金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

トヨタとスズキ~自動車業界の未来は?

2009年12月11日 | 社会・経済

雑誌や新聞の一つ一つの記事は「ある事実」を伝える。しかし幾つかのある事実をつないで読む時潮流が見えてくる。優れた雑誌とはそのような構成をとるものなのだろう。今週のエコノミスト誌に別々の記事で「トヨタ」と「スズキ」の話が載っていた。二つの記事をつないで読む時自動車業界の将来が見える。さらに思いをめぐらせるとこれからのどのような企業が伸びるかがぼんやりと見える。

記事「苦闘する巨人・トヨタのつまづき」は「トヨタはGMを抜いて世界一の自動車メーカーになって2年もたたない内に、豊田社長は『トヨタは下降の悪循環に閉じ込められた可能性がある』と述べた」と書き出す。

競争相手のフォルクスワーゲンやヒュンダイ自動車の傷が相対的に浅い中、トヨタは日本以外の世界中の市場でシェアを落とすか横ばいの状態だ。一番大きくかつ利益の上がる北米市場でトヨタはリコール問題に苦しんでいる。一方中国、インド、ブラジルというこれからの成長市場でトヨタは出遅れている。ハイブリッドで先行したトヨタだが、ここにきて他の大手自動車メーカーが低排ガス車や排ガスゼロ(つまり電気自動車)で急追している。

豊田社長の警告は一部はジム・コリンズの“How the Mighty Fall”の影響を受けている。

ジム・コリンズは「ビジョナリーカンパニー」の著者だ。彼は「ビジョナリーカンパニー」で成長が持続する偉大な会社の秘訣を明らかにしたが、“How the Mighty Fall”(邦訳は出ていないが「どうして巨大企業は失墜するか」という意味)では、成功した企業が何故失敗するかを明らかにしている。私はまだこの本を読んでおらず今アマゾンに発注したところ(2千円程度)だが、書評からポイントを紹介すると次のようなことだ。

コリンズによると会社は5つの段階を経て失敗する。第1が「成功が慢心を生む」段階、第2が「規律なき拡大の追及」段階、第3が「リスクの否定」段階、第4が「救済手段としての新規事業の展開」段階、第5が「すがった救済手段の失敗」段階だ。

エコノミスト誌によると豊田社長は「トヨタは既に第4の段階にいるかもしれない」と認めている。

コリンズはこの段階の企業の運命はまだ企業の中にある。しかししばしば企業は次から次と「特効薬」を求める戦略を取ることで逆に寿命を縮めると警告する。その「特効薬」というのは例えばビジネスを転換するための「大型買収」であり、リストラを続けることであり、まず最初にその会社が何故偉大な会社になったかを理解していない観念的な経営者を外部から招聘することである。これらの「特効薬」は往々にして失敗する。

そしてコリンズは「古いスタイルの経営」~プレッシャーの中での冷静な意思決定とか実証に基く慎重な意思決定など~を推奨している。

なおエコノミスト誌のトヨタに対する見方はポジティブだ。何故なら「問題点の洗い出しが始まっていて、豊田社長のアプローチは観念的でなく、シンプルで漸進的で丹念に顧客が何を求めているかを追求している」からだ。そして同誌はトヨタはもっとエキサイティングで革新的な車を作る必要があると述べている。

フォルクスワーゲンがスズキの株式19.9%を25億ドルで取得することを決めたニュースは耳目に新しいので詳細は省略するが、これはGMが中国のSAICとジョイントベンチャーを組んでインドの自動車市場で販売を拡大する戦略と同じ潮流の中でとらえることができる。

スズキ(マルチ・スズキ)はインドで4割のシェアを持つ他、パキスタンとインドネシアで強いプレゼンスを持っている。フォルクスワーゲンは中国市場のリーダーであり、ブラジルでは約4分の1のシェアを持つ。

鈴木会長は否定しているがもしスズキがフォルクスワーゲンの11番目のブランドになると、フォルクスワーゲンにとってトヨタを抜いて世界一の自動車メーカーになるという野望も視野に入ってくる。

果たしてそうなるか?それともトヨタが世界一の地位を死守するか?興味深い問題である。

トヨタが復活するとコリンズは今度は「復活した巨人」という本でも書くのだろうか?これもまた次の興味深いテーマである。

コメント (1)
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