金融そして時々山

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米国、雇用は増えても中身は派遣

2009年12月22日 | 社会・経済

今日(12月22日)の日経新聞朝刊は社説の中で「労働者派遣法の改正は与野党3党のマニフェストに沿って、派遣という働き方を原則として禁じる方向になった。・・・・・このまま法改正が進めば派遣で働いている多くの人たちが、かえって困るだろう。・・・景気の下支えに手を打っていかなければならないときに、雇用を増やすどころか、減らす恐れのある規制強化を始めようとしていることに、強い違和感をおぼえる。」と政府の労働者派遣法の改正案に強い警鐘を鳴らしている。私はこの意見に賛同しているが、その根拠は後ほど述べるとして、まずニューヨーク・タイムズに出ていた最新の米国の雇用事情を紹介してみたい。

我々は米国の雇用統計を景気判断の指標として見ているが、失業率が○○%上昇したとか、新規雇用保険申請者数が何人増えたなどという数字面に目を奪われ勝ちだ。だが問題は新規雇用の中身つまり新規に採用された人が臨時雇用者(契約社員等)なのか正社員なのかという点だ。

米国の労働省が発表している月次雇用統計は、一部の例外はあるものの、正規社員の雇用と臨時社員の雇用を区別していない。(タイムズによると、マンパワー社、ケリーサービス、アデコなどの派遣社員については特別のカテゴリーがあるとのこと)

タイムズによると先月5万2千人が臨時雇用者として採用された。その数は正規社員の採用数を上回っている。

臨時雇用者の採用が増えていることは、米国では労働市場の改善の先行指標と考えられてきた。1990年代と2001年のリセッションの後では、臨時雇用者の数が増え始めた2,3ヶ月後には正規社員の雇用が増えている。だが今回は企業側の対応は鈍い。臨時雇用者の数が増え始めて4ヶ月になるが、正社員を増やすことに企業側は慎重だ。まだ景気回復が本物かどうか判断できないからだ。

これから暫くは米国の新規採用の中身に注目したいと思っている。

☆   ☆   ☆

ところで日本で労働者派遣法の改正を行い、製造業への派遣などを禁止すると何がおきるだろうか?企業側は景気の回復が本格化し、受注残が確実に積み上がるまで、正社員を増やすよりは、既存社員の残業や休日出勤を増やすことで対応する。このことは既存社員の労働強化につながり、過度の労働強化は健康悪化を引き起こし、最悪の場合は過労死にまでつながる。

つまり既存社員の労働強化を防止するような施策と一体になっていない派遣法の改正は、派遣社員のプラスにならないばかりか、既存社員の健康にも大きな問題を及ぼすのである。

もしこのまま法改正が進むと日本には、朝から晩まで働かされ余暇を楽しむ暇のない社員のグループと、時間はあるが働く機会のないグループという極端な二つの集団が存在することになる。

これを防ぐために私は次の施策を並行して行うことが必要だと考えている。

  • 現行派遣法の継続
  • 残業代の引き上げ(割増率を引き上げ、残業を抑制することで雇用が増える)
  • 最低賃金の引き上げ

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1 コメント

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労働時間などを基準に正社員の比率を算出して、法... (かざしも)
2009-12-22 16:43:34
労働時間などを基準に正社員の比率を算出して、法人税率と反比例させてはどうでしょうか、雇用の安定に貢献すると優遇される訳です。国際競争力を維持する為の負担を全て企業に求めれば海外進出は加速し雇用は消失、かといって労働者に負担を押し付ける仕組みでは国民のストレスは量り知れず、消費だけではなく治安も健康も悪くなるばかりです。もう国民が幸せになれる可能性は焼け太りした政府が身を削る方法しか残されていないのではないでしょうか、民主党に魔法使いが居れば別ですが。
正規雇用が財務にプラスの効果をもたらすとなれば、犬猿の仲であった労働者と株主の利害が一致し、ここでも少し平和になれます。
極々一部の人間の利権は減ってしまいますが、補助金などより減税の方が資金の自由度は高まり、民間レベルでのキャッシュフローはより活性化するのではないかと思います。
政治家は大企業や銀行を恫喝している場合ではなく、銀行が安心して融資を増やせるよう国民一人々々の信用力を高める努力をすべきと思います。雇用環境に安定感がなければ内需の活性化など土台無理で、いつまで経っても極端な輸出依存型経済が続くのではないでしょうか。
錦の御旗のように中小企業保護を訴える政治家がいますが、派遣を禁止するのであれば、派遣社員だらけの中小企業だって存在するでしょうし、事業規模の大小に関わらず守るべきは雇用の安定であって、基準が間違っているのではないかと思いました。
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