金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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日本よ、脳天気な国防意識を覚ませ

2006年06月22日 | 国際・政治

昨日(6月21日)の日経新聞朝刊「自衛隊イラク派遣」という記事の中に「『日本が攻撃を受ければ、命をかけて守る』(米政府高官)。北朝鮮の核・ミサイル・・などの現実を考えるとこう断言してくれる米国との同盟を強める以外の選択肢は考えづらいのが実情だ」という一文があった。後段は良いとして、日経新聞は前段の「日本が攻撃を受ければ命をかけて守る」という言葉をまともに信じているのだろうか?自分の国ならいざ知らず、東洋の一島国を何の見返りもなくアメリカが命をかけて守る訳がないと考えるのが普通だろう。余り脳天気なことを言って読者をミス・リードしてはならない。ただし相応の範囲でアメリカは日本を守る理由はある。もっとも命をかける訳ではないだおうが。ではアメリカはいかなる理由で日本を守るのか?

現在のアメリカの中東・アジア戦略というのは煎じ詰めれば「中東の原油を無事にアメリカに運ぶ」ということになる。この戦略の中で日本が頼りになるパートナーになっている訳だ。日本が頼りにされているのはその軍事力や経済力だけではなく、優れた医療技術・施設である。万一極東地区で戦闘が起こった場合、戦傷者に米国並みの高い治療を行なうことが出来る国は日本以外にない。故に日本は米国に頼りにされている訳である。

ところで北朝鮮がテポドン2の発射準備をしていることが、大きな問題になっている。昨日の日経新聞の馬鹿さ加減には呆れたが、今日一面を使ってテポドン問題を外交面の駆け引きから論じている姿勢は評価できる。もっとも国防意識が欠如しているのか量の割には内容は乏しいが。

興味のある問題は「北朝鮮が本当にテポドン2に液体燃料を充填したかどうか?」というところだ。日経新聞は「北朝鮮が米国に見られることを前提にミサイル発射準備を行ない、危機を煽って相手の譲歩を引き出す」作戦ではないかと述べている。エコノミスト誌によれば日本の軍事アナリスト達は、北朝鮮のテポドン2発射準備はブラフであるという見解を取っているということだ。

燃料充填という問題は日本の防衛上極めて大きな意味を持つ。2004年3月に防衛研究所は、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を前提として、わが国に向けて発射準備をしているミサイル基地を攻撃することが法的にも可能と指摘している。http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2004/pdf/200401_2.pdf

現在の日本のミサイル防衛体制(BMD Ballistic Missile Defence)は、スタンダードミサイル(SM-3)を装備したイージス艦と航空自衛隊のパトリオットミサイルで構成される。しかし北朝鮮から日本への弾道ミサイルの到着時間は7分程度であり、ミサイルの発射を早期に探知する早期警戒衛星等を手当てしないと十分な迎撃体制が整わない。ただしこれらを含めたミサイル防衛体制には1兆円位かかるという話もあり大変な問題だ。もっともそれをもってしても総ての弾道ミサイルを打ち落とせるという保証はないと見るべきであろう。

因みに国防予算の点でいうと、日本の年間軍事費は443億ドル(5兆円程度 他国比較のためCIAのデータを使った)、北朝鮮の年間軍事費は50億ドルと日本の8分の1程度だ。仮に防衛体制を一層強化することになると、日本の国防予算は北朝鮮の10倍にもなるだろう。この10倍もの予算を使ってなお絶対安全といえないのでは、何か考え方に問題があるのではないだろうか?

つまり発射されたミサイルを迎撃するという狭い意味の専守防衛では限界があり、ミサイル発射の準備段階を叩くということまでを専守防衛の範囲に変えないといくら国防予算を使っても実効が上がらないことになる。

冒頭に「日本が攻撃を受ければ命をかけて守る」という米国政府高官の言葉を引用したが、日本と米国では北朝鮮から距離が違う(つまりミサイルの飛んでくる時間が違う、また長距離を飛ばすため着装する弾頭が異なる)ので、米国と日本では北朝鮮のミサイルの脅威の度合いが異なる。悪くいうと米国は日本をイージス(因みにイージスとはゼウスが娘アテナに与えた総ての邪悪をはらう盾である)として見ているかもしれない。結局自分の国は自分で守るしかないのである。

ここで老子の有名な言葉を引用しておこう。「兵は不祥の器にして君子の器にあらず。やむなくしてこれを用う」

北朝鮮のようなならず者国家が存在したり、テポドンを宇宙衛星用ロケットではないか?ととぼけたことを言っている隣国がある限り、平和を守るためには実効性のある国防体制を取らなければいけない。より具体的に言えば、赤外線探査装置付の偵察衛星と地対地・艦対地ミサイルを実装し、北朝鮮がミサイル発射の具体的準備に入った時事前にこれを叩くという体制を構築する必要がある。それ以外に有効な国防体制はないようだ。

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1 コメント

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はじめまして。はじめてコメントします。 (naka)
2006-07-10 14:31:11
はじめまして。はじめてコメントします。
アメリカが日本を命をかけて守るはずがないという点について、私も従来そう思っていましたが、最近少し考えが変わりました。
アメリカは命をかけて日本を守ると思いますよ。ただ、自国を守る気概よりワンランクしたではあると思いますが。理由は、日本はアメリが世界に覇権を唱えるための最重要の拠点であること。アメリカは日本に大量の弾薬と燃料を備蓄していますし、日本の地政学的な位置付けからも、日本なしには仮想敵国と戦えないのです。また、日本がアメリカの財政を支えていることもあります。
 ただ、アメリカが戦ってくれるから防衛をアメリカまかせにしていいわけがありません。北のミサイル基地をたたける能力を持つなど、自国の最低限の防衛能力は持つべきです。兵器の能力というよりも、国全体のシステムが国防を考えていないのが、日本の特殊性だと思います。
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