伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

オシムの言葉

2006-09-09 20:18:54 | ノンフィクション
 ユーゴスラビアサッカーウォッチャーの手によるオシム監督のこれまでの紹介。
 今やベストセラーで、私もオシム監督がジーコ監督の後任に名前が出てすぐに図書館に予約を入れたんですが、2ヵ月半待ってようやく来ました。

 タイトルから感じるような「オシム語録」的な部分は少なく、選手時代、ユーゴスラビアのクラブチーム・代表チームの監督時代、ギリシャ(パナシナイコス)、オーストリア(シュトルム・グラーツ)での監督時代、そしてジェフの監督としての活躍を綴っています。
 サラエボ生まれのオシム監督が、ユーゴスラビアの代表チーム監督として優れた力量を発揮し確固たる姿勢をとりながら、民族対立・独立の動き・内戦に巻き込まれ翻弄されていく様子、妻がボスニア=ヘルツェゴビナ紛争のサラエボ包囲戦のさなかのサラエボにいたため2年半も会えない中でサラエボを包囲している側の民族のクラブチームを率いる葛藤は、サッカーものというレベルを超えて読み応えがあります。この本の本領はむしろそのあたりにあるように思えます。
 そういう経験を超えてきたオシム監督の言葉、姿勢と思えば、なおさら含蓄があり、重く感じてしまいます。「言葉は極めて重要だ。そして銃器のように危険でもある。(中略)新聞記者は戦争を始めることができる。意図を持てば世の中を危険な方向に導けるのだから。ユーゴの戦争だってそこから始まった部分がある。」(38頁)なんて重すぎる。

 純然たるサッカーファンの読み物としていえば、オシム監督が選手時代、「ハンカチ1枚分のスペースがあれば3人に囲まれても自在にキープできる」程のドリブルの名手でボールを持ちすぎる、球を離さないと評価されていたという下り(46頁)が一番興味深いかも。それをオシム監督にぶつけて「確かに自分が監督になったら絶対ああいう選手は使わない(笑)。実際に今まで使っていない。やはり選手と監督というのは別のものだ。」(47頁)と答えさせているところが一番笑えますね。


木村元彦 集英社インターナショナル 2005年12月10日発行
コメント (1)
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