伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

涙を売られた少女

2007-01-13 20:45:39 | 物語・ファンタジー・SF
 両親の離婚の過程で悲しい思いをし続けて泣くことができなくなったハンブルグの歌のうまい11歳の少女ネレが、泣かないことを条件として世界的な成功をさせるという契約の下、「社長」の敷いたレールに乗って大スターとなっていき、16歳になって初めて涙を流し、社長の下を離れて普通の暮らしを始めるという物語。
 原書は冷戦時代の西ドイツで発表されていて、独裁と資本主義、独占資本と政治、それに翻弄される少女と周囲の人々というような政治的寓意があるように感じられますが、ネレも周囲の人々も語り手の「ボーイ」も今ひとつ一貫した態度でなく、作者の狙いがわかりにくい感じです。ネレ自身も金銭欲を見せたり傲慢になったりしていますし、ボーイや、さらには「社長」と敵対するティム・ターラーさえも、社長との距離感はお話の過程で変わっていますし。それが現実世界の複雑さ・奥深さと感じられるかというと、「社長」が神出鬼没で(アザラシになって現れたり)、そのあたりが現実感のないファンタジーっぽくて、そうも読みにくい。
 児童文学に分類されてはいますが、長すぎるしわかりにくいし、なんかちぐはぐな感じ。訳文も日本語としての流れがよくない感じで読みにくいと思いました。


原題:Nele oder Das Wunderkind
ジェイムス・クリュス 訳:森川弘子
未知谷 2006年12月25日発行 (原書は1986年)
コメント
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