ニューヨーク・タイムズにエール大学のロバート・シラー教授が「国の成長を分け合う方法」A Way to share in a natiion's growthという小文を寄稿していた。シラー教授は米国の住宅価格指数ですっかり有名になった人だ。
同教授は「企業は負債と株式という方法で資金調達をする。株式は投資家に将来の利益の分け前を与えることを内包している」と書き出す。そして国も株式の概念を借用して、GDPで測定した「国の利益」を配分するような資金調達方法を考えることができるのではないか?と主張する。
同教授はこの資金調達手段に「トリルス」Trillsと名前を付けている。これはtrillionth(兆分の1)の略称だ。なお余談ながらtrillには(鳥などの)さえずりという意味があるが、命名に関係しているのかどうかは分からない。
シラー教授は「各々のトリルはその国の名目GDPの『兆分の1』を表す永久債で、四半期毎にその国のGDPの兆分の1が支払われる」と説明する。米国を例にとって説明すると1トリルの年間配当額は、年間GDP約14兆ドルの兆分の1だから、14ドルとなる。同教授はこの1トリルの価格は市場で決められるが、1,400ドルかそれ以上だろうと想像している。
つまり「GDPに配当が連動する永久国債の価格はどれ位か?」という問題だが、シラー教授は「S&P500株式指数の配当利回りは2.3%だから、トリルの配当利回りはもっと低くて良いはずだ。何故なら株式指数の配当の伸び率とGDPの成長率では後者の方がはるかに高い。実際1957年からの実質ベースで比較を行うとGDPの成長率は3.1%で配当の伸び率は1.1%だった」と述べている。
最後にシラー教授は「トリルのような提案は過去にいくつもあったけれど、無視されてきた。だが現在の環境はよりGDP連動債に適しているのではないか」と締めくくっている。
☆ ☆ ☆
日本でこのようなGDP連動債構想があるときいたことはない。しかし先進国の中で国債依存度が一番高い国だけに傾聴するべき提案かもしれない。
しかし問題は日本の名目GDPが下落していることだ。2008年年度の名目GDPは前年比4.1%減少して494兆円。デフレ傾向が続くと名目GDPの伸びは期待できないから、日本のトリルの価格は成長率の高い国のトリルより安くなる。政府がトリルの価格に注意を払うようになると、デフレ対策として有効な政策が打出されるかもしれない。