散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

チャペル

2008-09-05 01:34:40 | 思考錯誤


スイス人建築家Peter・Zumtorの作品であるチャペルを見学に行った。
アイフェル地方のMechernich-Wachendorfの野原に立っている。いや建っている。。。
でも。。立っているといってもおかしくない風情だな。

農業家Hermann-Josef Scheidtweiler は信奉する15世紀のスイスの聖人Nikolaus von der Flüeにチャペルを捧げたのである。
彼はZumtorがケルンのKolumbaを手がけるという話を新聞で読み感銘を受け、チャペル建造計画を打ち明け相談をする手紙をすぐさま書いたという。
ZumtorとScheidtweilerはまもなく会見し、意気投合して話は着々と進んだ。

そのチャペルは大きなものではない。
地元周辺の木材、土、金属(鉛)のみを使って立ち上げることにこだわった。
近所の森から伐採したトウヒ(常緑針葉樹)の丸太をティピーの様に円錐形に並べ立て周囲をセメントで囲った後で中に立っている木材を燃やした。それゆえ内壁は波トタンを内側から眺めたような具合になる。焼け焦げた色合いが美しい。
壁面には直径5cmほどの幾つもの透明ガラス球がはめ込まれてひとつの明り取りとなっている。それはまるで夜空の星星のようだ。屋根が無いので雪が降れば降り込み、雨が降れば濡れる。

自然に出来上がったレリーフを下から見上げて行くと空が見える。
まるで深い針葉樹の森の中に立っているかのような印象を覚える。黒い森の中を透明な珠が信仰を乗せてゆっくり天に昇ってゆくかのようだ。

いつか秋も深まった頃、枯れた風景の中のチャペルを見てみたい。
雪の振る日に悴みながら降り込む雪を眺めて見たいと思う。





残念ながら外観写真しか撮ることができなかったが、下のリンク先で内部の写真も見ることができる。

ところで、このチャペルの駐車場でドイツ人男性と日本人女性に出会った。
話せば男性のほうはエッセン・デュイスブルグ大学の地学の教授で日本女性は実業家だという。後にわかったことだが著名な方だったようだ。たくさんの本を書いておられる。78歳ということだったがしゃきっとして頼もしい女性であった。

それはともかく、実は月曜日はチャペル休館で戸は閉まっていたのだが、かの教授は果敢に近所の家を聞き歩きチャペルの持ち主であるScheidtweiler家を探しあて、渋る相手を泣き落としてとうとう鍵を借り出してしまった。
おかげで私達もその恩恵をこうむることができたので、大変ありがたかったのだが、反面休日昼時も客に煩わされる目にあう人々には気の毒なことであった。
すばらしいチャペルを建造する事ができたが、それがあだとなって、信仰巡礼だけではなく建築物巡礼者が次々に押しかけ、特にお金の落としようもない農家以外は何もない村であるから巡礼者はチャペルの周りをうろついては帰って行くばかりで村の人々は迷惑をこうむるばかりだと文句が出ているという話もある。もっとも町も援助はしているらしい。いずれにせよ当分巡礼は後を絶たないことだろう。

聖人Nikolaus von der Flüeは家族(女房と子供10人)を捨てて信仰の道に入り隠遁生活をしたという話である。

チャペルの写真