伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

感染症列島

2006-08-02 01:36:12 | ノンフィクション
 各種の感染症の現在について、広く浅くおさらいするのに適切な本です。文庫本で手頃ですし。新聞記者が新聞の記事にしないで文庫本に書き下ろすのってどうかなとも思いますけど。

 私たちが子どもの頃、感染症との戦いは、希望に満ちていて、ワクチンと薬でいつか押さえ込めると考えられてきました。子どもの頃は、偉人のトップが野口英世でしたしね。
 でも、天然痘だけは「撲滅宣言」ができたものの、結核は依然としてかなりの新規患者が出るし、エイズとかSARSとか、鳥インフルエンザとか新たな感染症が次々と流行し、最近では感染症対策は簡単でないという状況。
 そういうあたりをコンパクトにまとめていますが、著者の視点は、医師側・行政側一辺倒。そちらサイドしか取材していないんでしょうね。

 SARSもエボラ出血熱も感染源はコウモリが疑われる(97~99頁)なんて書かれていて、こういう記述はマスメディアの手で短絡的な駆除運動につながりそうでイヤな感じがします。
 日本で感染症が減少しないものについては予防接種訴訟での国の敗北と強制接種の廃止がやり玉に挙げられます。予防接種や薬の副作用の話にはほとんど触れられません。
 結核が減少しないのは早期発見されにくいからとされています(131~132頁)が、患者特に高齢者が簡単に医者に行かなくなったことの背景には医療保険の本人負担の増加が影響しているのではないでしょうか。日経にとっては触れたくない論点でしょうけど。
 アステカ文明が滅亡したのが天然痘のせいでコルテスらスペイン人侵略者の残虐行為はまるでなかったかのように(触れられていないだけですが)印象づけられる記述(158~160頁)にもビックリしました。


日本経済新聞科学技術部編 日経ビジネス人文庫 2006年7月1日発行
コメント
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