ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

介護報酬改正にあたってのケアマネジャーへの思い(ナーシングプラザcomにアップ)

2009年03月06日 | 社会福祉士
 「ナーシングプラザ.com」では、毎月違った人のコラムがアップされている。このホームページは看護系の強いものであるが、読み応えのある内容である。是非、このホームページも覗いて下さい。今月は私が話しをした内容がコラムとして載っている。私の内容は、以下の通りで、介護報酬改正をもとにケアマネジャーへの思い(今までブログで言っていること)を示したものである。

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【生活を支え、生命を支えるケアマネジャー 】

 阪神淡路大震災が起こって、今年で14年になります。阪神淡路大震災のときはケアマネジャーもいなくて、要援護高齢者がどこに住んでいるかもほとんどわからず、救援活動は大変苦労しました。しかし、その後2004年に起きた中越大震災(※1)のときには、介護保険制度ができており、ケアマネジャーの活躍があり、阪神淡路大震災の場合とは明らかに違った状況が生まれました。

 私たちは中越大震災の後、現地に入ってのヒアリングと、郵送によるケアマネジャーの調査を行ないました。その結果、この地震は10月23日土曜日の夕方5時56分に起こったのですが、翌日曜日の夜にはほとんどの利用者の安否の確認ができていたことがわかりました。このこと自体はケアマネジャーの立場から見ればあたりまえのことです。なぜなら、ケアマネジメントはモニタリング(※2)という機能をもっており、利用者の状況が変化すれば、ただちに確認し、ケアプランの変更をする必要があるからです。これこそが阪神淡路大震災との大きな違いなのです。

 もちろん、ケアマネジャーひとりが動いて安否の確認ができたのではなく、担当のヘルパーから「誰々さんは避難所にいます」という連絡がきたり、民生委員や家族から連絡がきたりしました。つまり、そこには、一人ひとりの利用者のネットワークができあがっていたわけです。目には見えないけれど緊急のときにはさっと動ける、これがネットワークの姿です。

 このネットワークに関して非常に印象に残っているのは、人口呼吸器をつけた高齢者が生命を救われた事例です。この事例は高齢者が高齢者を介護している、いわゆる「老老介護」の家庭だったのですが、担当のケアマネジャーは、とても気になったそうですが、地震で地域のライフラインが崩れており、当日には連絡がつきませんでした。翌日の日曜日の朝一番にその家に行ってみると、助かっていたわけです。

 どうして助かったかと言うと、ケアマネジャーは、利用者が病院を退院したときの最初のサービス担当者会議に、消防署の職員、民生委員、それから近所の人にも来てもらっていたそうです。「この方は電気が消えると大変危険な状態になる」ことを伝え、消防署にはその方の担当病院を指示するなどの対応をしておきました。それで震災が起きたとき、民生委員や近所の人が協力してその家から本人を引っ張り出し、消防署が病院へ連れて行ってくれたのです。実際は、病院も半壊しており、長野県の病院までヘリコプター搬送されたのですが、生命は救われました。

 つまり、ケアマネジャーが関わるということは生活だけでなく、生命を支えることにもつながっているのです。

【 サービスをつなぐだけではないケアマネジャーの仕事 】

 介護保険制度にケアマネジメントを導入することに関わった者として、まさに生活を日ごろから支え、緊急時にもきちんと対応できる、そうした人材を社会に配置したのだとあらためて、ケアマネジャーの仕事に自信を持ちました。こうしたことから、ケアマネジャーは、介護保険のサービスと結びつける介護保険制度の枠内のみの仕事ではなく、利用者一人ひとりの生活をどう支えていくか、生命を含めた生活をどう支えていくか、という仕事をしているのだということを理解していただきたい。

【 体制加算ではなく質の良し悪しによる介護報酬アップを 】

 ところが、現在、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業者は、収支差率がマイナスで、たいへんな赤字になっています。介護事業者経営実態調査によると、平均で約2割が赤字です。ですから独立した居宅介護支援事業所は経営が困難な状況にあります。ケアマネジャーは、介護保険制度の要だとおだてられる一方で、こうした実態があり、事業所の中では赤字部門ですから、ケアマネジャーはずいぶん遠慮した立場に置かれざるを得ません。一方で、ケアマネジャーには中立公正が求められており、所属している事業所の経営にマイナスになるようなこともしなくてはいけない立場に置かれています。

 そういう中で今回の介護報酬改正が、本当に介護支援事業者の赤字解消になるのか、また、法人の他の事業から自立して運営できるような体制づくりに役立つのかと言えば、疑問に思うところです。

 これは今回の介護報酬改正全体に言えることですが、体制加算と言っていますが、基本的に一定の体制が整っていれば加算する議論なのです。<こういうふうに整っていれば加算する>というもので、介護支援事業所の場合、ケアマネジャーについては主任ケアマネを置きなさいとか、24時間連絡できる体制をつくりなさい、あるいは要介護4と5の比率を何パーセントにしなさい、そういうところには一人当たり単位数を500単位あげるとか、少し敷居を低くして300単位あげることになったわけです。これを特定事業者加算と呼び、ⅠとⅡに分かれております。

 私は介護報酬にこうした加算議論は、現状ではよくないと思っています。なぜなら、みんな、自分の事業所の体制をどう作るか、つまり人を集めなけれならないとか、カンファレンスをやらなければいけないとか、そういうことばかり議論するようになってしまうからです。

 発想を根本的に変えて、<利用者にこういうことをすればサービスの質が良くなる、そうすれば介護報酬が上がる>という仕組みにしなければいけないと思っています。「あなたにこういう質の高いサービスを提供するので、介護報酬が上がります」ということなら、利用者に説明がつくと思います。しかし、この事業所にはこういった資格のケアマネジャーがいますから、何人のケアマネジャーがいますから介護報酬が上がりますという説明では、利用者は本当に納得できるでしょうか。

 利用者がどういう思いでいるのかを考えることが、介護報酬改正の根本になければいけないと思うのです。

【 質の高いケアのエビデンスをつくっていく 】

 そういう意味で、ケアマネジャーが今やっている仕事のなかで大事なことは、どういう支援をすれば質の高いケアができるのか、そのエビデンスを作り上げていくことだと思います。

 たとえば、認知症の方のケアマネジメントはどうすればいいのか、一人暮らしの利用者にはどうすればいいのか、そういうエビデンスをきちんと積み上げて、ケアマネジャー全体のレベルを上げていくことが必要です。同時に、そういうエビデンスを持っている事業者あるいはケアマネジャーの場合に介護報酬が上がる仕組みを作っていかないと、ケアマネジャーにとっても良くないし、利用者が反乱を起こすのではないでしょうか。

 現実には、基本となる介護報酬の単位を上げて、まずは赤字をなくすという基本からスタートすべきです。エビデンスが明確でない状況であれば、エビデンスを作るようにするべきで、加算のようなやり方では、体制を整えられる事業所とそうでない事業所の間で差が生じるだけです。常勤のケアマネジャーが三人以上いない弱小の事業所はけっこう多いのですが、特定事業者加算が取れません。だからと言って、サービスの質が悪いのかと言うと、けっして悪くありません。スモールイズビューティフルという言葉がありますが、小さいからこそ、きめ細かいケアができていることもあるのです。

 よく、特養(特別養護老人ホーム)とグループホームでは、認知症ケアはどちらがいいのかという議論があります。これははっきりしていて、グループホームのほうが、認知症の高齢者は表情がいきいきする、といったエビデンスが出ています。だからこそ、一対一の対応が大事だということで、日本は最近、グループホームをずいぶん取り入れてきたわけです。

 そういうことを考えると、弱小の事業所を切り捨ててもいいのかという話になってきます。ケアの質でもって切り捨てられるのなら仕方ないのですが、今回の改正では、おそらく弱小の事業所は加算がとれず、経営がむずかしくなるでしょう。そういうふうにして淘汰されていくシステムになっています。

 介護保険制度は保険者を市町村におろし、できる限り地域密着でサービスを提供していこうとしていたわけです。地域密着とは、ある意味で、その地域の特性に合わせたものを作ろうとしているわけです。ですから、そういうことともずいぶん矛盾する議論が、今回の介護報酬改正の中には潜んでいると思っています。

 特定事業者加算というのは、ある意味で、五つ星がつくという議論になるのです。つまり、グレードが高い事業所でサービスを受けるからお金も高くなる、という理屈です。しかし、本当に五つ星でサービスが良くおいしい料理を出すところかどうかを、体制で評価できるのかという疑問が残ります。サービスの質で評価し、特定事業者はおいしいところだということでなければ、説明がつかないのではないかと考えます。

 ケアやサービスの質をどう高めていくかという観点に立ち、そういう質を高めている事業所を評価する介護報酬の制度改正を目指していくべきだと思います。