金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

GDP連動債構想、日本ならどうなる?

2009年12月28日 | 社会・経済

ニューヨーク・タイムズにエール大学のロバート・シラー教授が「国の成長を分け合う方法」A Way to share in a natiion's growthという小文を寄稿していた。シラー教授は米国の住宅価格指数ですっかり有名になった人だ。

同教授は「企業は負債と株式という方法で資金調達をする。株式は投資家に将来の利益の分け前を与えることを内包している」と書き出す。そして国も株式の概念を借用して、GDPで測定した「国の利益」を配分するような資金調達方法を考えることができるのではないか?と主張する。

同教授はこの資金調達手段に「トリルス」Trillsと名前を付けている。これはtrillionth(兆分の1)の略称だ。なお余談ながらtrillには(鳥などの)さえずりという意味があるが、命名に関係しているのかどうかは分からない。

シラー教授は「各々のトリルはその国の名目GDPの『兆分の1』を表す永久債で、四半期毎にその国のGDPの兆分の1が支払われる」と説明する。米国を例にとって説明すると1トリルの年間配当額は、年間GDP約14兆ドルの兆分の1だから、14ドルとなる。同教授はこの1トリルの価格は市場で決められるが、1,400ドルかそれ以上だろうと想像している。

つまり「GDPに配当が連動する永久国債の価格はどれ位か?」という問題だが、シラー教授は「S&P500株式指数の配当利回りは2.3%だから、トリルの配当利回りはもっと低くて良いはずだ。何故なら株式指数の配当の伸び率とGDPの成長率では後者の方がはるかに高い。実際1957年からの実質ベースで比較を行うとGDPの成長率は3.1%で配当の伸び率は1.1%だった」と述べている。

最後にシラー教授は「トリルのような提案は過去にいくつもあったけれど、無視されてきた。だが現在の環境はよりGDP連動債に適しているのではないか」と締めくくっている。

☆    ☆    ☆

日本でこのようなGDP連動債構想があるときいたことはない。しかし先進国の中で国債依存度が一番高い国だけに傾聴するべき提案かもしれない。

しかし問題は日本の名目GDPが下落していることだ。2008年年度の名目GDPは前年比4.1%減少して494兆円。デフレ傾向が続くと名目GDPの伸びは期待できないから、日本のトリルの価格は成長率の高い国のトリルより安くなる。政府がトリルの価格に注意を払うようになると、デフレ対策として有効な政策が打出されるかもしれない。

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干し柿ができた

2009年12月26日 | うんちく・小ネタ

12月5日に干し始めた干し柿ができた。

Hosigaki

小さな柿でタネが多いが自分で作った柿は美味しい。

今日の読売新聞に載っていたが、渋柿の方が甘柿より糖分は多く甘いそうだ。ただし生の渋柿はタンニンが多いのでタンニンの渋みが甘みに勝っているので渋く感じる。渋柿は干すことでタンニンの作用が減り、甘く感じるようになる。教訓めいた話である。人も最初から丸くて、組織に簡単に受け入れられる人物より、癖や渋みがあり溶け込みは遅い位の人物の方が良い仕事をする例を私は幾つか見ている。

そんなことを思い出しながら手作りの柿を2,3個食べた。それしにてもタネが多い。来年はもっと大きな渋柿を探したいと思う。

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投資家はアナリストの予想を無視する

2009年12月24日 | 株式

23日付のFTに「投資家はアナリストの業績予想を無視する」という短い記事がでていた。Tulane大学のHansen教授などの研究は、1997年から2007年の間に四半期ベースおよびより長期の業績予想の変更が発表された後、株式市場がどう動いたかを分析したものだが、アナリストの業績予想の変更は投資家の銘柄選択にほとんど影響を与えなかったことを明らかにした。

Hansen教授はその原因について「我々の見解では業績予想は株式について市場に新しい情報を提供するものではない。それは恐らく重要な情報だろうが・・・既に株価に織り込まれているだろう」と述べている。この研究結果は「効率的市場仮説」特に「セミストロング型効率的市場仮説」の考え方に一致するものだ。「効率的市場仮説」は「仮説」という言葉が示すとおり、有意性は必ずしも実証されなかったが、このような研究が積み重なると「仮説」が仮説でなくなる日が来るかもしれない。

FTによるとこの研究に対して証券会社の何人かのリサーチ部門のトップはコメントを公表することを差し控えている。しかしあるアナリストは「アナリストは違った方法で付加価値を提供しているし、短期間に株価を動かすことはアナリストの主な目標ではない」と述べている。

☆    ☆     ☆

少し実例を見てみよう。たまたまネット経由で本日JPモルガン・アセット・マネジメントが運用するJFアジア株・アクティブ・オープンというファンドの運用報告書が送られてきたが、このファンドの運用実績(5月から11月の期中騰落率)は23.2%で、ベンチマークのMSCIオール・カントリー・ファーイースト・インデックスの実績と全く同じだった。過去2年ほどの騰落率を見てもベンチマークとほとんど変わらないのである。このファンドはモーニングスターで☆2つと評価が高くないファンドなので、この一事をもって「アクティブ・ファンドのパフォーマンスは市場平均並である」と断言することは危険だ。しかし「将来高いパフォーマンスを上げるファンドをピックアップすることは幸運の賜物」と考えると、インデックス運用が当たり外れのない運用方法であることは間違いない。

幸運の賜物といえば、2年程前インドのIT大手企業・インフォシスのADRを買っていたことはラッキーだった。インフォシスのパフォーマンスをダウと比較すると、この1年でダウが22.8%上昇したのに対し、インフォシスは122%上昇した。過去5年で較べるとダウは▲3.23%なのに較べてインフォシスは63.6%上昇している。

ところで1年前のこの銘柄に対するアナリストの推奨はどうかということを調べると、33人のアナリストの内15人が「買い」、7名が「アウトパフォーム」、5名が「保有」という判断を下していた。少なくとも3分の2のアナリストが「市場平均を上回る」と判断を下していた訳だ。

これを見る限りアナリスト集団全体の意見を聞くのも悪くない・・・という気はしてくる。もっとも逆の場合もあるのだが・・・

いずれにせよ個人が限られた資金と時間の中で市場を上回る運用成果を上げることは幸運の賜物程度に考えておく方が良いと私は考えている。

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ヘッジファンドは金利上昇に賭ける

2009年12月23日 | 金融

FTによると高いパフォーマンスをあげている幾つかのヘッジファンドが米国の金利上昇に賭けている。今世紀の初めサブプライムローンの下落に賭けて大きな利益をあげたポールソン氏~330億ドルの預かり資産を持っている~は、政府の景気刺激策はインフレを招き、インフレは金利の上昇を招くとして、金利が上昇すると儲かるオプションを買っている。

またヘッジファンド・マネージャーのジュリアン・ロバートソン氏はイールドカーブのステープニング、つまり長短金利差の拡大に賭けている。長期金利の上昇の方が短期金利の上昇より大きいと見ている訳だ。だがアウトライトの米国債のショートポジションを取るファンドマネージャーは多くないようだ。というのは連銀が国債市場に深く関与していて、国債相場が軟化すると介入する可能性を感じているからだ。

そこでオプション・プレミアムの安いアウト・オブ・ザ・マネーのオプションを買っているファンドジャーもいるが、国債金利がそこまで跳ね上がるかどうか分からない。

債券トレーダーが神経質になる理由の一つは彼等が90年代の日本の国債市場で、金利上昇を予測して国債のショートポジションを作ったところろ金利が下落を続け、大きな損失を出した苦い経験があるからだ。

今回の日米の金利見通しについて私見を述べると、米国の金利は上昇基調だが、日本の政策金利は来年一杯から再来年中頃まではデフレ懸念から据え置き。日本の長期金利は1.2%から1.6%のレンジで振れるが、資金需要が極めて弱いこととデフレ圧力で実質金利が高止まりすることから、このレンジを越えて上昇する可能性は極めて薄いと見ている。

この相場観が正しいとすると、円ドル為替はドル高に振れる可能性が大きい。暫くは米ドルロングの円ショートというのが中核戦略になるだろう。

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米国、雇用は増えても中身は派遣

2009年12月22日 | 社会・経済

今日(12月22日)の日経新聞朝刊は社説の中で「労働者派遣法の改正は与野党3党のマニフェストに沿って、派遣という働き方を原則として禁じる方向になった。・・・・・このまま法改正が進めば派遣で働いている多くの人たちが、かえって困るだろう。・・・景気の下支えに手を打っていかなければならないときに、雇用を増やすどころか、減らす恐れのある規制強化を始めようとしていることに、強い違和感をおぼえる。」と政府の労働者派遣法の改正案に強い警鐘を鳴らしている。私はこの意見に賛同しているが、その根拠は後ほど述べるとして、まずニューヨーク・タイムズに出ていた最新の米国の雇用事情を紹介してみたい。

我々は米国の雇用統計を景気判断の指標として見ているが、失業率が○○%上昇したとか、新規雇用保険申請者数が何人増えたなどという数字面に目を奪われ勝ちだ。だが問題は新規雇用の中身つまり新規に採用された人が臨時雇用者(契約社員等)なのか正社員なのかという点だ。

米国の労働省が発表している月次雇用統計は、一部の例外はあるものの、正規社員の雇用と臨時社員の雇用を区別していない。(タイムズによると、マンパワー社、ケリーサービス、アデコなどの派遣社員については特別のカテゴリーがあるとのこと)

タイムズによると先月5万2千人が臨時雇用者として採用された。その数は正規社員の採用数を上回っている。

臨時雇用者の採用が増えていることは、米国では労働市場の改善の先行指標と考えられてきた。1990年代と2001年のリセッションの後では、臨時雇用者の数が増え始めた2,3ヶ月後には正規社員の雇用が増えている。だが今回は企業側の対応は鈍い。臨時雇用者の数が増え始めて4ヶ月になるが、正社員を増やすことに企業側は慎重だ。まだ景気回復が本物かどうか判断できないからだ。

これから暫くは米国の新規採用の中身に注目したいと思っている。

☆   ☆   ☆

ところで日本で労働者派遣法の改正を行い、製造業への派遣などを禁止すると何がおきるだろうか?企業側は景気の回復が本格化し、受注残が確実に積み上がるまで、正社員を増やすよりは、既存社員の残業や休日出勤を増やすことで対応する。このことは既存社員の労働強化につながり、過度の労働強化は健康悪化を引き起こし、最悪の場合は過労死にまでつながる。

つまり既存社員の労働強化を防止するような施策と一体になっていない派遣法の改正は、派遣社員のプラスにならないばかりか、既存社員の健康にも大きな問題を及ぼすのである。

もしこのまま法改正が進むと日本には、朝から晩まで働かされ余暇を楽しむ暇のない社員のグループと、時間はあるが働く機会のないグループという極端な二つの集団が存在することになる。

これを防ぐために私は次の施策を並行して行うことが必要だと考えている。

  • 現行派遣法の継続
  • 残業代の引き上げ(割増率を引き上げ、残業を抑制することで雇用が増える)
  • 最低賃金の引き上げ

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