太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

舌を巻く

2024-06-02 13:25:41 | 本とか
沢木耕太郎氏の「檀」を読んだ。
檀とは、「火宅の人」の作者かつ主人公である檀一雄のことである。

この小説の興味深いところは、檀一雄の妻である檀ヨソ子さんの語り口で語られている点だ。
まるでヨソ子さん自身が書いたように、そのとき何があって、どう感じたのかが生々しく描かれている。
本書によれば、「ある人(沢木)が週に1度、1年にわたってヨソ子さんにインタビューをした」とある。

「火宅の人」は、言わずと知れた檀一雄が愛人との日々を綴った物語。
檀一雄氏が亡くなる直前に発行され、たちまちベストセラーになるのだが、世間に知られれば知られるほど、妻としての辛さはいかほどだったろう。
夫の連れ子の他、3人の子供を育てながら、しかも次男は日本脳炎で寝たきりになってしまう。

中身が重そうなので、1度は棚に戻した本だったが、読めなくなったら途中でやめようと思い、再び手にした。
けれど、そんな内容でありながら、寝る間も惜しんで読んでしまった。
人として当然の怒りや憎しみが、なんの飾りも誇張もなく語られていても、陰湿な感じや、余計な水分がそこにはまったく感じられない。

そしてこれほどまでに自分勝手で、世話の焼ける檀のことを、妻は最後まで嫌いにはなれなかったというのだ。
それだけを聞くと、きれいごとにも思えるし、妻の意地にもとれるけれど、これを読めば、そうではないことがわかる。

一気に読み終えて、改めて沢木耕太郎氏の文章の巧さに舌を巻いた。

私が日頃、巧いなあと感心しながら読むのは浅田次郎氏だが、久しぶりに沢木耕太郎氏の本を読むと、いや、これは巧さでいけば沢木氏のほうが上かもしれないと思う。


この本と一緒に手にした、桜庭一樹の「私の男」は、内容が気持ち悪くて半分も読めずに本を置いてしまった。
ホラーとか残忍な気持ち悪さでは全然なくて、ぬめぬめとしたいやーな感じの気持ち悪さで、最後の解説を読んでみたら、138回直木賞を受賞しているというので驚いた。
しかも、選考員の浅田次郎氏が絶賛したというのだから、いくら本が好きでも私には小説の良しあしはわからないのかもしれない。









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