金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日経、ちょっと気になる投信記事

2007年08月23日 | 金融

本日(8月23日)の日経朝刊が金融機関の投信販売に対する顧客の不満をまとめて記事にしていた。顧客の最大の不満は「販売手数料の高さ」で二番目が「購入後の情報提供の少なさ」である。三番目は「リスクの説明が不十分」ということだ。気になるのはその記事の中で「先週後半から投信の販売会社には『円高はどこまで進むのか』『株価下落はどこで止まるのか』との問い合わせが相次いだ」と出ていることだ。顧客からの照会が多いのは事実だろうが、この様な質問に販売会社が断定的な回答が出来ないこともキチンと説明しておいた方が良いだろう。そもそも将来の為替や株価について誰もどうなると断言できないし、法律でも断定的判断を与えることは禁止されている。

金融商品取引法第38条2項は「顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為」を禁止している。従って先程日経新聞に出ていたような質問に販売会社が断定的な答を出すことはない。

ところで余談になるが、上で引用した条文は第一法規㈱のサイトで見たものだ。同サイトでは無料の会員登録を受け付けており、会員になると法令の全文を閲覧することができる。便利な世の中になったものだ。

投信の話に戻ると高い販売手数料を取る銀行や証券会社は「資産形成やリスク説明の費用」と言っている。それはそのとおりで否定はしないが、そもそもリスクについて投資上の意味のある説明ができるかどうかという点について疑問はある。リスクとは想定したリターンからの乖離度で標準偏差等で表すが、今般のサブプライム危機の時には過去のデータをベースにした絶対安全圏を突き抜けるような事象が頻発した。リスクとはそれ程コントロールしにくいし、また一般顧客には理解し難いものだろう。

そうであれば高い金を払って説明を受けるよりは、販売手数料のかからない直販ファンドを買うという投資行動にも合理性はあるかもしれない。投信において確かなことは収益は不確実だが、手数料は確実に取られるということだからだ。

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そろそろ動き出す底値買い

2007年08月23日 | 金融

サブプライム問題に起因する流動性危機が一息付きそうになって、ボトムフィッシャーの動きが目立ってきた。私は競馬はやらないので詳しくないが、ボトムフィッシャーというば日本では有名な競馬馬らしい。しかしここでいうボトムフィッシャーは競馬馬ではなく、株式市場が大きく崩れた時底値で株を買う人のこと。Bottom fisherである。

ファイナンシャルタイムズによると、米国第二位の銀行バンクオブアメリカが、サブプライムローン問題で苦しんでいるカントリーワイド・ファイナンシャル(CW)に20億ドルの優先株を出資する計画だ。この優先株は一株18ドルで普通株式に転換できる(現在のCWの株価は21.82ドル)。また20億ドルという出資額は、CWの時価総額の16%に相当する。もっとも流動性危機が発生する前から住宅ローンビジネスの拡大を狙うバンクオブアメリカがCWに買収またはジョイントベンチャーの話を行っていた様だ。

これは数日前のテレビ東京の朝の番組で見たのだが、米国の著名な投資家ウオレン・バフェット氏がバンクオブアメリカの株を購入したと報じていた。2つの話につながりがあるのかどうかは分からないが、プロの投資家達が底値買いに入ってくる気配はある。

クレディ・スイスは「今回の金融危機は流動性の危機であり、経済の危機や株式のバリュエーションの危機ではない。だから底値買いのチャンスがある」と言っている。証券会社の人はセールストークが上手いがひょっとするとボトムフィッシュのチャンスかもしれない。

まずは米国のプロがどう動くが見てみるのが良いかもしれない。問題は彼等が成功したことが分かった時は既に買い時は過ぎているということだが。

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【市塵】藤沢小説の一つの頂点

2007年08月22日 | 本と雑誌

暑い週末に藤沢周平の「市塵」(しじん)を読んだ。「市塵」は江戸中期の儒者にして幕府の政治顧問を務めた新井白石を主人公とした歴史小説で、藤沢はこの小説で芸術選奨文化大臣賞を受賞している。私は藤沢周平の小説の中で「市塵」を一方の頂点だと考えている。そしてもう一つの頂点は何か?というと「蝉しぐれ」ということになるだろう。

「蝉しぐれ」はテレビドラマや映画になっている様に、淡い恋愛や斬り合いの場面が多く一般受けする。一方「市塵」は地味で一般受けはしないかもしれない。しかし「市塵」を読むと「随分調べているなぁ」「もとでがかかっているなぁ」という印象を受ける。

藤沢周平は「書斎のことなど」というエッセーの中で「(小説を書くには)高い本を買ったり旅行をしたりという、もとでがかかる。もとでのかからない小説は、さほどよくないのである」と書いているが、「市塵」はまさにもとでのかかっている小説である。そのことは巻末の参考文献リストを見ると分かる。

さて私が何故「市塵」に深い感銘を覚えるかというと、新井白石の人生の中に現在にも共通する人生の哀歓を見出すからだ。仕えていた堀田家の財政事情から勤めを辞めた白石は37歳の時に「侍講」(お抱え学者)として甲府綱豊に仕えた。甲府綱豊は後に五代将軍綱吉の後を襲い六代将軍家宣となる。

新井白石はこの家宣の下で側用人・間部詮房とともに綱吉時代の悪政を改めるべく色々な改革を進めていく。それは生類憐みの令の廃止であり、貨幣改鋳であり、朝鮮通信使との対等外交の推進であった。おのれを知り任せてくれる上司に出会えた喜び・・・・学者にとどまることよりも学問を実践に生かすことに重きを置いた白石にとって家宣との出会い程幸いなことはなかったろう。

しかし良い日は長続きしない。将軍の座について3年で家宣は死を迎える。死を覚悟した家宣が間部詮房を通じて、白石に自分の後継者問題を諮問する。このシーンが「市塵」の中で最もドラマティックな場面だろう。

・・・こみ上げて来たのは、お上はもはや死を覚悟しておられるという思いだった。答え終わってはじめて、白石は今日の問答がことごとく、家宣の死を前提にしたものだったことに気づいている。白石は袴の膝をつかんで、涙を流しつづけた。(「市塵」)

家宣の後は幼い家継が後を継ぐが、詮房・白石の勢力は次第に力を失い数年後家継が死に吉宗が八代将軍になった時彼等は失脚する。失脚後白石は学者に戻り、いくつかの著書を残す。「市塵」は最後はこうだ。

(白石は)命がようやく枯渇しかけているのを感じていたが、「史疑」を書き上げないうちは死ぬわけにはいかぬと思った。行燈(あんどん)の灯が、白髪蒼顔の、疲れて幽鬼のような相貌になった老人を照らしていた。

「市塵」は甘い小説ではない。しかし男というものがこの世で何かをなし、そして失望しそれでもなお何かをなそうと死の間際まで前向きに生き続ける姿を描いたという点で心を打つ小説であり、藤沢文学のひとつの頂点である。

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サブプライムで為替はどちらへ?

2007年08月22日 | 金融

8月22日午前ドル円為替レートは114円前半である。輸出企業の社内レートなどからみて座り心地の良さそうなレベルだが、これから相場はどちらに向くのだろうか?それが確実に分かれば苦労はしない。しかし市場参加者の思考方法を読むことである程度の推測はできそうだ。

まず安い円を借りて金利の高い資産に投資する「キャリートレード」を行っているヘッジファンドの動向だ。ファイナンシャルタイムズによると米国のある大手ヘッジファンドのパートナーは「ヘッジファンドはパニックに陥っている」と言い、ボラティリティが高い為替リスクを取ってキャリートレードを行わない意向を示している。

もう一つ見ておくべきことは、円の借入金利が上昇していることだ。月曜日にロンドン・インターバンク市場で3ヶ月の円の貸出金利は10bp上昇して1.0175%になった。これは12年振りの高水準だ。これはドルの変わりに円を調達しようとする動きのため金利上昇圧力がかかったものだ。

またドル金利には低下圧力がかかっている。話がそれるが米国では市場安定の向けてバーナンキ連銀議長・ポールソン財務長官・ドッド銀行委員長が3者会談を行い、市場安定のために何でもしようと話合っている。これを見ると世界で一番独立性が高い中央銀行である連銀もこう動くのか?という気もするが、ここにアメリカの危機管理の本質が見える。つまり緊急時には権限を集中して問題解決にあたるという危機管理の本質である。

話は横にそれたが、連銀が政策金利を引き下げる可能性はかなり高くなったと市場参加者は見ている。一方円金利については8月の利上げはないから、ドル円金利差は縮小方向に向いている。

外為市場のもう一つの参加者は日本の個人投資家だ。JPモルガンの佐々木氏によると、証拠金取引を通じて個人が円を売りたてている額は7兆円に上る。証拠金取引は通常証拠金の10倍程度の取引を行うから、7千億円位が証拠金になっている訳だ。多くの個人トレーダー達は115円のストップ・ロス・リミットにかかり、証拠金を失ったと考えられる。

問題は個人トレーダーが再び円売りに向かうかどうかだ。私見では110円を越えて大きく円高になると売りが出るが、現在のレベルでは円は売りにくいと見ている。

もう一つ気になる個人の動きは投資信託を通じて外債・外株を購入している個人の動きだ。高金利通貨の外債をダイレクトに購入している個人もこの中に含めてよいだろう。これらの投資家は長期資金を投入しているので、目先の為替相場の動きで解約に走ることは少ないだろうが、欧米の金利が低下してインカム収入まで下落してくると解約の動きがでるかもしれない。これは円高要因なのだが、そこまでは現時点では読み難い。

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深刻なアジアの人材不足

2007年08月21日 | 国際・政治

昨日(8月20日)中華航空機が那覇空港に着陸し駐機後、炎上するという事故があった。不幸中の幸いは人身事故がなかったことだ。事故原因はこれから解明されることになるが、気になることは中華航空というエアラインは過去から事故が多いということだ。事故の多さの原因として私はベテランのパイロットや整備員の不足やトレーニングの不足があるのではないか?と推測している。最近読んだエコノミスト誌によるとアジアではパイロット等のプロフェッショナルが恒常的に不足しているということだ。プロフェッショナルの不足は成長の大きな障害となるとともに、大きな事故の要因にもなりうる。エコノミスト誌のポイントは以下のとおりだ。

  • アジアでは規制緩和とともに多くの新しい航空会社が設立され、需要を満たすべく航空会社は新しいサービスを提供している。しかし同時にひどくパイロットが不足している。ボーイング社の民間パイロット・トレーニング学校もAlteonトレーニングによると、インドでは現在3千人以下のパイロットしかいないが2025年までには1万2千人以上のパイロットが必要になる。中国では航空旅行の増加に追いつくだけでも年間2千2百人のパイロットが必要であり、これは2025年までに4万人のパイロットを必要とすることを意味する。
  • しかし大手エアラインでも、年間数百人のパイロットを教育するので手一杯で、お互いにパイロットを取り合っている状態だ。フィリッピン航空は過去3年で75人のパイロットを外国のエアラインに奪われた。
  • パイロットだけでなく「法律家」「会計士」「医師」などの不足も目立っている。中国には12万2千人の弁護士がいるが、これは米国のカリフォルニア州の弁護士の数より7万人少ない。多くのビジネスピープルはカリフォルニアは弁護士が多すぎるというが中国では全く弁護士のいない地方がある。

優秀な幹部社員の不足も大きな問題だ。エコノミスト誌はマッキンゼーの研究を紹介しているが、それによると向こう10年で中国では7万5千人の幹部社員が必要だが、現在のストックは3千人から5千人に過ぎない。

技術のある専門職の不足は「職員の頻繁な退職」と「賃金の上昇」という形で現れる。エコノミスト誌によるとTurnover rateつまり従業員に対する辞める人の割合はアジアのある地域では3割を超えるという。

アジアの急速な経済成長に人材供給が追いついていかない。そこで優秀な人材を企業が高い給料を払って取り合いをする。その結果専門職の給料と離職率が上昇しているというのがアジアの問題で、これが持続的な成長のボトルネックになるとともに、製品やサービスの質の低下につながっている。

多少高くてもJALかANAに乗りますか?とまでいうと偏見が過ぎるとお叱りを受けるかもしれないので、それは読者諸氏のご判断にお任せしましょう。

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