ガーベラ・ダイアリー

日々の発見&読書記録を気ままにつづっていきます!
本の内容は基本的にネタバレです。気をつけてお読みください。

山田 詠美著 「風味絶佳」 文藝春秋

2007-08-21 | こんな本読みました

初恋の人との恋は成就しない方がいい……ということをある信頼する人の本で読んだことがある。なぜだろう?

……そしてその答えのひとつとして本書(6篇の短編集)所収のひとつ「海の庭」が挙げられるかもしれない。

全編に著者の描写欲をかきたてたという<肉体の技術をなりわいとする人々>(あとがきより)が出てくる。以下が目次。

間食
夕餉
風味絶佳
海の庭
アトリエ
春眠

「海の庭」は年頃の娘から見た、母親とその同級生との関係を描いている。その同級生は作並くんという。母がそう呼ぶ、なので娘も呼ぶ。それを許容してくれるものを作並くんはもっている。それをちゃんとかぎとる娘。作並くんは引越し業者であり、仕事に対するときは動きに無駄が無いのに、それ以外は無頓着なところがある。

母親と作並くんは30数年ぶりに再会する。現在母親は離婚し、作並くんは独身。二人のあいだに流れるつかみどころのない雰囲気を察知し、観察する娘。そして、二人はむかし魅かれあっていたことを知る。

<「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」
 その言葉に、私の方が照れた。今まで首を傾げて傍観していた二人の様子が、鮮明に色を変えて脳裏に浮かび上がって来た。そうだったのか、と腑に落ちた。二人は、子供の純粋さを取り戻そうとしていたのではなく、大人の淫靡さをつくりあげようとしていたのか。思い出って、そんなことに使えるものなの?いやらしい、と思った。そして、唐突に、つき合ったことのある男の子たちを思い出した。裸になって、あの子たちとしたこと、あの子たちの体のパーツ、その動き。作並くんと母に比べたら、いやらしさなんんて欠片もない。そして、それは、なんと退屈に終わりを迎えたことだろう。> 


初恋の人と結婚してしまった……というのは、一種の悲劇かもしれない(笑)。なぜなら幻想をいだき続けられないから。純粋な思いだけを残して別れ、数年後に再会する。そういうたのしみが得られないから。思い出というのは、何度も反芻されるうちに自分の都合のいいように書き換えられていくものだと思うから。

…あ。だから再会しないほうがさらにいいのかもしれない(笑)。
……などということはともかく……(汗)。

母と作並くんとの関係は庭に象徴され、娘(日向)と作並くんとの関係は海に象徴される。

そして、作並くんへの思いを通して、今まで<あがいたって無駄な><何か大きなものによって人間関係は動かされている。私たちにはかなわない力強いものに>とある意味諦めることによって傷つくことをおそれていた日向が、<与えられるのが、あらかじめ決まっていたとは、もう思わない。庭も海も、その人だけが作るものなのだ。塩辛さも甘さも自分で味つけをする自由がある>というように変化する。

日向は本文最後にこんなことを言う。
<私には、太平洋につながるでっかい庭がある。それなのに、やり直すべき初恋は、もはや、ない。>

残念なことに日向にはやり直す初恋はないかもしれない。が、作並くんへの思いはもしかしたら反芻できるものになるかもしれない。。。と思った。

最後に収められている「春眠」。これは家族について考えさせられた。

大学生の章造が、好意をよせている同級生の女の子を何度か家に連れてくる。自分の知らないうちに、その子(弥生)と自分の父親がつきあい、近々結婚するという。……ものすごい設定なのだが(笑)。

章造の母親は彼が中学の頃に他界。妹がひとりいる。

なぜ、弥生が父親に魅かれたのか。ぬくぬくのんびり生きたいと願う彼女は、心臓が弱かった。だからなのか……?

章造は、父親が弥生と腑抜けたようになかよくする姿を見て、父が変わってしまった…と言っているが、実はそうではないのではないか。彼が見てきたのは母親によって作られてきた<偉い父親像>なのではなかったか。章造がかつて見てきた父親は母親の目を通してなのかもしれない。方言をつかう父親に驚いているという描写からそう感じとれる。それは母親のなみだぐましい努力の上に立ったものである。

……むしろ、父親の実像をよくとらえているのは、妹であり弥生であるのだろう。

妹は同性であるがゆえに、母親の父親への思いを敏感に感じとっていたのではないか。<斎場総合メンテナンスを謳う会社ー火葬の業務委託を受ける>仕事に従事する父親に対する思いをー。

そして、弥生はといえばー。
<兄がひとりと姉が二人いる。末っ子だ。両親の他に、寝たきりの祖父とまだまだ健在な祖母もいる。兄嫁もいて二世帯住宅にすんでいるが、いつも全員で団欒の時を過ごしているという。兄の妻は妊娠していて、今年じゅうに、またひとり家族が増える>という、大家族。すごくにぎやか。うるさいくらいだという。

弥生は、家族というもののいいところも悪いところも知り尽くしていたのかもしれない。家族というのは、人間観察の宝庫でもあるからー。

著者があとがきで書いているように、肉体の技術を持った男性たちに愛情をもって描いていることが伝わってくる作品群だった。

 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
キャラメルのような (つな)
2007-08-22 22:34:57
ねっとり蕩けるあまーい物語でしたね。
しっとり落ち着いたような気がするけれど、やっぱり詠美さんだなぁ、と思ったのでした。
*トラバいたしました~。
返信する
そうそう! (ガーベラ)
2007-08-23 00:08:09
>つなちゃん
コメント&トラバどうもありがとー!(す、すばやい!笑)。

第一話から甘かったですね!(雄太のキャラはきらいではなかった。笑)
久しぶりに詠美さんの本を読んだので新鮮でした!
…でも。純粋にラブ・ストーリーと読めない自分がちょっと悲しくもあり(笑)
返信する

コメントを投稿