伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

夜明けの舟

2007-01-10 23:05:29 | 小説
 妻に逃げられた後、29歳の部下と関係を持ち続ける56歳の銀行マンと、乳ガンになり夫を裏切って淫蕩な不倫を夢見る30代人妻の身勝手な恋物語。
 主人公の興津は、知人の人妻に一目惚れして、知人から奪うことに夢中になり、しかしそのために疎ましくなった部下の女性を手放すこともなく、ただ性欲のはけ口として残し、その女性が職場の上司と関係を持った疑いを持つや激しく嫉妬し、その上司を卑劣なヤツだと思う始末。人妻のサトと思いが通じた後は、ただ性交を求め続けるだけ。居ても立ってもいられず、少し連絡がないだけでどうして連絡もくれないのかとだだをこねます。人妻の方は、どうして夫がいやなのかも描かれないまま、ただ病気で死ぬのなら好きにしたいというだけで、都合よく興津に一目惚れして夫の目を忍んで逢瀬を続けます。
 いい年してこんな身勝手な2人が、いい気なものだという逢瀬を重ねる様は、読んでいてばかばかしい限り。
 作者がインタビューで「ほんとの純愛を志向して書き下ろした」とか答えているようですが、純愛っていい年した大人が人間の品も格もなく身勝手にむき出しの性欲をさらけ出してだだをこねることをいうんですか。それに純愛というなら愛のために何か切り開いていこうとするものだと思いますが、この2人はなんだかんだ口先ばかりで状況を切り開こうとせずに安全な範囲で人の目を盗んで会っているだけ。ラストは、ろくに努力もしない二人に、嫌われ役の夫が身を引いていきなりハッピーエンドになりますが、これも唐突だし、サプライズというよりはなんか投げ出したようなラストで全く感動も共感も感じませんでした。
 「恋愛小説」とは別に、主人公の興津は、銀行の仕事に飽き「女と飯を食っているだけの人生」に憧れているという設定。そういう設定なら、食事のシーンが充実していそうなものですが、食事のシーンがおいしそうでない、読んでいて食欲をそそられたり香り立つものがない。この作者にとって「女と飯を食う」というのは性交すると同義のようです。露骨な性交シーンは多数あります。電車の中で読むには、まわりが気になるくらい。でも、主人公の身勝手ぶりに感情移入できないせいか、全然興奮もしませんでした。


山本音也 文藝春秋 2006年10月15日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする