ガーベラ・ダイアリー

日々の発見&読書記録を気ままにつづっていきます!
本の内容は基本的にネタバレです。気をつけてお読みください。

辻 邦生著 「言葉の箱」 メタローグ

2007-03-14 | こんな本読みました

むかし仏文学者というものにあこがれていたことがある。自分がそうなりたいというわけではなくただもうバクゼンと……(笑)。単なるミーハーとも言いますが(汗)。

そのなかのひとりに今は亡き辻邦生氏がいる。ナカムラシンイチロウ、ナカムラミツオ、アキヤマシュン氏らと並んで。。。(プルーストもその中に入るのだがまだ彼の作品は読み通せていない。いつになるのか?汗)。氏の小説は読んだことがあったが、このようなエッセイを読むのは初めて。サブタイトルに<小説を書くということ>とある。

本書を読むと、氏の小説に対する考え方を知ることができとても興味深かった。以下が目次。

Ⅰ 小説の魅力…………in love with  生命のシンボルに触れる
小説を書く根拠/<ぼくの世界>/「言葉」と「想像力」/生命のシンボル/上にいく力と下にいく力

Ⅱ 小説における言葉………Fact+Feelinng 言葉によって世界をつくる
小説は言葉の箱/心のなかを無にする/夏目漱石の『文学論』/物語(ストーリー)の原型/キャラクターとディテール

Ⅲ 小説とは何か…………evenement ある出来事をつくる
出来事をどう伝えるか/出来事とは何か/フィクションの意識/詩と根本観念と言葉/ピアニストがピアノを弾くように 

あとがきにかえて

※註…evenementのはじめの2つの「e」の上に「´」を付けてください(フランス語です)。(←ガーベラによる註)。

<あなた方が、いちばん小説を書いてみたいと思うようなとき、自分が経験したいちばん大変なこと、たとえば、愛していた人が死んでしまったとか、、、自分の身辺における最重要事であるような出来事を、ともかく書くことによって、そこから自分が抜け出そうというようなことがかなり多い。多くの人たちは最初は自分の身辺のことから書き始めると思いますが、それを読んだときに、非常に優れた文学作品として読者の胸を打つためには、その小説を書いた人が経験した事柄と事件との間に、ある切断が生まれていないとダメなんです。>

「ある切断」が必要と著者は述べているが、私も「渦中」にいるときはそのことについて「書く」と支離滅裂になる。客観的になれないからであろう。そういうのは小説とは呼べないということなのであろう。渦中にいるときに「書く」という行為をすると、支離滅裂だった自分の考えが徐々に整理される……というのが個人的に思うことである。

<小説における記述は現実に所属していない。われわれの夢想、想像力、内面の世界にのみ結びついて、それを外に表すものだということを、まず考えてください。これはすごくすごく大事なことで、言葉というと、すぐ記号だとかいいますけれども、そうではない。言葉というのは、われわれが心のなかに思っている世界を現実のものにしてくれる、いわば素材あるいは手段なんです。つまり、本当のものをつくり出す手段です。>

……本当のものをつくり出す「手段」としての「言葉」。まだ実感できないが、「言葉」というものを考えるうえでいい視点を得たと思う。「言葉の箱」に自分の経験で得たものを入れていくと力強い文章ができるということも述べられていた。自分が「実感」したことを大切にしていくことが書く上では肝要なのだと思った。