形之医学・しんそう療方 小石川院長 エッセー

昭和の頃、自然と野遊び、健康と医療のことなど。

ロシア漬け

2013-09-12 13:32:27 | Weblog

小学校の夏休み。 真っ昼間にオヤジは汗をかきながら、
風呂場でロシア漬なるものを作り始めた。 なんでも満州に
いた頃に食べたそうで、その郷愁にかられたらしい。 
ブリキの一斗缶に丸ごとのキュウリを主に、いろんなものを
詰め込んだ。 そしてフタをすると、ハンダ付けで密封し、
床下の涼しいところにしまい込んだ。

それから何週間かたった日曜日、そろそろ漬かった頃だろうと、
いよいよ密封したフタを開けるときがきた。 オヤジが風呂場に
持ち出した一斗缶は、なぜか不気味に膨らんでいた。 
家族も下宿人も興味津々、& 何かイヤな予感がして、
オヤジ以外の全員は、風呂場の入口から一歩下がった。 
一人取り残されたオヤジも、同じことを考えたに違いない。  
へっぴり腰で缶のふちに缶切りを当て、ザクッと切り込みを入れた。 
とたんに、ブシューッという音と同時に、すさまじい匂いと液体が
吹き出し、風呂場にたち込めた。 全員ひっくり返りそうになった。   


形容に困るが、ニンニクと魚を混ぜて腐らせたらあんな匂いに
なるのかもしれない。 その後、恐ろしいキュウリのロシア漬は、
オヤジが腹を下すこともなく、少しのあいだ食べていた。 
ご飯どきに、家族や下宿人にもすすめていたが、誰も手を出さなかった。

大きくなってから、おふくろから聞いた話では、オヤジはロシア漬の
ちゃんとした作り方は知らなかったらしい。 食べた味の記憶から
見当をつけて、一斗缶にキュウリを入れたうえ、ニンニクなど、
いろんなものを放り込んで作ったようだ。 密閉された一斗缶を使うのは、
満州の店で店の人が開けるのを見ていたらしい。

調べてみると、かつてオヤジもいた、満州のハルピンに滞在していた人が、
ロシア漬のことを書いていた。 ロシア漬というのは日本人のあいだで
言われたらしいが、実際はドイツのキュウリのピクルスとほぼ同じだそうだ。 
オヤジは後年になって、ピクルスは食べていた。 だがそれをロシア漬とは
言わなかったのは、あの失敗を思い出していたのかもしれない。 


からだの形は、生命の器
形之医学・しんそう療方 東京小石川
http://www.shinso-tokyo-koisikawa.com/


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2 コメント

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Unknown (ikuko)
2013-09-12 19:21:59
おもしろ~い

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Unknown (じゅんせー)
2013-09-13 16:07:28
おもしろいっていうより、
鼻がモゲそうだった。
返信する

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