昨日の晩、テレビを見ながらネイルをしようと、2階のバスルームにある引き出しから、ネイル類が入っている四角いポーチを出して1階の居間に持ってきた。
ポーチをカウチの袖机に置いたら、何かが飛んだ。
居間の照明は普段は間接照明のみで、薄暗い。
アメリカ人は煌々と部屋を明るくするのを好まないのか、大抵の家は薄暗い。
その薄暗い中、何かが飛んだほうに目を凝らすと、ガレ風のスタンドの笠に せせらぎ が止まっていた。
(注)せせらぎとはゴのつく虫のことで、名前を言うのも憚られるほど嫌いなので、せせらぎと呼んでいる
何かが飛んだ瞬間、実は私にはそれが何かはわかっていた。こんな動きかたをするものはひとつしかない。
名前を言いたくないほど嫌いなせせらぎを、それも私の手に負えない大きさのやつを乗せたポーチを持って歩いていたなんて。
昔はどんな小さなせせらぎでもダメだったが、最近は2センチぐらいまでなら何とか対決できるようになった。
しかしそこにいるのは、ゆうに5センチは超えている。
猫がいるからか、生ゴミをしっかり蓋つきのゴミ箱にしているからか、年に数回しかせせらぎに出会うことはない。
でも奴らは庭のアガパンサスの下の土の中の巣にいるのを知っている。以前、義両親と夫が庭仕事でそこを掘ったら、わらわら出てきたそうだ(恐ろしすぎる)
で、埋め戻したというのだ。
彼らにとってはせせらぎはカブトムシと同等のところにある。
さて、私はキッチンタオルを掴み、そのデカイせせらぎに向けて、思い切りスナップをきかせて叩きつけた。
この失神スナップはハワイに来てから考案した武器である。
踏んだり叩いたりすると潰れて、さらに恐ろしい状況になるから嫌だ。
洗剤をかけると、あとの掃除が面倒だ。
日本で、泡で包んでしまうという殺虫剤がでたとき、これだと思って早速使ってみたら、泡の中に閉じ込めたはいいが、まだ中で動いている。ホイホイですら恐ろして回収できない私が、動いている泡をどうにかできるはずもなく、途方に暮れた。
タオルでスナップ一撃して失神させ、動かなくなったところで潰れないよう止めをさす。
そして、ペーパータオルを何枚も重ねたのを乗せて、DAISOで買ったマジックハンドでつまんで捨てる。
これが私のやり方。
私の失神スナップはかすかに的を外れて、やつは袖机の下に逃げ込んだ。
袖机をずらしてみても、いない。他に逃げた様子もない。
物音で猫のコーちゃんが駆けつけてきて、一緒に探す。
袖机の脚部分は格子のように縦に何本も棒がある。その脚の裏側のどこかにいるのではと思い、懐中電灯を持ってきた。
見たくはないが、このままにしておくのも困る。
案の定、角の内側の部分でじっと身を潜めているのが見えた。
頭が黒い、キモいやつ。
格子の隙間が狭すぎてものが入らない。
コーちゃんも見つけて手をいれようとするので避難させて、夫を呼ぶ。
夫がガレージから蟻の殺虫剤を探してきて、反対側の角から吹きかけた。
命中し、あわてて出てきたところに再び噴射。
ひっくり返ったせせらぎに、私の失神スナップ。
そのままどこかに行こうとする夫に、片付けるように頼むと、
「Pick it up(拾えばいいじゃん)」
と言いながら、素手で触覚をつまもうとするのでダッシュでペーパータオルを掴み、投げた。
これだから油断も隙もありゃしないんだ。
スナップに使ったタオルは、床をふいてからゴミ箱に。
騒いで逃げるしかできなかった私が、よくもここまで成長したことよ、と思う。
そういえば子供のころ、祖母は飛ぶせせらぎを素手で捕まえたっけ。
どう考えても、今生のうちにそこまで到達する気はしない。