元気なのかどうか、モヤモヤするだけで確認すら怖くてできずにいた自分を反省し、昨日、マイクに会った。
天気がいいので、マジックアイランドでピクニックをすることにした。
アラモアナで待ち合わせて、それぞれ食べ物を買い、マイクの車で向かい側のマジックアイランドへ。
雲一つない青空に風が吹き抜けて、どこまでも広い芝生の上で太極拳をする人たち、ハーモニカを吹くグループ、ひとりでエクササイズをする人、私たちのようにランチを食べている人たち。
海に目をやれば、サーフィンをする人たち、レガッタを漕ぐ人たち、浅瀬で泳ぐ人たちがキラキラと太陽の下で輝いて見えた。
「僕がハワイに来たとき、1960年頃だけど、ここはまだ埋め立てされて間もなくて、一面の泥だったよ」
マジックアイランドは埋立地。
泥だった地面に、今はどっしりとしたモンキーポッドがたくさん伸びて、涼やかな木陰を芝生に落としている。
「私たちはココで結婚したんだよ」
18年前、私と夫はここで結婚式を挙げたのだ。
マイクは風邪をこじらせて肺に炎症が起きているらしく、咳をしている。
調子が悪いなら日を変えればよかったのにと言うと、
だいぶよくなっているし、こうして外に出たほうがずっと気分がいいのだと言う。
マイクはまた少し痩せたみたい。太っているより健康にはよほどいいけど。
誕生日のプレゼントを渡した。
「84だよ、驚くね。同窓会の通知が来たけど、半分以上はアッチにいっちゃってた」
心臓の持病はあるけれど、84歳にして一人暮らしで、出歩くことも車の運転もできて、頭もシャープで、日本人ならともかく、アメリカ人としては上出来じゃないかと思う。
私の義両親はともに80歳だが、彼らの友人たちのほとんどは旅行などおろか、もう助けなしでは生活できない。
平均寿命が短いアメリカでは、それが普通なのかもしれない。
足が痒くなって、砂糖をやめたら治ったという話をしたら、
「え!!!!ボクもそう!!あれは砂糖だったのッ!病院に行こうかと思ってたところだよ」
数か月前に新しい住人が3つ隣の部屋に越してきた。
フランス人の女性で、夫を亡くして一人暮らし。
車がないので、たまにマイクが車に乗せてウォルマートなどに行くようになり、お礼にパイやクッキーやドーナツを作って持ってきてくれるのだそうだ。
これがまたほっぺたが落ちるほど美味しい。
もともと甘いものが好きなマイクは、それで足が痒くなったというわけ。
何かあったら知らせてね。
と言いたかった。
でも、突然倒れたりした場合は・・・
そのまま搬送されて、連絡する暇も状況もなかったら。
フランス人がいてくれれば、ひとりで倒れて何日も発見されず、お腹をすかせた猫二匹が部屋をうろうろしている、ということにはならないで済むかも。
悪い妄想は深みにはまってしまう。
もし、アッチにいってしまったら、どうにかして知らせてね。
と言いたかった。
ジョークの感じで、「夜はやめてよ」などと言って。
けれど、言えなかった。言えないよなァ。
父が元気だったころ、電話で
「死んだら飛行機にも乗らずに一瞬でハワイに来れるね」
「おお、そうだなあ。そしたら必ず行くよ。楽でいいなあ、ワッハッハー」
などと話したことがあった。
あの頃、父はまだ80にもなっておらず、だからそんなことが言えたのだ。
家に帰り、しばらくするとマイクからメールが届いた。
今日は来てくれてありがとう、とても楽しかった。いい友達でいてくれてありがとう。
こちらこそ。
両親をなくしたとき、私は思ったよりも元気でいられたと思っていた。
けれども、身近な人との別れがくるのがこんなに恐ろしいと思うのは、いつかは来るとわかっていたことが、まさかの本当になってしまったことが少なからず私の心に跡を残しているのかもしれなかった。
きっとまた会える。
会えなくなるまで、会える。
さばさばと、それでいいじゃないかと自分に言ってみる。