形之医学・しんそう療方 小石川院長 エッセー

昭和の頃、自然と野遊び、健康と医療のことなど。

葡萄の葉

2012-11-19 15:07:38 | Weblog

両親が使っていた部屋の前の、小さな庭の片隅に葡萄が植えられている。 
もうかれこれ、二十五年近くも前に植えたものだ。 その庭は猫のひたい
よりも小さく、葡萄棚を作る広さもない。 毎年、そばの生垣の山茶花
(サザンカ)に絡みついて四方八方に伸びていく。 

葡萄はその美しい実や葡萄酒のイメージから、繊細な植物だろうと思って
いたが、意外に丈夫なものだ。 葉の枯れる秋の終わりになると、好き放題に
伸びた枝はさっぱりと刈り取られて、地面から曲がって立つ、1メートルほどの
棒みたいにされてしまう。 だがまた次の年には元気に芽を吹き、伸びるのを
くり返している。 この葡萄、ただの一度も実をつけたことがない。 
たわわに実るなんて無関係に、ただただ、明るい緑の葉を茂らせて、
元気に伸び続ける。

葡萄の木は六年前に死んだおふくろの親友で、同じく今はいない、
山形のクニちゃんが苗木を送ってくれたものだ。 オヤジとおふくろは
終戦後、朝鮮で抑留され、その後、帰国して山形の叔父のところに身を寄せていた。 
そのとき、クニちゃんは叔父のところで看護婦さんをしていて知り合った。 
クニちゃんはたいへん素朴で明るく、気取ったことがきらいなおふくろと
ウマがあったようだ。 その後も何十年と手紙のやり取りをしていた。 

今の千葉の家に東京から引っ越してきた年の夏、クニちゃんは旦那さんと
山形から遊びに来てくれた。 おふくろを連れて駅まで迎えに行くと、
向こうのほうから、分厚いレンズの丸いメガネをかけ、カバン2つを肩から
斜めにバッテンに掛けた、くにちゃんが駆け寄ってきた。 七十歳に近い
二人はまるで小学生のように手を取りあい、夏の日差しの中で、
飛び跳ねて再会を喜んだ。 その光景ももう遠い。

 
からだの形は、生命の器 
形之医学・しんそう療方 東京小石川
http://www.shinso-tokyo-koisikawa.com/



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