伊吹山麓に棲む、もともとの日本人を、朝鮮半島から渡来して、侵略した天皇側からは「蛮族」と呼ぶ。
その一族を制圧に向かった、日本武尊が傷つき、おそらく目潰しにやられて、
高熱のまま辿り着いた、湧水に体を浸したところ、目が醒めた。
それ故、この湧水を「居醒めの泉」と言い、土地の名を「醒ヶ井」と言う。
しかるにパンフレット等にはこうある。「日本武尊が伊吹山の大蛇の毒気に当たった時、
その高熱をこの清水で癒したところ、熱が引いたというゆかりの湧水…」
可憐な梅花藻の花が、水中に揺れる醒ヶ井から南へ一里、渓谷の奥に「醒ヶ井養鱒場」がある。
明治の初期に、ビワ鱒の研究育成の機関として、開設されたのだが、紆余曲折、
今は虹鱒の養殖と並んで、観光地として春の桜、夏の避暑、秋は紅葉の名所として賑わいをみせている。
高校生の頃は土日ともなると、観光バスが何台も連なり、丹生川沿いの狭い道にひしめいたものだが、
今は昔日の面影はない。が、木陰を選んでのんびり歩いていると、
渓流や池面から吹きあがる涼風に、たちまち汗はひき、結構な避暑気分である。
広い場内の最奥に、湧水の源流へと行ける山道があるのだが、今は通行禁止になっている。
生き物である虹鱒の健康のため、細菌の侵入防止をはかっている訳けだが、
一番詩歌が湧いてくる、原始の魅力に富んだ場所だけに、まっこと残念なことではある。