上は従来の100倍という、びっくりするような数値となるのです。

 問題はこの計算が正しいという根拠が、何処にあるか、ということです。


 理屈はよく分からないが「ホットスポット」ができるというモデルらしい。何かどこかで聞いたことがあるような話になってきたけど、どこだっただろう(最近忘れっぽいな・・・)。

 付け加えておくと、カラギュージアン氏らの論文で一つ評価できるとすれば、問題となる核種の体内動態に応じてモデルを作るという姿勢は評価てきると思われる(ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムあたりなら更によかったのだが・・・)。

 
 ちなみに、我が国当局(厚労省)の認識も、喫煙の際の放射性ポロニウム210のリスクは大きくないとしているのだろう。先月の厚労省の関係委員会での議論の模様を同省のサイトから
 
2013年4月11日 第1回たばこの健康影響評価専門委員会 議事録
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031ub4.html

○多田羅委員長[(一般社団法人日本公衆衛生協会会長)] ポロニウムは当面この委員会で取り上げる順位としては、先生から見たらいかがなのですか。
○欅田委員[(けやきだ、国立保健医療科学院生活環境研究部長)] 今、放射性物質ということで、福島の事故との関連ですごく関心の高いところだと思うのですけれども、健康リスクとして見たときに、これがどの程度寄与するのかが次の課題になってくると思うのです。これを吸い込んだことによる被ばく線量がどの程度なのか。これについても評価がされているところであります。
○多田羅委員長 それはデータはあるのですか。
○欅田委員 それに関しましては、12ページのところ、日本の自然放射線源による被ばく線量を棒グラフに示したものがありましたけれども、これが原子力安全協会から生活環境放射線という形でまとめて出されて、そのデータが国連科学委員会(UNSCEAR)に大体、引用されていくわけですが、その中でたばこによるポロニウムの被ばくというものが評価されています。喫煙者におきましては、1パッケージを毎日吸う方で年間0.051ミリシーベルト。それを喫煙率で全人口平均にすると0.01ミリシーベルト/年という形ですので、被ばく線量からいくと、リスクとしてはそう大きくないというのが評価されているところです。
○多田羅委員長 ありがとうございます。
 今のところ、国民は放射性ということについて非常に関心が高いので、ポロニウムも話題に上がってくるということも聞いております。 (強調は引用者)


 また、カラギュージアン氏らの論文を受け、国内で含有量を測定したようなので、上記会合の資料から放射性ポロニウム210の関係部分を掲げておくと(第1回資料  たばこの健康影響評価専門委員会審議会資料 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002zljv.html)、


図2 国内当局の対応 - タバコ中の放射性ポロニウム210
出典)上記サイトの資料2の7頁。



図3 タバコ中の放射性ポロニウム210の測定研究の概要
出典)上記サイトの資料4-1の11頁。



図4 タバコ中の放射性ポロニウム210の分析結果
出典)上記サイトの資料4-1の13頁。




 図2によれば、タバコに放射性ポロニウム210が含有されている点は、1960年半ばには研究者の間では広く知られていた事実のように見受けられる。図4の国産たばこの測定結果(粒子成分のみで、1本あたり3.2mBq)は、従来の傾向とあまり変わらないらしい。


 最後に、カラギュージアン氏らの論文の関連でやっと思い出したので、アニー・ガンダーセン氏がとなえる説を紹介しておこう。その説は、次のような内容である。ブログ「みんな楽しくHappy♡がいい♪」の記事から、

「東京でも毎日10個ホット・パーティクルを呼吸していた」ガンダーセン博士  日本語字幕・内容書き出し
2011-06-24
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-510.html

[ガンダーセン氏の発言から] 我々の独立した科学者が、日本のエアーフィルターから発見したのです。東京でホット・パーティクル(プルトニウム含む微細高放射性物質)が、4月中でも毎日、日に一人当た­り10個呼吸したと計測されています。福島では、日に一人当たり10個 X 30~40倍呼吸したと思われます。

驚いたことに、シアトルのエアー・フィルターでも、日に一人当たり5個のホット・パーティクルが4月中毎日観測されました。


 仮にこの説が正しく、かつ、この「ホット・パーティクル」が原因である程度肺がんが多発するなら、カラギュージアン氏らの指摘した数値のような世界が、喫煙者かどうかとは無関係に、現実のものとなるのかもしれないと感じるのは多分疲れて眠たいからかもしれない。


(つづく)