『育児の大敵』金原ひとみ 2010/3/18付 東京新聞のコラム
育児の大敵は孤独だ。私は子供が零歳だった頃、自分が「他人の目には見えないものを必死に世話している」ような気がして、発狂しそうになった。赤ん坊が泣き喚いても夫がゲームから目を離さなかったり、ベビーカーで行った先にエレベーターがなくて困っていても誰も助けてくれなかったりすると、子供も育児も惨めで下らない事に思えた。しかし逆に、周囲が我が子を祝福し、あの手この手であやしているのを見ると、子供に必要とされている事が至上の喜びに思えてくるものだ。
ロイターが調査した「子育てに最も適した赴任先」の一位はオーストラリア、二位はシンガポールだった。オーストラリアもシンガポールも子連れで旅行した事があるが、両国とも子連れで外を歩くととにかく皆子供に話しかけてきた。ウエーターやおばさん方はもちろんのこと、若い男の子でさえ変な顔をして子供をあやそうとするのだ。日本では忌み嫌われる「子供連れ」だが、シンガポールにいる間、私は「子供連れ」であるが故に歓迎されたように感じた。そしてそういう国にいる時、子供は本当に輝き出すのだ。
日本にいても、孤独な育児に新風を吹き込んでくれるのはいつも、子供にお菓子をくれたり、話しかけてくれる韓国料理屋のお兄さんや、中国人のコンビニ店員や、通りすがりのアラブ人である。(小説家)
育児の大敵は孤独だ。私は子供が零歳だった頃、自分が「他人の目には見えないものを必死に世話している」ような気がして、発狂しそうになった。赤ん坊が泣き喚いても夫がゲームから目を離さなかったり、ベビーカーで行った先にエレベーターがなくて困っていても誰も助けてくれなかったりすると、子供も育児も惨めで下らない事に思えた。しかし逆に、周囲が我が子を祝福し、あの手この手であやしているのを見ると、子供に必要とされている事が至上の喜びに思えてくるものだ。
ロイターが調査した「子育てに最も適した赴任先」の一位はオーストラリア、二位はシンガポールだった。オーストラリアもシンガポールも子連れで旅行した事があるが、両国とも子連れで外を歩くととにかく皆子供に話しかけてきた。ウエーターやおばさん方はもちろんのこと、若い男の子でさえ変な顔をして子供をあやそうとするのだ。日本では忌み嫌われる「子供連れ」だが、シンガポールにいる間、私は「子供連れ」であるが故に歓迎されたように感じた。そしてそういう国にいる時、子供は本当に輝き出すのだ。
日本にいても、孤独な育児に新風を吹き込んでくれるのはいつも、子供にお菓子をくれたり、話しかけてくれる韓国料理屋のお兄さんや、中国人のコンビニ店員や、通りすがりのアラブ人である。(小説家)